〝ステージ4〟からのV字回復。日本一の巨樹・蒲生の大クスは、朽ちる危機を乗り越えた。参拝客にもお願い「おみくじを枝に結ばないで」

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樹勢が回復している蒲生八幡神社の大クス。右が本殿=11月27日、姶良市蒲生

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大クス幹内部の空洞の状態を調べる佐伯直憲さん=10月(姶良市提供)

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 日本一の巨樹で国の特別天然記念物に指定されている鹿児島県姶良市・蒲生八幡神社の大クスの樹勢が回復している。十数年前から衰えがみられたが、“主治医”に当たる樹木医は「この10年で最もいい」と指摘。市が8年がかりで取り組む再生事業に効果が出ているようだ。
 市によると、大クスは2012年ごろから衰えが指摘され、特に15年の寒波で大量に葉が落ち、枝の枯れが広がった。16年度に実施された詳細調査で、健康状態が5段階のうち4番目に悪い「著しく不良」と判断された。
■根に配慮した機材
 そのため、市は樹木医ら専門家で構成する委員会(5人。そのほか国、県がオブザーバー参加)を設け、保護増殖計画を策定。17年度から本格的な再生事業に着手した。24年度まで8年間で約8000万円(国が半額補助)をかけた、これまでで最も長期的な取り組みとなっている。
 クス本体を守るため着生植物や枯れ枝を除去し、これまで北側だけにあった木製遊歩道を南側にも設置。21年度には、クスの枝と根が接触していた南側のイチョウ(高さ22メートル)を伐採した。
 人や車の通行で硬くなった土壌を掘り起こして軟らかくし肥料を入れる周辺の土壌改良は、年度ごとに場所を変えて実施。空気圧で土を起こすエアースコップを採用し、小さい根も傷めないよう配慮している。
 特に、車が通り地盤が硬くなりやすいクス北西部は、本年度末まで2年がかりで新技術を使った透水性踏圧防止舗装にしている。軟弱地盤補強用として開発されたハチの巣状の盤と、水を通す不織布シートを土中に配置。社会教育課の深野信之係長(51)は「土の沈下がしにくくなり根の負担がぐっと減る」と効果を強調する。
■台風被害ほぼなし
 「この10年でみてもかなり元気になっている」と話すのは、樹木医の佐伯直憲さん(73)=鹿児島市。年3回、定点観測で葉や枝の緑の量、枯れ枝や根、空洞になった幹内部(直径4.5メートル)の状況を確かめている。
 2015年は特に、緑の量が減り、枯れ枝が多くなっていたが、いずれも改善。「土壌改良の効果だろう。5段階では、4から『不良』の3と『やや不良』の2の中間くらいになったのではないか」とみている。
 樹齢を重ねた巨木の場合、「1」の「良」になることは難しく、現状は「健康といっていい」。直近の調査は10月に実施したが、8月の台風被害もほとんどなかったという。
 数年前に幹内部で確認され駆除したシロアリは今回の調査でも見られなかった。ただ、キノコの元になる菌糸はみられ、県内で発生が確認されているクスの害虫とともに「継続的に注意深く見ていく必要がある」。
■苦渋の伐採
 大クスの所有者も樹勢回復に心を砕く。蒲生八幡神社の山之内義久宮司(71)は「南側のイチョウも神木だったので伐採は苦渋の判断だったが、致し方ない。今後も専門家の意見を尊重しながら大事に守っていきたい」と話す。これから初詣の時期を迎えるが、参拝客に対して「おみくじを枝に結ぶのはやめてほしい」と呼びかけている。
 市は25年度、現状の樹木内外の形状をデジタル保存するため3次元測量を初めて行い、25年ぶりに一連の再生事業をまとめた報告書を作る方向で検討している。
 深野係長は「いずれも保護の基礎資料になる。大クスは大事な文化財であり、観光資源としても重要。しっかり保護しながら、多くに人に見てもらえる環境を維持し、後世につないでいきたい」と話した。
◇蒲生の大クス 推定樹齢は1500年で高さ約30メートル、根回り約33メートル。幹回りが24.2メートル。1952年に特別天然記念物になり、88年度に環境庁が実施した巨樹調査で日本一に認定された。

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