「もっきり」とは、升のなかや小皿の上に置いたグラスにお酒をあふれるまで注ぐ、居酒屋さんなどで行われている日本酒の提供スタイルのこと。今回は「もっきり」の概要、由来、量、スマートな飲み方、升のなかのお酒を升のまま飲むときのマナーなどを紹介します。
「もっきり」とはどういうものか、まずはそこから紹介します。
升や小皿にグラスを置いてなみなみと日本酒を注ぐ「もっきり」
「もっきり」とは、升(枡/ます)のなかに置いたグラスに、なみなみとあふれさせてお酒を注ぐ日本酒の提供スタイルのことです。「もっきり酒」ともいわれます。
居酒屋さんなどで見かけるもので、升のなかではなく、受け皿の上にグラスを置いて日本酒を注ぐ場合もあります。
なお「もっきり」は、グラスからあふれた日本酒が升のなかや小皿の上にこぼれるところから、「盛りこぼし」とも呼ばれています。
「もっきり」という言葉の由来は?
「もっきり」という言葉の由来をみていきましょう。
「もっきり」の語源は「盛り切り」?
「もっきり」は「盛り切り」という言葉の読みが時を経て変化したもので、「盛っ切り」と漢字で書かれることもあります。
もととなった「盛り切り」とは、お酒やご飯などを容器に盛っただけでおかわりがないこと、またはその盛ったもの自体を意味する言葉。「盛切」「盛切り」などとも表記されます。
また東北地方では、お酒をなみなみ酒器に注ぐことやコップ酒のことを「もっきり」といったり、酒屋さんで購入したお酒をその店内で飲む「角打ち(かくうち)」などの立ち飲みのことを「もっきり」と呼んだりする場合があります。
角打ちについては、こちらの記事にくわしい情報が載っているので、チェックしてみてくださいね。
酒林 蒼 / PIXTA(ピクスタ)
「もっきり」のルーツは江戸時代に行われていた日本酒の量り売りにあり
「もっきり」の語源である「盛り切り」という言葉のルーツは、江戸時代にさかのぼります。
まだ瓶がなかった当時、日本酒は酒樽に詰められて流通していました。庶民が利用する酒屋さんでは、お客さんが持ってきた「通い徳利(かよいどっくり)」に、酒樽から希望する量のお酒を注いで売る、量り売りの形式でお酒が販売されていて、これを「盛り切り」といっていました。
小売りの酒屋さんで、酒樽から通い徳利にお酒を移し替えるときに使われたのが、漏斗(ろうと)や、もともと計量器であった升で、升に直接お酒を注いで売られることもあったようです。
では、グラスになみなみとお酒を注ぐ今の「もっきり」スタイルは、どのように広がったのでしょう。
ひと昔前、居酒屋さんなどでは、日本酒は1合(ごう/約180ミリリトル)単位で出すのが定番となっていました。そうした常識があるなか、小さめのグラスに日本酒を入れて提供しようとしても1合分が入りきらないことから、升のなかにグラスを置いて、あふれるように注ぎ、量を合わせたのが「もっきり」の始まりとする説など、諸説があります。
「もっきり」は今では、グラスで日本酒を頼んだお客さんに対し、升や小皿にどのくらいお酒をあふれさせるように注ぐか、お店のサービス精神や心意気を表す機会ともなっています。
「もっきり」の量に決まりはない
今の居酒屋さんで提供される「もっきり」の日本酒の量には、とくに決まりはないようです。
小さいものでは容量3勺(しゃく/約54ミリリットル)の三勺枡、大きいものでは容量1升(しょう/約1,800ミリリットル)の一升枡(いっしょうます)があるなど、升にはさまざまなサイズがあります。
グラスや小皿にいたっては千差万別で、サイズもまちまち。
さらに上述のとおり、「もっきり」はどれだけのお酒を注ぐかが、お店の心意気の見せどころであることに加え、提供容量をあえて抑えて多くの種類の日本酒を飲んでもらいたい、好きな一銘柄をたっぷり飲んでほしいなど、それぞれのお店の方針によって酒器の大きさが変わってくることもあるため、一概に「この量」とはいえないのです。
目安としては、升は一合枡(180ミリリットル)、グラスは100ミリリットル前後のものが比較的多いようです。
「もっきり」で日本酒を提供する居酒屋さんなどに行ったときには、注いでくれるお酒の量だけでなく、お店のコンセプトや使用している酒器にも注目してみると、たのしみがより広がることでしょう。
なお、一合枡で使われている「合」をはじめ、「勺」や「升」といった日本酒の単位については、以下の記事で紹介しています。
「もっきり」の日本酒の飲み方はグラスから? 升から?
「もっきり」や升酒の飲み方を紹介します。
やってみたい!「もっきり」をスマートに飲む方法!
「もっきり」で提供された日本酒は、どう飲めばよいのでしょうか。グラスと升、どちらを先に飲めばよいか、ぎりぎりまで注がれているグラスのお酒はすすってよいのかなど、迷うポイントが多そうです。
とはいえ「もっきり」には、飲み方の決まりはありません。自由に飲んで構わないのですが、どうせならかっこよく飲みたいもの。ここでは一度はやってみたい、スマートな「もっきり」の飲み方を紹介します。
まずはグラスを傾けて、なみなみ入っている日本酒を升のなかに少し移します。
次に、グラスのお酒から先に飲みます。
途中でグラスを置く際には、升のなかに置きましょう。いったんテーブルやカウンターの上に置くと、グラスの底に雑菌がついてしまう可能性があります。不衛生になるので、直置きしてしまった場合、その後はグラスを升のなかに戻さず、テーブルに置きましょう。
グラスのお酒が少なくなってきたら、升のなかのお酒をグラスに移して飲むと、見映えよく、テーブルも汚さずスマートに飲むことができるので、ぜひ試してみてくださいね。
升酒をそのまま飲むときのマナーは?
「もっきり」スタイルの日本酒を飲むとき、升に入っているお酒をグラスに移さず、そのまま升酒として飲むのもおすすめです。升が木升なら、木の香りをたのしむこともできます。
升酒を飲むときのお作法を少しくわしくみてみましょう。
まずは、升の持ち方。親指以外の4本の指で升を下から支え、親指は升の縁にかけます。
次に、角ではなく平らな部分の縁に下唇をあてて、静かにすするように飲みます。
こちらの飲み方が正式なマナーといわれますが、お酒がこぼれやすい傾向があります。気の置けない仲間同士の飲み会といったくだけた席では、角から飲んでもまったく問題ありません。
升酒についてもっと知りたくなったときには、こちらの記事がおすすめです。
お店の心意気の表れである「もっきり」では、思わぬ量のお酒を飲んでしまいがち。飲酒量に気をつけ、味わいや香りを堪能しながら、「もっきり」の日本酒をたのしみましょう。
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