今年で100周年を迎えたロングセラー商品のボンタンアメ(photo セイカ食品提供)
映画「国宝」の快進撃が止まらない。公開から49日間(6月6日〜7月24日)で興行収入71億7千万円、観客動員数510万人を突破。原作の吉田修一さんによる同名小説(朝日新聞出版)から一貫して描かれているのは、歌舞伎役者が人間国宝となるまでの苦悩だ。今や社会現象になるほどの勢いがあるが、その影響で昔懐かしいお菓子「ボンタンアメ」が飛ぶように売れているという。なぜなのか。
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ボンタンアメといえば、オブラートにくるまれたもちもちとした食感と、さわやかな柑橘の風味を思い出す。発売から、今年で100周年を迎えたロングセラーだ。
そんなボンタンアメを巡って、世間をざわつかせている噂がある。
「ボンタンアメが尿意を抑える」「尿意を忘れてトイレに行かずにすんだ」――。今年になって、都市伝説のような噂がSNSで次々と拡散されたのだ。
映画「国宝」公開後に品薄に
「国宝」の上映時間は2時間55分。すると、この長編映画をトイレに立たずに見たいという人たちが、ボンタンアメに飛びついた。実際、「国宝」が公開されると、スーパーやコンビニはボンタンアメが品薄になるほどだった。
ボンタンアメは糖質が多く含まれていて、一時的に尿意を抑える効果が期待できるという(photo セイカ食品提供)
ボンタンアメで本当に尿意が消えるのか?
そこで、ボンタンアメを製造・販売するセイカ食品(鹿児島市)に聞くと、噂は聞いているが、尿意が消えるという効果に関しては、
「弊社といたしましては、科学的知見を持ち合わせておりません」
やはりただの都市伝説かと思いきや、一概にそうとも言い切れないようだ。
もちもちとした食感と柑橘の甘酸っぱい味が人気のボンタンアメ(セイカ食品提供)
一時的に尿意を抑えることは「あり得るかも」
「科学的根拠はありませんが、一時的に尿意を抑えることはあり得るかもしれません」
そう話すのは、「所沢いそのクリニック」(埼玉県所沢市)院長の磯野誠医師だ。
「ボンタンアメは、原材料に水飴やもち米など糖質を多く含んでいます。これを摂取すると血糖値が上がり血液の浸透圧が高まって、体内の水分が尿として排出されにくくなる可能性があります。また、血液の浸透圧が高まると抗利尿ホルモンの分泌が促され、尿の生成が一時的に抑えられることがあります」
ボンタンアメでなく、大福やアイスクリームといった甘い食べ物でも同じ効果は期待できるという。ただ、ボンタンアメの場合、「ボンタンアメが尿意を消してくれる」という噂が広がっていることもあり、偽薬が効くといういわゆる「プラセボ効果」で、より尿意を感じにくくなっているのだろうと推察する。
食べすぎと膀胱炎に注意を
とはいえ、いくら尿意を抑えるからと信じて食べるにしても、注意が必要という。
「ボンタンアメのようなお菓子は糖質を多く含むので、食べすぎると糖尿病のリスクが高まり、高血圧や肥満などの合併症を引き起こします。食べすぎはよくありません」(磯野医師)
一般の人の排尿の間隔は3時間ほど。トイレが気になる人は、映画の前は少し水分を抑えてもいいかもしれない。ただし、夏場は水分を控えると脱水のリスクがあるので、我慢しないでほしいと磯野医師は注意を促す。
「しかも、尿を我慢すると、特に女性は膀胱炎になりやすく、再発を繰り返すと腎臓に負担をかけてしまいます。映画の途中でも、トイレに行きたくなったら、無理せず行ってください」
トイレかボンタンアメか――。その効果はさておき、トイレを我慢するかどうかは、くれぐれも自己責任で。
(AERA編集部・野村昌二)
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