「テスラ失墜」イーロン・マスク万策尽きたか、トランプ政権参加で米国人の7割が否定的

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カリフォルニア州サンディエゴにあるテスラショールーム(Photo by Kevin Carter/Getty Images)

米電気自動車(EV)大手テスラが4月22日に発表した2025年第1四半期(1〜3月)決算は、過去4年間で最悪の内容だった。売上高は、前年同期比9%減の193億3500万ドル(約2兆8000億円)、純利益は前年同期から71%も急落し、4億900万ドル(約590億円)に縮小した。同社は、関税や不安定な市場環境を理由に、今年の残りの販売目標を提示することすらしなかった。

しかし、テスラの株価はその後の数日で10%近く上昇した。投資家が歓喜したのは、ただ一つの理由からだ。それは、イーロン・マスクがトランプ政権の政府効率化省(DOGE)の仕事からまもなく身を引き、本格的にテスラの経営に戻ると明言したことだ。

だが、それは投資家が期待するような万能薬ではない。テスラが直面している問題は、マスクの政治への関与で悪化している。彼がCEOとしての仕事に再び注力しても、利益率の低下や競争の激化、ブランドイメージの失墜などといった問題がすぐに解消する兆しはない。

さらに悪いことに、マスクがこれらを解決するアイデアを出し尽くしたことは明らかで、彼はその代わりに、ロボタクシーと人型ロボット(ヒューマノイド)という不確実な未来に焦点を当てている。

現時点でテスラが利益を得ているのは、自動車と蓄電システムの販売だが、二つの事業は共に苦境に直面している。モデルYやモデル3といった大ヒット車の後継モデルは存在せず、最新モデルのサイバートラックは、自動車業界史上最大級の失敗作の一つとなっている。さらにトランプ政権による新たな関税が、業界全体に冷や水を浴びせると予想されている。特にテスラにとって痛手なのは、中国から輸入されるバッテリーセルに対する145%の関税で、これは前四半期の数少ない明るい材料であったバッテリーパック事業を直撃する。

米国人の7割がテスラに否定的

とはいえ、一部の問題は以前から予想されていた。マスクの政治活動は1月20日にトランプが大統領に復帰して以降、さらに活発化したが、彼が右派の陣営に接近し、SNSで過激な発言を続けるようになったのは1年以上前からだ。特にカリフォルニア州や欧州の重要市場において、テスラのブランドイメージに悪影響を与えていた。

マーケット大学ロースクールが先月実施したものを含む複数の世論調査で、回答者の60%がマスクに否定的な印象を持ち、58%が彼のDOGEへの関与を支持しないと回答した。YouGovとYahooニュースによる4月の調査では、67%のアメリカ人が「テスラを購入・リースすることを考えない」と回答し、その主な理由としてマスクの存在を挙げていた。

そして、たとえマスクがオースティンに本社を置くテスラの仕事に費やす時間を増やしたとしても、彼は依然としてスペースXやX(旧ツイッター)、ボーリング・カンパニー(トンネル掘削企業)、ニューラリンクの業務を統括しており、それと並行して「14人以上の子どもたち」の父親の仕事もこなしている。彼の手は、DOGEに関与する以前からすでに一杯だったのだ。

「ゾンビ化」するテスラ

テスラが直面する最大の課題は、第1四半期に13%も落ち込んだEV販売の減少を食い止めることだ。そしてさらに深刻なのは、同社の自動車部門の収益が20%も落ち込んだこと。これはテスラ車の販売台数が減っただけでなく、価格も下がったことを意味している。また、今期の純利益の4億900万ドル(約590億円)のすべてはカーボンクレジットによるもので、これは言わば米国やカリフォルニア州、EUの環境規制を満たすための他の自動車メーカーの支払いから得た「ただでもらった金」なのだ。テスラは四半期中に5億9500万ドル(約850億円)分のクレジットを売却したが、これがなければ赤字になっていた。

同社が売上の不振を立て直すための最も単純かつ明白な手段は、新モデルの投入だ。しかし、マスクとそのエンジニアたちはそれを選ばず、2020年と2017年に発売されたモデルYとモデル3の「リフレッシュ版」をより安価に提供するための準備を進めている。これは、従来の自動車メーカーが行う「フルモデルチェンジ」ではなく、新しいライトバーやよりシャープなヘッドライト、空力に優れたホイールなどの小規模な刷新にとどまるという。

