「夫に先立たれたら、年金はどうなる?」【遺族年金】の仕組みを井戸美枝さんが解説

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年金の額に不安を抱いているみなさんは、少なくないことでしょう。さらに、夫に先立たれたら、年金はどうなるのでしょう。「遺族年金」というのは、亡くなった時の状況により異なるので、なかなか複雑な仕組みです。マチュア世代に向けた一般論について、ファイナンシャルプランナーの井戸美枝さんに教えていただきます。好評につき、リバイバル配信します。

【マチュア世代Aさんの悩み】
夫は私より8歳年上。今は元気ですが、夫に先立たれたら……と心配です。
遺族年金はどれくらいでしょうか。夫は会社員、私は扶養範囲内のパートで国民年金だけです。
【井戸さんのアドバイス】
・会社員の夫が亡くなると、遺族厚生年金が受給できます。
・18歳未満の子どもがいれば、遺族基礎年金も受給できます。
・妻が65歳未満で子ども(18歳未満)がいないなら、遺族厚生年金に中高齢寡婦加算が上乗せされます。

夫が亡くなった時の状況で、もらえる年金が変わります

国民年金や厚生年金に加入していた人(一家の収入の担い手)が亡くなった場合、遺族には「遺族年金」が支給されます。
遺族年金の種類は、国民年金の「遺族基礎年金」と、厚生年金の「遺族厚生年金」の2つ。それぞれの受給条件や年金額は、以下の通りです。

亡くなった人が厚生年金加入者、または受給者の場合「遺族厚生年金」

厚生年金加入中、または受給中の人が亡くなった場合など、子どもがいてもいなくても、厚生年金から遺族厚生年金が受給できます。
受給の条件は、厚生年金加入中であること、または受給中なら保険料の納付期間と免除期間の合計が25年以上あることなど保険料納付要件があります。
年金額は、夫の老齢厚生年金の4分の3。厚生年金の被保険者期間が25年(300月)未満の場合は、300月とみなして計算をします。つまり、25年分の保障があるということです。
遺族厚生年金の受給できる対象者は、生計を維持されていた配偶者、子供、父母、孫、祖父母のうち、最も優先順位が高い人が受け取ることができます。
例)
夫の年金 月17万円(基礎年金6万円、厚生年金11万円)の場合
妻がもらえる遺族年金は
厚生年金 11万円×3/4=8万2500円(年額99万円)
※夫の年金総額の4分の3ではないので注意を!
妻が40歳以上65歳未満で子供がいないならこの遺族厚生年金に中高齢寡婦加算(下記参照)が上乗せされます。受給期間は65歳になるまで。

18歳未満の子どもがいる場合「遺族基礎年金」

子どもが①18歳になる年度末(3月31日)に到達していない場合、②20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級を受給している場合、国民年金から遺族基礎年金が受給できます。
年金額は、79万5000円+子の加算額。
子の加算額は、第一子、第二子は、それぞれ22万8700円。3人目以降は、1人につき7万6200円です。
例)
夫死亡時に16歳と17歳の子どもがいた場合
妻がもらえる年金額は
79万5000円+22万8700円×2人=125万2400円。
受け取れるのは、子どもが18歳になる年度末まで。障害年金を受けとっている子どもの場合は、20歳までです。

「夫に先立たれたら、年金はどうなる?」【遺族年金】の仕組みを井戸美枝さんが解説(画像2)

子どもがいない、または18歳を超えるなどして遺族基礎年金の対象ではない、かつ妻が65歳未満の場合
夫が会社員や公務員(第2号被保険者)の場合「中高齢寡婦加算」

夫が会社員や公務員(第2号被保険者)で、夫の死亡時に妻が40歳以上65歳未満
→65歳になるまで、中高齢寡婦加算として59万6300円が遺族厚生年金に上乗せされます。
例)
夫の遺族厚生年金が99万円の場合
妻がもらえる年金額は
遺族厚生年金99万円+中高齢寡婦加算59万6300円=158万6300円
65歳からは自分の老齢基礎年金を受給するので、中高齢寡婦加算はなくなり、以降は遺族厚生年金+自分の老齢基礎年金となります。
例)
自分の老齢基礎年金が月5万円(年間60万円)の場合、
妻がもらえる年金額は
夫の遺族厚生年金99万円+自分の老齢基礎年金60万円=年金額159万円

夫が自営業やフリーランス(第1号被保険者)の場合「寡婦年金」または「死亡一時金」

寡婦年金
夫が自営業やフリーランス(第1号被保険者)で国民年金の加入期間が10年以上あり、老齢基礎年金の受給開始前(65歳前)に亡くなった場合
→婚姻期間が10年以上ある妻が60~65歳まで、「寡婦年金」があります。金額は、夫が受けとるはずだった第1号被保険者期間の老齢基礎年金の4分の3。
例)
夫の老齢基礎年金が6万円の場合
妻がもらえる年金額は
6万円×3/4=4万5000円(年額54万円)
死亡一時金
国民年金保険料を納めた期間が36カ月以上ある人が、老齢基礎年金を受け取らないまま亡くなった場合
→保険料の納付月数に応じて12~32万円を支給。
寡婦年金と死亡一時金の両方は受けとれません。どちらか一方を選択します。

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ご質問者の場合を整理すると、会社員の夫が亡くなって受けとれるのは以下の通りです。
<65歳になるまで>
18歳未満の子どもがいる→遺族基礎年金+子の加算
子どもがいない、妻の年齢が40歳以上→遺族厚生年金+中高齢寡婦加算
<65歳以降>
遺族厚生年金+自分の老齢基礎年金
遺族厚生年金額の見込みを知っておきたい場合は、ねんきん定期便で夫の老齢厚生年金を確認し、4分の3してみましょう。

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プロフィール
井戸美枝
ファイナンシャルプランナー(CFP認定者)、社会保険労務士、国民年金基金連合会理事。生活に身近な経済問題、年金・社会保障問題が専門。「難しいことでもわかりやすく」をモットーに、雑誌や新聞に連載を持つ。『親の終活 夫婦の老活 インフレに負けない「安心家計術」』(朝日新書)、『一般論はもういいので、私の老後のお金「答え」をください!増補改訂版』(日経BP)など著書多数。
ホームページ:http://mie-ido.com
Twitter:@mieido

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