お宝映像が消える!ビデオテープ「2025年問題」…VHSは生産もサポートもとっくに終了、業務用も寿命に

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VHSビデオテープに収めた、あの「お宝映像」の消えてなくなる(

DVD、ブルーレイ・ディスク(BD)、ハードディスクやフラッシュメモリー……。時代とともに移り変わってきた映像の記録メディア。かつて、VHSやベータマックスなどの磁気テープが使用されていたことを知らない若い世代も少なくないだろう。この磁気テープに記録された映像を完全に見られなくなるタイムリミットが、2025年ごろになるという。

(杉原健治:フリーライター)

デッドラインは2025年!?

 国連教育科学文化機関(ユネスコ)が国際音声・視聴覚アーカイブ協会(IASA)とともに「マグネティック・テープ・アラート」という警告を発したのは、今から5年ほど前の2019年のこと。「磁気テープに記録された音声や映像は、2025年までにデジタルファイル化しないと二度と見られなくなる可能性が高い」と警鐘を鳴らした。

 その2025年があと数日でやってくる。タイムリミットが刻々と迫るなか、映像を記録した磁気テープ、ビデオテープの「2025年問題」とは、どのようなものか考えてみたい。

 ビデオテープに記録した映像を見られなくなる最大の理由の一つは、そもそもビデオテープを再生する機器、いわゆる「ビデオデッキ」がこの世から消えかけているからだ。

 ビデオデッキに使われる部品の製造量が減っており新たな機器の生産が難しいのに加え、機器修理・保守のためのノウハウも徐々に失われつつあるという。

 再生機器が入手できなくなると、当然ながら記録されたアナログ映像をデジタル化することも難しくなる。国内で最後までVHSのビデオデッキを生産していたのは船井電機だが、すでに2016年に生産を終了している。

 家庭用のビデオテープだけではない。テレビ放送などで使われてきたソニーの業務用HDCAM方式のビデオテープも2023年6月に生産を終了している。

 すでに生産を終了している関連機器についても、2023年3月末に一般サポートを終了。その後は一部の機種で延長サポートサービス、特別再延長サポートサービスを実施していたが、それぞれ2026年3月末、2028年3月末に終了する。

テープの経年劣化も2025年問題を加速させる

 そもそも生産・サポートが続々終了していることに加えて、市場に出回っているビデオテープそのものも経年劣化により寿命が尽きかけている。VHSテープの寿命は20年程度とされる。ビデオテープ全盛期だった1990年代後半から20年以上が経過しているため、再生機器があったとしてもテープ自体の劣化により再生できない可能性もある。

 なお、Googleなどで検索すれば、ビデオテープからDVDやハードディスクにダビングするサービスがすぐに見つかる。サービスによっては映像データをクラウドにアップロードしてくれるものもあり、スマホで簡単に観られるようになる。

 大掃除で部屋の奥から出てきた秘蔵のビデオテープの扱いに困っていた人は、こうしたサービスを活用してデジタル化してみるのもいいだろう。“お宝”映像に再び出会えるかもしれない。

公共機関の保存資料にも影響が

 ビデオテープの寿命が尽きることで困るのは、個人だけではない。学校などの教育機関や、図書館、映像のアーカイブ施設、美術館といった公共団体が保管するアナログテープのデジタルファイル化も、今後の大きな課題となっている。ユネスコとIASAが警鐘を鳴らしたのは、こうした歴史的な文化資産がビデオテープの寿命とともに失われる可能性があるからだ。

 ユネスコとIASAが2019年7月から2020年5月までに実施した調査によると、回答した76カ国の機関・施設のうち29%は、磁気テープのデジタルファイル化を計画していなかった。さらに、44.8%がデジタルファイル化したくても十分な資金を確保できないと回答した。

 2021年10月に開催された「世界視聴覚遺産の日」の記念イベントで、オーストリア映画博物館長ミヒャエル・レーベンシュタイン氏は、磁気テープを取り巻く問題を商業ベースで解決することは難しいため、さまざまな関連機関や制作者、技術者、政府などが連携して対応しなければならないと訴えている。

 公共性の高い内容から個人のお宝映像まで、ビデオテープにはさまざまな“思い出”が詰まっている。「2025年問題」をきっかけに、貴重なアナログ映像をデジタル化して保存する意義について、改めて考えてみてもいいだろう。

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