「やっぱりマツダは凄い」がわかる! 世界中で色んなメーカーが挑戦した「ロータリーエンジン」の歴史 (1/2ページ)

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マツダ”以外”のロータリーの歴史

 ロータリーエンジンはいまでこそマツダの専売イメージがあるものの、そもそもはフェリックス・ヴァンケル博士というドイツ人エンジニアが作ったヴァンケル・エンジンが発祥です。 のちにヴァンケル博士はアウディの前身だったNSUで開発を続け、マツダをはじめ世界各国の自動車、バイク、農機メーカーなどがライセンス契約を結び、それぞれが独自の開発を進めていったのです。

NSU Ro80のフロントスタイリングNSU Ro80のフロントスタイリング画像はこちら

 それでも、マツダのイメージが強いのは不完全だったヴァンケル・エンジンを独自の技術で完成させ、実用化に成功したからにほかなりません。極論してしまうと、マツダ以外のロータリーエンジンは失敗と撤退の歴史でしかないともいえるでしょう。

 また、現在実用化されているロータリーエンジンはマツダのRE技術があってこそ成り立っているといっても過言ではありません。市販にこぎつけたメーカーも少なくありませんが、ほとんどがREからは撤退していることこそ、ハードルの高さを物語っているのではないでしょうか。

マツダのロータリーエンジン搭載車たちマツダのロータリーエンジン搭載車たち画像はこちら

 とはいえ、ロータリーエンジンの部品点数の少なさ(小型・軽量)低振動、そして同排気量であればピストン往復型エンジンよりも高出力といったメリットは魅力的なものですから、REの可能性を追求するメーカーは現在でも確実に存在しています。

 たとえば、イギリスのAIE社はこれまでREの弱点といわれた製造技術や冷却について、独自のソリューションでもって乗り越えています。彼らは大規模な設備投資が必要とされるシェルモールドの製造に対しては積層造形によって構造そのものを簡素化。製造工程そのものを簡略化することにも成功しています。

 また、おそらくは航空機向け星形エンジンなどにインスパイアされたであろう自己加圧式エアローター冷却システムもいいアイディアです。比較的小型のREに限定されるはずですが、AIE社はそれを逆手にとってドローン向けエンジンとして販売し、それなりの成功を収めている模様。

AIE社のロータリーエンジンAIE社のロータリーエンジン画像はこちら

 この小型RE(40ACS)はさまざまな燃料(ガソリン、JP8、JP5、Jet-A1)に対応しているのも特徴で、先の冷却システムがそれぞれの燃焼温度に適応するという好循環が予想できます。

 冷却について悩んだのはメルセデス・ベンツも同様です。1969年のフランクフルトモーターショーに出品したコンセプトカー「C111」はRE3ローターをミッドシップ、ガルウイング、FRPボディなどすべてが画期的なマシンでした。むろん、ヴァンケル・エンジンを基に独自開発したREで、これまた独自の機械式インジェクションを加えるというチャレンジでしたが、やはり発熱が引き起こすアペックスシールの破損に完全には対応できなかったとされています。

 それでも、翌年には「C111/II」としてエンジンを4ローター化してみせました。これは2ローターのREを2基連結しつつ、出力はエンジン間の垂直軸からとる仕組みとされ、コンパクトながら高出力をアピールするには格好のケーススタディだったといえるでしょう。

メルセデス・ベンツC111/IIのフロントスタイリングメルセデス・ベンツC111/IIのフロントスタイリング画像はこちら

 なお、メルセデス・ベンツは1970年代を襲ったオイルショックがRE撤退の理由だとあげていますが、アペックスシール問題が解決できなかったこと、3ローター向けエキセントリックシャフトを最後まで完成できなかったことが裏の理由だとする説もあります。

 このアペックスシールに苦労していたのは本家本元のヴァンケル博士とNSUも同様で、彼らとタッグを組んだシトロエンも解決することはついにできませんでした。NSUがREを搭載したスパイダーをリリースしたころ、シトロエンも試作車として1969年にはアミをベースとした「M35」を作り、1973年にはGSにRE 2ローターを搭載した「ビロトール」の市販にこぎつけます。

シトロエンM35のサイドビューシトロエンM35のサイドビュー画像はこちら

 が、市販というより試験販売にほど近いもので、数百台がモニターユーザーの手に渡り、一定期間後に「乗り続けるか、返却するか選択可能」というものだったそうです。シトロエンも思い切ったことをしたものですが、やっぱり未完成だったヴァンケル・エンジンは不具合が頻発し、モニターのほぼ全数が返却を選択し、戻されたビロトールはすべてスクラップという憂き目に。

 ちなみに、返却理由は燃費の悪さ、低速トルクの不足、高回転時の焼き付きなどが報告され、ダメなロータリーエンジンの典型といえるものばかりでした。

バイクや船舶用などクルマ以外でもロータリーの可能性を模索

 また、NSUからライセンスを買い取ったのはマツダだけでなく、日産やスズキ、カワサキ、ヤマハ、そしてヤンマーディーゼルといったメーカーも名を連ねていました。

 日産は1972年の東京モーターショーに市販直前という触れ込みで「サニー・ロータリー・プロトタイプ」として出品。500ccの2ローター、ヴァンケル・エンジンそのものを搭載していましたが、やはりオイルショックを理由に撤退。

ロータリーエンジンを搭載した日産サニーエクセレントロータリーエンジンを搭載した日産サニーエクセレント画像はこちら

 スズキはクルマでなく、なんとオートバイに自社開発のロータリーエンジンを搭載して実際に発売していました。欧州専用モデルとされたRE5は497ccシングルローター搭載のマシンで、出力は61.9馬力を発生したとのこと。

 ですが、主に冷却系の補機をこれでもかと装備した結果、車重が230kgという重量級となってしまい、ヨーロッパでも鳴かず飛ばずという結果に。

スズキRE5のサイドビュースズキRE5のサイドビュー画像はこちら

 これを見ていたのか、カワサキとヤマハにしてもプロトタイプ、コンセプトモデルこそ作ったものの、市販に動くことはありませんでした。理由は、やはり設備投資や熱問題が大きかったのではないでしょうか。

 ちなみに、ヤンマーは上述のAIE社と同じく、積極的に自社開発を進めて、世界初のロータリー船外機エンジンを発売しています。後にヤマハと提携しながらロータリーの研究開発を続けて、低振動のメリットを活かすべくREチェーンソーまで作り上げています(これは低速トルク不足で本格的な販売には至りませんでした)。

 なお、バイクでロータリーエンジンというと1921年にドイツで作られたMEGORA(メゴラ)を思い浮かべるマニアもいらっしゃるかと。ですが、こちらは昔の航空機むけ星形エンジンを流用したもので、ヴァンケル系ロータリーエンジンとは別物。昔は星形エンジンのことをロータリーエンジンと呼ぶこともあったための誤解かもしれません。

メゴラのロータリーエンジン搭載バイクメゴラのロータリーエンジン搭載バイク画像はこちら

 もっとも、メゴラの構造はクランクシャフトがフロントアクスルに直結という斬新なエンジンレイアウトで、640ccサイドバルブ5気筒は14馬力を発生し、レース仕様ならば85km/hの最高速を発揮したというなかなかの強者です。

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