2024年7月10日、日経平均株価は史上最高値の4万2224円2銭を記録した。その一方で、8月には過去最大の暴落幅を記録し、株価乱高下の時代に突入している。インフレ時代の今、自分の資産を守り抜いていくために私たちはどのような対策をすべきなのか。NVIDIA急成長の背景や新NISAとの向き合い方を見直しながら、日本経済の未来について考えていかなくてはならない。
本連載では世界的経済アナリストのエミン・ユルマズ氏と第一生命経済研究所の永濱利廣氏が語る日本経済復活のシナリオを、『「エブリシング・バブル」リスクの深層』より一部抜粋・再編集してお届けする。
『「エブリシング・バブル」リスクの深層』連載第23回
『アベノミクスがもたらした「光と影」…日本経済が伸び悩むようになった決定的な「転換点」』より続く
「働き方改革」が企業をしばっている
永濱:永濱利廣(ナガハマ トシヒロ)。第一生命経済研究所首席エコノミスト。1995年第一生命保険入社。98年より日本経済研究センター出向。2000年より第一生命経済研究所経済調査部、16年より現職。景気循環学会常務理事、衆議院調査局内閣調査室客員調査員などを務める。
永濱:アベノミクス「第3の矢」の構造改革も、すべてがうまくいったわけではありませんでした。もともと安倍元首相は「日本を世界で最もビジネスしやすい国にする」と言っていたのですが、むしろ逆向きの政策も一部で実施されていました。
かつての民主党政権時代は「産業の6重苦」と言われていました。「異常な円高」「法人税の高さ」「経済連携協定の遅れ」「労働規制の厳しさ」「電気料金の高さ」「環境規制」の6つが企業活動の重しになっていたのです。
「異常な円高」はアベノミクスで解消されました。「法人税の高さ」も、一応ドイツ並みには下げました。「経済連携協定の遅れ」については、TPPをはじめ、EPAや、RCEPを推進し、いまや日本は主要国のトップを走っているくらいです。
ただ、「労働規制」については、「働き方改革」で労働時間規制をむしろ強化しています。「電気料金」も、解決のための「原発の再稼働」が遅れました。最後の「環境規制」については、民主党時代の「鳩山イニシアティブ」が厳しすぎましたので、その見直しを行ったことである程度の進展があったと思います。
アベノミクスは日本経済を復活させたか
要するに、アベノミクスの「第2の矢」の財政出動は過度な負担増でむしろマイナス。「第3の矢」は不十分だったため、「第1の矢」の異次元緩和に過度な負担がかかったということです。
当時の政権と株価の関係から、第2次安倍政権でいかに株価が上がったかがわかります。
経済政策を評価する上で最も重要な雇用が増えたことからしても、アベノミクス以前よりはいい方向に持っていったとは思います。
ただ、アベノミクスが日本経済を復活させたかというと、不十分だったと見るのが適当でしょう。過度な負担増を強いずにビジネス環境をもっと整えていれば、「異次元緩和」に頼りすぎずに済んだはずです。
その意味では、ここまで円安が進んだのはロシアのウクライナ侵攻が主因ですが、アベノミクスの後遺症という側面もあるかもしれません。
だからといって、いますぐ金融を引き締めるべきというわけではありません。今、拙速に引き締めると恐らく日本経済は利上げに耐えられないでしょうから。
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