沈んだ大陸 【第3回】
柴 正博
過去に沈んだ大陸の痕跡に迫る!
海で隔てられた陸地や島々は、海面が低い時代にはひと続きの大陸であり、動物たちは他の大陸や島へ移動が可能だった。その後の海面上昇によって、現在までの動物の分布や進化は大きな影響を受けている。謎に包まれた動物生息域の変遷を、「沈んだ大陸」の証拠をもとにわかりやすく解説。※本記事は、柴 正博 氏の書籍『沈んだ大陸―大規模海面上昇と動物分布の謎―』(幻冬舎ルネッサンス)より、一部抜粋・編集したものです。
【前回の記事を読む】沈んだムー大陸に動物たちは渡ったのか?最新科学で読み解く“失われた陸地”の真実
第一章 伝説の大陸と最終氷期の大陸
一 伝説の沈んだ大陸
ムー大陸
現在、最古の文明として確認されているものの一つに、メソポタミア文明の基礎となったシュメール文明があります。それは今から七三〇〇年前ごろに始まったといわれています。
ここでは、原始的農業を経て灌漑技術が生み出され、都市ができて寺院ができ、冶金技術も生まれ、神官階級が文字を使用して、いわゆる人類の歴史が始まりました。
チャーチワードは、ムー大陸には今から数万年前から栄えていた文明があったとしています。しかし、このことは現在知られている文明の始まりよりも、相当に早い時期にあたります。
また、ムー大陸についてチャーチワードがその存在の根拠とした資料自体の多くが、信憑性が低く、証拠として示された遺跡や遺物の中には実際に存在しないものも含まれていました。このようなことから、現在ではチャーチワードが示したムー大陸の存在が否定されています。
アトランティス大陸
アトランティス大陸は、古代ギリシャの哲学者プラトンの著書『ティマイオス』および『クリティアス』の中で記述された、伝説上の広大な大陸とそこに繁栄したとされる帝国のことです。
プラトンによれば、その大陸は九〇〇〇年前ごろに海中に没したと記述されています。プラトンは、紀元前四世紀ごろに生きていた人なので、アトランティス大陸が海中に没したのは、今から一万一四〇〇年前ごろになります。
アトランティスについてのプラトンの記述では、巨大なアトランティス大陸はジブラルタル海峡にあったとされる「ヘラクレスの柱」のすぐ外側にあり、そこにあった帝国は豊かで強い軍事力をもち、地中海西部を含んだ広大な領土を支配していたとされます。
しかし、領土の拡大を目指してギリシャを侵略したのが失敗して、その直後に起こった地震と洪水でアトランティス大陸は海中に沈み、帝国も滅亡したとされています【1】。
アトランティス大陸については、大西洋を「Atlantic Ocean(アトランティスの海)」と呼ぶヨーロッパの人たちの多くが関心をもち、それがどこにあったかということについてさまざまな説が出されています。
その主な論点には、「ヘラクレスの柱」が本当に地中海西端のジブラルタル海峡にあったものかという位置の解釈をめぐる問題と、アトランティス帝国を滅ぼし海中に沈めたとされる洪水の年代の問題があります。
その議論の中で、多くの考古学者は、アトランティスの滅亡の物語が紀元前一五二五年ごろにあったエーゲ海のサントリーニ島の大規模な火山噴火と関連したものではないかと考えています。
サントリーニ島(図2)は、ギリシャの首都アテネから約二〇〇キロメートル南東のエーゲ海南部に浮かぶ直径約一〇キロメートルの円形の海を囲むような形をした島で、紀元前一五二五年ごろに大噴火を起こしたカルデラ火山の山頂が海上に出ている島です。
このサントリーニ島が大噴火したときには津波も起こり、その津波によってクレタ島のミノア文明が滅びました。そのため、この噴火は「ミノア噴火」と呼ばれ、アトランティスの伝説と結びつける人が多くいます。
しかし、この事実は、プラトンが示したアトランティスの年代と大陸の位置や規模が相当に違うことから、アトランティスではないという人もいて、アトランティス大陸の謎はまだ解明されていません。
二 最終氷期の海面変動と沈んだ大陸
最終氷期の海岸線
幻の大陸、ムー大陸とアトランティス大陸が存在していたとされる今から一万数千年前には、大陸に氷床や山岳氷河が広く発達していました。
この最終氷期(ウルム氷期)は、今から約七万年前から地球の気温低下が始まって約一万七〇〇〇年前に終了し、そのもっとも寒かった時期(最寒冷期または最盛期)は今から二万一〇〇〇年前といわれています。
このウルム氷期最盛期には、大陸に氷床として相当な量の水分が固定されたために海面が低くなり、現在より海面が約一〇〇メートル下がりました。したがって、今から約二万年前の海岸線は、現在の海面より約一〇〇メートル低いところにあったことになります。
引用文献
【1】アンドレーエヴァ E.J.(1963)『失われた大陸』.〔清水邦生訳〕,岩波新書,岩波書店,316p.
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※本記事は、2025年1月刊行の書籍『沈んだ大陸』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。
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