「これだけ大きな規模の地震、それに津波がくるということは、きっとみなさんは知らなかったと思います」…京大名誉教授が明かす震災のリスクとは?

東日本大震災によって日本列島は地震や火山噴火が頻発する「大地変動の時代」に入った。その中で、地震や津波、噴火で死なずに生き延びるためには「地学」の知識が必要になる。京都大学名誉教授の著者が授業スタイルの語り口で、地学のエッセンスと生き延びるための知識を明快に伝える『大人のための地学の教室』が発刊された。西成活裕氏(東京大学教授)「迫りくる巨大地震から身を守るには? これは万人の必読の書、まさに知識は力なり。地学の知的興奮も同時に味わえる最高の一冊」と絶賛されたその内容の一部を紹介します。

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千葉県の沖合は地震の巣

ここまでは南海トラフ巨大地震や首都直下地震を中心に見てきたけれど、ほかの地震はどうでしょうか? 千葉県沖の質問をいただいています。

――九十九里浜一帯に大津波があった痕跡があります。これは今後の地震と関係がありますか?

これはかなりマニアックな良い質問ですね。たしかに千葉県の沖合は地震の巣です。茨城県の沖合もそうですね。マグニチュード8クラスの地震が起きている。

九十九里浜の大津波の痕跡は1677年の延宝房総沖地震でできたものです。マグニチュード8.0という大地震が起きて、陸に到達した津波の高さは最大17~18メートルだったと言われています。堆積物を調べたら何と17メートルだったという論文があるんですね。

とにかく少なくとも10メートルクラスの津波だった。

ちなみに地理的には、これは東日本大震災に関わるもので、南海トラフ巨大地震とは直接的な関係はありません。

ここでお伝えしたいのは、“東日本大震災はまだ終わっていない”ということです。地震後30年ぐらいは地震を起こしたり、津波を起こしたりします。まだ、あと20年ぐらいありますからね。

実際、直下型地震は最近増えた気がしませんか? 茨城県沖や宮城県沖でも地震があるでしょう。

そして、いま問題になっているのは北海道沖です。東日本大震災の起こった三陸沖の北側は北海道の千島列島にかけてマグニチュード9クラスの震源域があります。

そのエリアは日本列島の太平洋岸の北側ですが、同様のことが南側に起きても不思議はないし、規模も同じように大きなものになります。すると地震が起きるのは房総半島、九十九里浜沖です。

ただ、そこは延宝房総沖地震の発生以降、大きな地震が起きていない。起きる可能性はあって、いつ起きるかはわからないという状況です。

未来に起きる二つの地震

千葉県から北上して東北地方、北海道も確認してみます。いま、そのエリアは想定外になっていますが、想定外をできるだけ想定内にしたいのです。実はこのエリアでも想定されている地震があって、それは日本海溝地震と千島海溝地震です。

まず2011年の東日本大震災は東北沖で起きました。それで次に起きると想定されている日本海溝地震の震源域はその北側にある日本海溝、千島海溝地震はさらにその北にある千島海溝の一部です。

規模は東日本大震災よりちょっと大きい。日本海溝地震はマグニチュード9.1、それから千島海溝地震がマグニチュード9.3です。

津波は岩手県宮古市で高さ29.7メートル。南海トラフ巨大地震は高知県で34メートルとされているから、ほぼ同じ規模の高さ30メートルに近い津波がくるわけですね。

経済的な被害はそれぞれ31兆円、17兆円と予想されています。ちなみに東日本大震災の直接的な被害は16.9兆円です。僕たちは間接的な被害を考慮して約20兆円としているけれど。日本海溝地震はその5割増し、それから千島海溝地震はほぼ一緒です。

これだけ大きな規模の地震、それに津波がくるということは、きっとみなさんは知らなかったと思います。研究者以外はあまり知らない情報ですが、これらの地震に関しても被害のシミュレーションをして、概要の把握はだいたい終わりました。

