内閣府は12月23日、日本の2023年1人あたりの名目GDP(国内総生産)を3万3849ドルと発表。
この数字は、主要7カ国G7で最下位、OECD(経済協力開発機構)に加盟する38カ国中22番目で、隣国である韓国の1つ下に順位を後退させました。
GDP低下の背景には、「円安」なども影響しているといわれていますが、大阪大学の堀井亮教授は、「日本の国力が低下したことで、円安になっている」と指摘します。
なぜ、日本の国力はここまで低下してしまったのか? 日本復活のカギは? 専門家に詳しく聞きました。
20年の空白…技術進歩の停滞
――なぜ、日本はここまでGDPの順位を落としてしまったのでしょうか?
大阪大学社会経済研究所 堀井亮教授:
韓国や他の先進国では、毎年経済成長が続いているんです。ところが、日本は1990年代以降、経済が低迷していて、経済成長が非常に弱かった。つまり、1人あたりのGDPもほぼ足踏みをしていたということなんです。
1人あたりのGDPがなぜ大事かというと、大ざっぱに国民1人あたりの収入を表しているからなんです。ですから、今回のデータが示しているのは、韓国の方が日本より給料が高くなった、日本の方が安い給料で働いているということなんです。
また、堀井教授によると、日本がここまで順位を落とした要因の1つとして、「技術進歩の停滞」があるといいます。
最新のAI技術を駆使し、通話中でも通訳が可能な機能が組み込まれたスマートフォン開発に取り組んでいる韓国や、無人タクシーを運用し始めた中国、アメリカもドローンによる荷物配送など実用化が進んでいる状況です。
一方日本は、技術進歩のためにチャレンジしようとしても、「安全性」や「事故が起きた時の責任の所在」など様々な不安点を解消することができず、新しい技術を導入しにくくなっているといいます。
結果、他国の技術の“後追い”になってしまい、約20年ほど開いた差を縮められない状態が続いているのです。
堀井亮教授:
特にAIなどの技術は日進月歩でどんどん進んでいますから、20年の差はかなり埋めがたい差になっていると思います。
古市憲寿氏:
これはもう間に合わないということですか?特にAIに関しては、日本が到底追いつけるわけなくて、逆に日本の勝ち筋はあるのでしょうか?
堀井亮教授:
それは難しい問題です。ただ、ここで諦めてしまったらそこで終わりなので、なんとか追いつこうと努力を続けるということは必要なことだと思います。
MC谷原章介:
新しい技術の導入が遅れるのは、規制が厳しいから?かけられるお金が少ないから?
堀井亮教授:
両方あると思います。やはり日本は、アメリカに比べるとマーケットが小さいです。アメリカの企業は世界全体に売っていくのに対して、日本は「日本語」という制約もあり、どうしても、日本国内でこぢんまりとビジネスをする。
そうすると、やはりかけられるお金も小さくなってくる、それと、何か起こった時に「誰が責任を取るんだ」という空気が強い。そうすると、そういう技術ができそうでも、なかなか一歩を踏み出せないと…。
古市憲寿氏:
結局“高齢化”というのは大きいと思います。経済の面でもそうだし、高齢者の多い社会って「変えたくない」人が多いわけじゃないですか。今までうまくやってきたんだからと。
日本ってやっぱり90年代までうまく行き過ぎちゃって、バブル崩壊まで製造業でうまくいきすぎたから、その後のインターネットの波に完全に乗り遅れた。情報化社会に乗れなかったので、そのマインドのチェンジというのは、この“年寄”が増えちゃった国でできるかというと、僕は難しいかなと。
経済が停滞すると日本はどうなる?
このまま経済の停滞が続くと、日本はどうなってしまうのか? 堀井教授によると、以下のような可能性があるといいます。
・国が貧しくなり、石油などの資源や食料、原材料など、海外からの輸入品を買うことも難しくなる
・東南アジアなどの技能実習生が、「給料が高い別の国に行こう」と、日本に来なくなり労働力が低下
・優秀な技術者や、アスリートも海外に流出し、日本には戻ってこなくなる
堀井亮教授:
出稼ぎに行くなら、もはや日本は給料が安くてあまりいい国ではないという風に思われているんです。そうすると、世界の中で人材の取り合いになった時に負けてしまうと。
今後のカギは「技術躍進」と「女性参入」?
――今後日本の経済が成長するには何が必要なのでしょうか?
堀井亮教授:
積極的なチャレンジや再就職をしやすくなるよう、政府側がサポートすることが大切だと思います。例えば、職業訓練をするとか、新たな資格を取るときにサポートするなど。
それから日本の場合、年齢が高くなってくると再就職が難しいという状況があるので、例えばアメリカの場合は年齢差別が禁止されていて、年齢が高いという理由だけで採用されないということはないと。ですので、安心してチャレンジできるという土壌があるんですけども、日本もそうなっていくと良いなと思います。
古市憲寿氏:
それはすごい大賛成なんですが、一方で1人あたりGDPって、すごい高齢化率が関係しているわけじゃないですか。GDPがいくら大きくても、高齢者の方など働いていない人が一定数いるから、どんなに頑張っても1人あたりで割ると、順位が下がっちゃうわけですよね。
いくらチャレンジを頑張っても、無理というか「キャップがはめられている」ということではないんですか?
堀井亮教授:
確かに高齢化率というのは大きなファクターなんですけども、実は日本の場合は女性の労働参加というのが結構進んでいまして、引退した方も増えたのですが、同時に以前専業主婦だった方が仕事に入ってくるなど、実は労働者の数自体はそれほど減っていないんです。
ですので、もちろんおっしゃる要素はあるんですけども、それよりも技術を伸ばさなくてはいけないと、そちらの要素が強いかなあと。
高齢者の方が増えても、女性の労働参加が増えて、技術が伸びれば、日本も追いつける可能性はあるかなと。
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