数学ってどこでわからなくなったんだろう……微分積分?三角関数? 積極的に提言する数学教育の専門家として知られる数学者の芳沢光雄さんは、そのつまずきは、そもそもの算数に始まっているのではないかと指摘します。単なる計算問題や公式の暗記ではなく、「数学への土台となる考え方」を身に付けることが大切です。
今回は「円の面積の公式」をもう一度しっかり考えながら、高校数学での定積分による説明にある「ある誤解」について見ていきます。
算数から立方体の体積を考えると
算数から大学数学までを眺めることを、ほぼ隔週で書いている。今回は面積や体積について取り上げよう。とくに、「円の面積公式」についての高校数学レベルでの誤解も指摘したい。
まず算数においては、一辺が1cmの正方形の面積を1平方センチメートル、一辺が1cmの立方体の体積を1立方センチメートルと定める。そしてさまざまな図形に関して、それらが何個ぶんあるかによって、図形の面積や体積を求めるのである。
次の図は直方体である。
底面積は
3×4=12(平方センチメートル)
で、体積は
3×4×2=24(立方センチメートル)
である。この図からも想像できるかと思うが、角柱の体積は
底面積×高さ
となる。
平面図形に関しては、長方形、平行四辺形、三角形、台形などの面積公式を学び、円の面積公式も学ぶ。そして、空間図形に関しては角柱、円柱、角錐、円錐、球などを学ぶが、それらの体積を学ぶときは、新たに角錐、円錐、球などに注目すればよいことになる。
そのようなことを踏まえた上でよく現われる質問を整理すると、次の3つにまとめられる。
<図形問題でのよくある質問>
(1) 半径×半径×π(円周率)の「円の面積公式」の直観的な説明(後述)は理解できるものの、もう少し厳密な説明はないのか。
(2) 「角錐の体積は同じ底面と高さをもつ角柱の3分の1」、「円錐の体積は同じ底面と高さをもつ円柱の3分の1」というように、「3分の1」があらわれる理由を知りたい。
(3) 球に関する次の2つの公式のわけを知りたい。
球の表面積=4×π×半径×半径
球の体積=4/3×π×半径×半径×半径
角錐や円錐の公式になぜ「3分の1」があらわれる?
以下(1)、(2)、(3)それぞれについて説明するが、先に(2)から説明しよう。これに関しては、3つの方法がある。
一つは、底面と高さが同じ円錐形と円柱形のカップがあるとき、円錐形のカップ3杯分の水を円柱形のカップに入れるとぴったり一杯になる。
一つは、立方体は下図のように3つの合同な四角錐に分割できる。それをもとにして大雑把な議論であるが、「3分の1」があらわれる理由を説明できるばかりでなく、その延長として(3)の説明もできる(拙著『新体系・中学数学の教科書(下)』参照)。
もう一つは高校数学の積分を用いる方法で、「円の面積公式」を仮定すれば(3)の説明も含めてしっかりしたものである。ちなみに、ここでは特殊な場合で「3分の1」があらわれる理由を説明しよう。
xy座標平面上で、原点O(0,0)と点A(1,1)と点B(1,0)をとり、線分OAをx軸の周りに一回転させると次の円錐ができる。
頂点がO、底面の中心はB、底面の半径は1、高さは1。この円錐の体積を回転体の体積の公式によって求めると、次になる。
[π×(xの2乗)のx=0から1までの定積分]
=1/3×π×(1の3乗-0の3乗)
上式における「1/3」が(2)の説明になるものである。
「円の面積の公式」をもう少し厳密に考えてみよう
以下、(1)の説明に移ろう。算数では下図のように、左の円にある扇形を右のように並べてみる。すると、たてが円の半径、横が円周の半分の長方形に近いように見える。そこで、
円の面積≒半径×半径×π
が導かれるのである。
上の議論は、扇形の中心角を狭くしていけば、「円の面積公式」は「認めてもよいだろう」と思う人は多くなるだろう。しかし、あいまいさは残る。
そこで登場するのが、「高校の積分を使うと完璧に説明できる」という次式による説明法である。
半径aの円の面積=4×[√(aの2乗-xの2乗)のx=0からaまでの定積分]
=4×{(1/4)×π×半径×半径}=π×半径×半径
実はこの説明には重大な欠陥が潜んでいる。
この説明の中には「循環論法」が潜んでいる
それは、上式の説明では三角関数の積分を用いており、その説明には次の極限の公式を用いている。
lim(x→0)[(sin x)/x]=1
そして、この極限の公式の証明には扇形の面積、すなわち「円の面積公式」を用いているのである。すなわち、循環論法に陥っているのだ。そこで望まれるのは、まったく別の視点からの「円の面積公式」の証明である。
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そのような背景があって、一からきちんと「円の面積公式」を組み立てる証明を述べる必要性を痛感し、拙著『新体系・大学数学入門の教科書(上)』の補章で14ページに渡って、「アルキメデスの取り尽くし法による円の面積公式の証明」を述べた次第である。
高校数学の検定教科書では、そのような内容には触れられていない。だからこそ、上述したような循環論法による誤った“証明”がたまにネットで見掛ける。
若い人達の知的好奇心を高めるという視点からも、それに関しては検定教科書でも触れるとよいのではないだろうか。
前々回の記事「40-16÷4÷2の答えは?数学における一意性という考え方はバーコードや衛星通信にも使われている」(1月29日)で述べたことであるが、素因数分解や因数分解の「一意性」についても同じようなことが言えると考える。
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