貞観地震の衝撃

あとはどういうふうに災害対策をするかで、いまはそのステージにあります。多分、立法化して、南海トラフ巨大地震と同じような災害対策をすることになると思います。

ただ相対的な人口が少ないから、そういう意味で予算としては少ないでしょうね。でも、やはり起きる災害で、地面の揺れや津波は半端ないので、十分な警戒が必要です。

日本海溝地震、千島海溝地震に相当する前回の巨大地震は慶長三陸地震で、発生したのは1611年で東日本大震災のちょうど400年前です。もう400年以上経過しているから、やはり警戒してくださいということです。

ちなみに東日本大震災は1000年ぶりと言っているけれど、最近の研究では、2011年の大震災の前にも大きな地震があった可能性が示唆されています。だから1000年ぶりじゃなくて500年ぶりかもしれない。これからも歴史的に大きな地震があったという事実が見つかる可能性もあります。

でも、このエリアで有史上の最大の地震は、やはり1000年前の貞観地震であることは変わらないでしょうね。

貞観地震は平安時代前期の869年に日本海溝付近の海底を震源域として発生しました。大規模な津波を伴った巨大地震で、規模はマグニチュード9クラスと考えられています。なお延喜元年(901年)に成立した史書『日本三代実録』には地震災害に関する詳しい記述があります。

雪や噴火のリスクも考える

それから、このエリアでの地震はどのような被害があるかというと、基本的には南海トラフ巨大地震などの大きな地震と同じですが、さらに気候を考慮する必要があります。寒冷地だから、雪に対するリスクが増えるんです。

たとえば冬は雪が積もることで、共振動による家屋の全壊率が高くなる。わかりやすく言うと雪の重みのぶん建物が壊れやすいというわけです。

ちなみにこれは火山の噴火も同じで、火山灰の上に雨が降ると、漆喰のように屋根や壁にベタッとくっつきます。そうすると屋根にそれだけの重みが加わるので、木造家屋が倒壊するケースが増えるわけ。これは実際にフィリピンのピナトゥボ火山の1991年の噴火で起きました。

ということで、南海トラフ巨大地震については直接的な被害がない東北地方や北海道に住んでいる人も地震に対する準備が必要ということです。

参考資料:【京大名誉教授が教える】首都直下地震で「最も被害が大きいと予想されるエリア」とは?

(本原稿は、鎌田浩毅著大人のための地学の教室を抜粋、編集したものです)

鎌田浩毅(かまた・ひろき)

京都大学名誉教授、京都大学経営管理大学院客員教授、龍谷大学客員教授
1955年東京生まれ。東京大学理学部地学科卒業。通産省(現・経済産業省)を経て、1997年より京都大学人間・環境学研究科教授。理学博士(東京大学)。専門は火山学、地球科学、科学コミュニケーション。京大の講義「地球科学入門」は毎年数百人を集める人気の「京大人気No.1教授」、科学をわかりやすく伝える「科学の伝道師」。「情熱大陸」「世界一受けたい授業」などテレビ出演も多数。ユーチューブ「京都大学最終講義」は110万回以上再生。日本地質学会論文賞受賞。


「科学の知」を活きた知識に――著者より

最近の日本では地震や噴火がとても多い。皆が不安を抱いている一方、これが2011年に起きた東日本大震災(いわゆる「3.11」)と関係があることを知る人は少ないのが実情です。

本書でも解説したように、地震と噴火が頻発するのは「3.11」によって地盤に加えられた歪みを徐々に解消しようとしているからです。日本列島は千年ぶりの「大地変動の時代」がはじまったため、今後の数十年は地震と噴火は止むことはない、というのが私たち専門家の見解なのです。

「これだけ大きな規模の地震、それに津波がくるということは、きっとみなさんは知らなかったと思います」…京大名誉教授が明かす震災のリスクとは?

