人気のコンパクトSUV、トヨタ「カローラクロス」とホンダ「ヴェゼル」の2台。前回は両車の内外装を比較したが、今回は走りや乗り心地に加えて、買い得グレードなどについても比較してみよう。ちなみに、試乗車のパワーユニットは両車ともにハイブリッドで、グレードは「カローラクロス」が「ハイブリッドZ」、「ヴェゼル」は「e:HEV・Z」に試乗した。
動力性能を比較
「カローラクロス」に搭載されているハイブリッドシステムは、1.8L直列4気筒エンジンにモーターを組み合わせた「THSII」。いっぽうの「ヴェゼル」は、1.5L直列4気筒エンジンにモーターを組み合わせた「e:HEV」だ。
両車の動力性能を比較すると、「ヴェゼル」はモーター駆動が中心ということもあって走りは滑らかだ。さらに、搭載エンジンは発電用なのだが、駆動しているかのようにエンジン回転数を上下させるような演出が施されているので、ガソリンエンジン車のように自然な感覚で運転できる。
「ヴェゼル」の走行イメージ
対する「カローラクロス」のハイブリッド「THSII」は、モーターとエンジンの駆動力を効率よく分配するシステムなので、ガソリンエンジン車とそん色ない、自然な運転フィールが特徴的だ。また、動力性能も必要十分だ。
「カローラクロス」の走行イメージ
結論:
「ヴェゼル」はモーター駆動が中心で走りが滑らか
「カローラクロス」は自然な運転フィールで走りやすい
燃費性能を比較
「カローラクロス ハイブリッド」のWLTCモード燃費は、2WDが26.4km/Lで、4WDは24.5km/L。いっぽう、「ヴェゼル e:HEV・Z」は2WDが25.3km/Lで、4WDは21.3km/Lになる。WLTCモード燃費は、2WD、4WDともに「カローラクロス」のほうがすぐれている。
ホンダ「ヴェゼル」(左)とトヨタ「カローラクロス」(右)
特に差が生じるのは4WDだ。「カローラクロス」の場合、4WDの燃費値は2WDの93%に留まるが、「ヴェゼル」は84%にまで下がってしまう。「カローラクロス」で4WDの燃費悪化率が小さい理由は、後輪を前輪とは別のモーターで駆動するE-Fourを採用しているからだ。ハイブリッドシステムを生かした4WDなので、燃費効率にすぐれている。
その点、「ヴェゼル」の4WDはNAガソリンエンジン車と同様、プロペラシャフトを使って駆動力を後輪に伝える方式になる。燃費効率は下がるものの、後輪にも高い駆動力を伝えられる。「ヴェゼル」の4WDであれば、路面抵抗の大きな泥道、雪道の登り坂でもすぐれた走破力を発揮する。
「カローラクロス」は、ハイブリッドシステムに加えて4WDも燃費性能を重視している。「ヴェゼル」のe:HEVは、走行性能や運転感覚に重点が置かれており、4WDも悪路走破力を優先させている。
結論:
「カローラクロス」のほうが燃費がよい
走行安定性と乗り心地を比較
「カローラクロス」のサスペンションは、前輪についてはすべて独立式のストラットだが、後輪側は駆動方式によって異なる。2WDは車軸式のトーションビームで、4WDは独立式のダブルウイッシュボーンだ。このようなレイアウトの違いもあって、4WDは2WDに比べると少しよく曲がる印象で、乗り心地も快適に感じられる。
「カローラクロス」の走行イメージ
いっぽう、「ヴェゼル」のリヤサスペンションは全車が車軸式だが、2WDはトーションビームで、4WDはド・ディオンアクスルになる。ステアリング操作に対する反応は穏やかで、機敏に曲がるスポーティーな性格ではないが、直進安定性は良好で乗り心地は柔軟だ。「カローラクロス」は適度によく曲がるセッティングによってスポーティーな走りを楽しめて、「ヴェゼル」はリラックスできる運転感覚と乗り心地に仕上げられている。
「ヴェゼル」の走行イメージ
結論:
「カローラクロス」はスポーティーな走りを楽しめる
「ヴェゼル」はゆったりとした乗り心地でリラックスできる
