「人工透析」と言われたら…始める前に知っておきたいこと


「そろそろ人工透析が必要です」と医師から言われたら、「腹膜透析」という選択肢があることを頭に浮かべてほしい。
日本では「人工透析=血液透析」という認識が根強く、腹膜透析についてほぼ周知されていない。
腎機能が十分に働かなくなった患者に対する治療選択肢として、血液透析、腹膜透析、そして腎臓移植がある。
2018年度の診療報酬改定で、腎不全患者に対し各治療を十分に説明することが義務化されたが、「人工透析=血液透析」の現状は大きく変わっておらず、人工透析を受けている人のうち腹膜透析はわずか3%だ。腹膜透析の普及に力を入れる「まつもとクリニック」(鹿児島市)、「川原腎・泌尿器科クリニック」(姶良市)の松本秀一朗医師が言う。

「医療者に腹膜透析の知識が不十分なため、間違った説明がなされている。透析患者数減少により既存の血液透析施設が供給過剰になっており、経営面から血液透析を推したいという医師側の意向もある。結果、患者さんは血液透析に誘導される形になっている」
血液透析は、腕の血管に針を刺し、血管と透析機器をチューブでつないで血液を濾過する。一般的に週3回、1回4~5時間かけて行う。これに対し腹膜透析はお腹の腹膜の機能を使って血液を濾過する。自宅ででき、専用の機械で自動的に透析液を交換する方法(APD)では、透析は就寝中に行われ、日中は自由に過ごせる。
「腹膜透析と血液透析の治療成績はほぼ同じ。しかも、腹膜透析の方がメリットが多い。例えば、腹膜透析の方が血液透析より認知症を発症しづらい。理由のひとつに、血液透析で起こる『内シャントによる脳虚血』が、腹膜透析では起こらないことが挙げられます」
腹膜透析の知識がない医師が間違えて説明している代表的なものとして「腹膜炎になりやすい」がある。しかし、これはすでに否定されている。「長時間継続ができない」ということもよくいわれるが、腹膜劣化を起こさない透析液が開発されたことで、5~10年以上の長期間継続も可能で、高齢者には心配しなくてよいレベルだ。松本医師が診た患者の腹膜透析の最長例は34年。
腹膜透析は患者にとってメリットが多い。

「自立していないと腹膜透析はできない」も間違い。松本医師は多数、超高齢者や多疾患併存・認知症患者に腹膜透析を実施してきているが、訪問看護の活用で、全く問題なくできている。
「腹膜透析は認知症を発症しづらい」と前述したが、それ以外のメリットは、〈表〉の通り。
「血液透析では血圧低下というリスクがあり、透析後の倦怠感が強く、帰宅後はぐったりして動けない方も珍しくありません。それらが腹膜透析ではない。血液透析ではカリウムが体内に蓄積される恐れがあるためカリウムの厳格な管理が必要で、生野菜や果物はほぼ食べられません。しかし腹膜透析では透析液にカリウムが含まれておらず、カリウム除去がしっかりできるので、カリウムの食事制限が不要。生活の質を高く保てます」
若年性認知症のある患者は血液透析のクリニックに通っていたが、針を抜いてしまう恐れがあるため鎮静作用のある薬を投与されていた。認知症が進行し、クリニックから慢性期入院での透析を勧められた段階で家族が腹膜透析という選択肢を知った。松本医師によって、血液透析から腹膜透析へ。寝ている間に透析が行われ、針を刺されることがないので終始リラックスした状態で、鎮静作用のある薬も不要になった。

「アメリカでは血液透析の患者さんに、毎年、医療側が腎移植や腹膜透析を選べない理由を説明する義務があります。残念ながら日本にはそういう制度がない。もし血液透析と言われたら、なぜ腹膜透析がダメなのか、的確な説明を求めるべき。対応してくれなければセカンドオピニオンを求めるべきです」
自分や家族の身を守るには、医師の言葉をうのみにしていてはダメだ。

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