テスラはこの戦略で販売に一時的な刺激を与えるかもしれないが、長期的な勝ち筋とは言えない。多くの自動車メーカーが定期的に新型車を出すには、理由があるのだ。調査会社GMオートモーティブを率いるグレン・マーサーによれば、大幅なデザイン変更の方が通常は良好な成果を生むという。「古い車種を長期間、外装の変更なしで市場に残し続ければ、それはゾンビのような存在になりかねない」と、マーサーはフォーブスに語った。

そんな中、急成長する中国のEVメーカーの中でも特にBYD、そして米国のGM、リビアン、韓国の現代自動車や起亜自動車、さらには日本のホンダなどのライバルたちは、新型モデルを出し続けている。テスラの市場シェアが、3年前の75%から直近の43%にまで落ち込んでいるのも無理はない。

マスクは数年前まで、「2030年代終盤までに年間2000万台のEVを販売する」と豪語していた。だが現在、彼はその目標をひっそりと取り下げ、代わりにロボタクシーやAIサービス、作業ロボットの販売を柱とする新たなビジネスモデルに舵を切っている。

「この会社の未来は、大規模な自律走行車と大量のヒューマノイドにある」と、マスクは4月の決算発表で語った。

それが本当だとしても、テスラがそれを実現できるという証拠は提示されていない。ロボタクシー分野における事実上のリーダーは、Googleの親会社である米アルファベット傘下のウェイモだ。同社は、テスラが計画するものよりもはるかに高度なセンサーと演算能力を備えた車両を使っている。

一方、ヒューマノイドではボストン・ダイナミクスが何年も前から、テスラの不安定な「オプティマス」よりはるかに高性能なロボットを披露してきた。また、短期的な問題としては、マスクが決算説明会で明かしたように、トランプの関税に対する中国の報復によって、ロボット用モーターに必要なレアアース磁石が手に入らなくなることが挙げられる。

「バッテリー事業」も崩壊へ

テスラは、トランプ政権の関税に対しては比較的耐性がある。というのも、同社はカナダやメキシコを含む国外で生産された車両を米国に輸入していないからだ。だが、同社は依然として鉄鋼やアルミニウム、自動車部品などを海外から調達しており、それらのコスト上昇の影響を受ける。特に打撃が大きいのは、EV以外でもっとも成功している事業のエネルギー生成・蓄電部門であり、これは住宅や電力会社、企業向けにバッテリーパックを販売する事業だ。第1四半期のこの部門の売上は、前年同期比67%増の27億3000万ドル(約3900億円)だった。

しかしこのバッテリーパックには、中国製のリン酸鉄リチウムイオン電池(LFP)セルが使われており、今後は中国からの輸入品に対する145%の関税で大きな打撃を受けることになる。テスラは今年、世界最大のEVバッテリーメーカーである中国のCATLとライセンス契約を結び、ネバダ州のギガファクトリーでLFPセルの製造を開始する予定だった。これらはEV用のリチウムイオンセルよりも安価な選択肢となるはずだったが、計画は頓挫した。

「エネルギー事業への関税の影響は、特に大きくなる。というのも、我々はLFPセルを中国から調達しているからだ」と、テスラの最高財務責任者(CFO)のヴァイバヴ・タネジャは決算説明会で語った。「我々は現在、米国内でLFPセルを製造するための設備の立ち上げを進めている。しかし、その設備では、現時点の総設置容量のごく一部しか対応できない」

これはつまり、テスラの大型バッテリーパック「メガパック」が大幅に値上がりすること。さらに、中でも再生可能エネルギー由来の電力を貯蔵するためにそれを購入してきた、電力会社の需要が減少することを意味する。

「米国内では、テスラを含め誰もLFPセルを作っていない。145%の関税は、あらゆる企業にとって価格の上昇を意味する」と、報復を恐れて匿名で取材に応じたテスラのバッテリー事業に詳しい人物は語った。「電力会社は、そんな高価格には耐えられない。これは競争でテスラが負ける話ではない。この場合、市場そのものが消滅する」

長年マスクのファンだったが、今や批判者となった投資会社ガーバー・カワサキを率いるロス・ガーバーは、マスクが政府の業務を減らすとしても、テスラの戦略を立て直すアイデアがあるとはまったく思えないと語る。

「テスラにとって何か劇的に良い変化が起こるとは思えない。問題の解決にはならないんだ」と彼は語った。

forbes.com 原文

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