買い得グレードを比較
「カローラクロス」のパワーユニットは、2L直列4気筒のNAガソリンエンジンと、1.8Lをベースにしたハイブリッドの2種類だ。それぞれの売れ筋グレード同士でパワーユニットの価格を比べると、ハイブリッドはNAガソリンエンジンに対しておよそ35万円の上乗せになる。この価格差は、マイルドタイプを除いたフルハイブリッドではかなり小さい。
「カローラクロス」のエンジンルーム
しかも、ハイブリッドは購入時に納める税額が約14万円安く、実質価格差は約21万円に縮まる。レギュラーガソリンの価格が1L当たり170円と仮定すると、5~6万kmを走れば実質価格差の21万円をガソリン代の節約によって取り戻せる。「カローラクロス」の買い得グレードは、「ハイブリッドS」(298万円/2WD)だ。
「ヴェゼル」のパワーユニットは、1.5L直列4気筒のNAガソリンエンジンとハイブリッドのe:HEVの2種類になる。注意したいのは、NAガソリンエンジンを搭載するグレードは、装備がシンプルな「G」の4WDのみになることだ。さらに、「G」には2WDはラインアップされていない。そのため、「ヴェゼル」で選ぶべきパワーユニットは、基本的にハイブリッドの「e:HEV」になる。
「ヴェゼル」のエンジンルーム
「ヴェゼル」で最も推奨したい買い得グレードは、「e:HEV・Z」(319万8,800円/2WD)だ。価格は少々高めだが、装備も充実している。後方の並走車両を検知して知らせてくれる安全装備の「ブラインドスポットインフォメーション」や、ハイビーム時に対向車などの眩惑を抑える「アダプティブドライビングビーム」、ハンズフリー機能を採用したリヤゲートの電動開閉機能、18インチアルミホイールなどの上級装備が標準装着されている。
「カローラクロス」と「ヴェゼル」の買い得グレードを比べると、「ヴェゼル e:HEV・Z」のほうが21万8,800円高いが、前述のとおり「ブラインドスポットインフォメーション」などが標準装備されている。「カローラクロス ハイブリッドS」では、「ブラインドスポットインフォメーション」などが12万2,100円のオプション設定になり、リヤゲートの電動開閉機能は最上級のZでなければ装着されない。これらの違いを考慮すると、装備と価格のバランスは同程度と言えそうだ。
なお、「ヴェゼル e:HEV・Z」の価格が高いと感じたのなら、装備をシンプルに抑えてデザイン面で野性的な印象を強めた「e:HEV ハントパッケージ」(299万8,600円/2WD)も検討するとよいだろう。同グレードは、価格が300万円をギリギリで下まわることからもわかるとおり、「ヴェゼル」の売れ行きを増やすために追加設定された。したがって、外観は個性的で価格は少し安く抑えられている。
結論:
「カローラクロス」は「ハイブリッドS」、「ヴェゼル」は「e:HEV・Z」が買い得
まとめ
両車の推奨ユーザーを考えると、「カローラクロス」は実用重視の人におすすめのクルマだ。全長が4,500mm以下のコンパクトSUVとしては、後席を立てているときの荷室が最も広く、ファミリーカーに適している。また、燃費性能が「ヴェゼル」よりすぐれていることも特徴的で、長距離を移動する機会の多いユーザーにも適している。
「ヴェゼル」は後席の広さが特徴的で、インパネ周りの内装なども上質だ。「カローラクロス」ほど広くはないが、荷室の使い勝手もよく4名で乗車する機会の多いユーザーにピッタリだろう。
両車とも、前輪駆動をベースにしたコンパクトSUVでハイブリッドがメインになるが、クルマの個性や推奨ユーザーはそれぞれ異なる。これまでお伝えした点を踏まえて、選び分けるとよいだろう。
(写真:島村栄二)
- Writer 渡辺陽一郎
- Editor 桜庭智之(編集部)
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