これに加えて、近い将来に6800万人を巻き込む激甚災害が控えています。首都直下地震、南海トラフ巨大地震、富士山など活火山の噴火が、いずれもスタンバイ状態にあります。こうした喫緊の事実を高校で学ぶ機会がなくなったことは、国民的損失以外のなにものでもないのです。

「これだけ大きな規模の地震、それに津波がくるということは、きっとみなさんは知らなかったと思います」…京大名誉教授が明かす震災のリスクとは?

そこで私は「いまからでも決して遅くない」と説きます。それには先達がいたのです。約150年前の明治初期、福沢諭吉は『学問のすゝめ』を刊行しました(初版1872年)。欧米の近代的思想を身につけ、自覚ある市民として意識改革することを力説した名著ですが、文章は平易にして情熱に満ちており全国民の10人に1人が買ったといいます。私の気持ちも福沢とまったく同一です。

すなわち、いまから約十年後に迫る南海トラフ巨大地震=「西日本大震災」から、「地学」の力で1人でも多くの命を救いたいからです。

「これだけ大きな規模の地震、それに津波がくるということは、きっとみなさんは知らなかったと思います」…京大名誉教授が明かす震災のリスクとは?

もう一つ、地学は「おもしろくて、ためになる」科目でもあります。このフレーズは戦前に雑誌『キング』『少年倶楽部』を出版した講談社がつくったものです。私もその方針で本書を執筆し、文系読者が苦手な数式や化学式をほとんど用いませんでした。

実は、世の中にはためにはなっても面白く読めない理系本が多いのですが、そもそも学校に憂鬱な思い出しかないのは、「たしかにためにはなるかもしれないが、全然面白くなかった」からではないでしょうか。ここを打破しようと、私は教室で真っ赤な革ジャンを着てマグマを語り、横書きの学術論文から縦書きのサイエンス入門書へと発信メディアを変えました。

「これだけ大きな規模の地震、それに津波がくるということは、きっとみなさんは知らなかったと思います」…京大名誉教授が明かす震災のリスクとは?

通例、大学の理系科目では数式が並ぶ横書きの教科書を使いますが、それでは初学者の興味をつなぐことは難しいからです。結果は上々で、閑古鳥が鳴いていた講義は立ち見が出るまでになりました。そして自称「科学の伝道師」が誕生。京大で教えるようになってから24年間、「ヘンな教授」で押し通してきたのです。

とはいえ、私はなにも使命感に燃えているだけの地学者ではありません。そもそも私が地学に惹かれたのは、25歳の駆け出し研究者のころ、地球の美しさに心底、感動したからです。広々とした九州の火山で、風を感じ、土の匂いを嗅ぎ、大地を直接肌で受けとめながら山をひたすら歩きまわっていました。五感のすべてを使いながら地球の成り立ちに考えをめぐらすことには、なにものにも代えがたい心地よさがあったのです。「地学を一生続けていきたい!」と思った瞬間でもあります。

そうした地学という学問そのものの魅力も、本書でみなさんに伝えたいのです。

「これだけ大きな規模の地震、それに津波がくるということは、きっとみなさんは知らなかったと思います」…京大名誉教授が明かす震災のリスクとは?


■新刊書籍のご案内

「これだけ大きな規模の地震、それに津波がくるということは、きっとみなさんは知らなかったと思います」…京大名誉教授が明かす震災のリスクとは?

大人のための地学の教室
鎌田浩毅 著
定価1980円(本体1800円+税)

☆「いま読むべき本」として売れてます! 累計4万部突破!☆
西成活裕氏(東京大学教授)絶賛!
「迫りくる巨大地震から身を守るには? これは万人の必読の書、まさに知識は力なり。地学の知的興奮も同時に味わえる最高の1冊」
高野秀行氏(ノンフィクション作家)推薦!
「日本はいつどこで巨大地震と火山噴火が起きても全然おかしくないという、あまりに恐ろしい科学的事実が面白くわかってしまう。特筆すべきは図版。わかりやすくて、詳細な図版がこれでもかと入っていて、それだけでも購入の価値あり。日本に住む人は必読だろう」

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