〈MD生産終了〉時代の狭間で一世風靡したMDがついに終焉…懐かしオーディオプレイヤーに惜しむ声も

2025年2月28日、ソニーは1992年に発売開始して日本の音楽シーンで一世風靡したMD(ミニディスク)の生産を終了した。「次世代オーディオ機器」として1990年代に一時代を築いたが、サブスクなどデジタル音楽の普及により需要が減少した結果となる。

カセットテープに代わる画期的なオーディオとして誕生

四角いクリアなケースからのぞく、小さなCDのような円盤。それがMDです。手のひらサイズのプレーヤーにイヤホンをつけ、歩きながらロック、渋谷系、ダンスミュージックを楽しんでいた方もいるでしょう。

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自分だけのプレイリストを作って楽しむのが醍醐味だった。

MDは1990年代の日本の音楽文化を支えたメディアでしたが、2025年2月末、ついにソニーによる生産が終了しました。SNSではMD文化の終了や当時を懐かしむ声など、さまざまなコメントがポストされ、日本人の記憶の中にMDが色濃く根付いていたことがわかります。

筆者自身、当時のMDウォークマンや、MD付きカーステレオにはお世話になりました。ラジオをエアチェックしてまとめた自分だけのJ-POPベスト集を鳴らしながら、失恋を悔やみ、泣きながらウイスキーのボトルをラッパ飲みしつつ、シャ乱Qの『ズルい女』を絶唱する友達を助手席に乗せ、首都高を何周もしましたっけ…。あれは控えめにいって地獄だったなあ。

いまや音楽といえばスマートフォンで聴く時代ですが、MDは当時の私たちにとってどんな存在だったのか、振り返ってみましょう。

MDが生まれたのは1992年。再生・録音が可能なメディア&プレーヤー/レコーダーとして登場しました。規格を制定したソニーの目的は“カセットテープに代わる次世代オーディオ”。というのもカセットテープには、キュルキュルっとテープを早回しor巻き戻ししなければ頭出しできないという、大きな欠点があったんですね。

なおCDが登場したのは1982年。以後CDは、カセットテープと同じように収録曲の頭出しが面倒だったLPレコードから、世界中で市場を一気に奪い取っていきました。今すぐ聞きたい曲をボタン1つで呼び出して、秒で再生できるデジタルオーディオの技術。

音質面で比較すると劣る部分はあれど、音楽をアナログからデジタルにすることでのメリットが強く求められた時代。同様の扱いやすさを持つMDも、デファクトスタンダードな音楽メディアになるだろう。と誰もが感じていたでしょう。

日本ではMD、海外ではDCC(デジタルコンパクトカセット)

カセットテープや、カセット型のウォークマン、ラジカセの売れ行きが鈍化するなか、MDという新しいパーソナルオーディオに、市場全体が期待していた節もありました。ソニーだけではなく、他のオーディオメーカーやメディアメーカーもMD製品を手掛けていき、レコード会社からはさまざまなアーティストのMDアルバムが多く発売される。

家電ショップやレコードショップではハードもソフトも華やかに展示されるようになり、事実、1990年代の日本で受け入れられていきました。

こういったことからMDは大きなシェアを取った…かのように感じますが、実は海外では、いまいち浸透しなかった。

海外で浸透しなかったMDのライバルとなったのは…
海外で浸透しなかったMDのライバルとなったのは…

CD開発においてソニーのよき協力者だったフィリップスは松下電器(現パナソニック)と手を組みDCC(デジタルコンパクトカセット)を展開し、MDとDCCによるシェア争いに発展。VHS vs βのようなプラットフォーム戦争が起き、ヨーロッパ圏ではDCCのほうに人気が集まっていたと聞きます。

またアメリカでは、ラジオをエアチェックして、オリジナルのベスト盤を作るといったチマチマした作業を好まなかった。ゆえにCDでいいし、なんなら(音質は二の次で)CDからダビングしたカセットテープでいい、という流れが主流だったそうですよ。

結果として、DCCは”音質はいいけど高価”かつ”頭出しに時間がかかる”ことからMDに敗れ、1997年には松下電器もMDのグループに入ります。ここからMDが広まるのか!と思った方、これはある意味フラグです。だって1998年には次の大波がやってきたのですから。

そうです。MP3プレーヤー、iPodなどのポータブルオーディオプレーヤーです。

パソコンを使う必要があったため、当初はPC大好きギークのおもちゃというスタンスだったものの、数多くのメーカーが次々と参入、ソニー自身も1999年にメモリースティックウォークマンを発売しています。そして2001年、アップルのiPodが発売されたことで、状況は一変しました。

MDブームの終焉

カセットテープを置き換えるものとして生まれたMDは、1枚あたりの録音時間が60/74/80分と定められていました。

後期には2~4倍の録音が可能なモデルも登場しましたが、メディアの入れ替え不要で、手のひらサイズの筐体1つにアルバム何枚分もの曲を保存でき、さらに自分だけのプレイリストをいくつでも作成できるポータブルオーディオプレーヤーのほうが利便性に優れていました。

そりゃあ、民意も得られるってヤツです。

そんなポータブルオーディオプレーヤーも今や影を潜め、音楽再生機器は前述したようにスマートフォン一強時代。音楽そのものもメディアの存在が消え、サブスクリプションのストリーミング全盛期です。諸行無常です。

いまやレトロ感すら漂う
いまやレトロ感すら漂う

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こうして1990~2000年代のパーソナルな音楽リスニング環境をまとめると、MDは狭間にある存在のように見えます。1990年代初頭のデジタルの利便性を追求した結果、あとから生まれたデジタルオーディオ規格や再生システムに上書きされてしまうのは、ある意味仕方のないことでしょう。

それでもカセットテープから、現代のプレイリストに連なる“美味しい曲だけまとめました”という楽しい文化のバトンを繋いでくれた存在ですし、カードサイズで1時間ほどのストーリーを耳で追えるメディアとしての価値もある。

ビンテージなガジェットとしても魅力は残るでしょう。特に録音可能なMDメディアはカラフルで、キラキラとしているから、音楽の思い出を残すブックマークとしてぴったりな存在ですから。

文/武者良太 写真/shutterstock

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