イスラエルとハマスの衝突は「宗教対立」ではない…日本人が見落としがちな「本当の原因」とは武器になる教養30min.編集部

昨年10月7日に発生した、イスラム組織ハマスによるイスラエル襲撃。あれから1年がたった今も、イスラエルは大規模な報復攻撃をくり返し、パレスチナ・ガザ地区では死者が4万人を超える深刻な事態となっています。この対立は、そもそもなぜ生まれたのか。そしてハマスは、なぜあのタイミングで攻撃を仕掛けたのか。『分断を乗り越えるためのイスラム入門』の著者、内藤正典さんに解説していただきました。

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この戦争は宗教対立が原因ではない

──『分断を乗り越えるためのイスラム入門』の刊行後、ハマスがイスラエルに大規模な空爆を行ない、それに対しイスラエルが反撃を始め、現在も戦争状態が続いています。

先に申し上げますが、このことはイスラムとは何の関係もありません。パレスチナ問題の歴史は古く、発端は1947年。できたばかりの国連が、パレスチナを分割してユダヤ人の国とパレスチナ人の国に分けるという決議をしました。

その決議は誰がしたのか。当時、アフリカもアジアも中東も、その多くはイギリス、フランスを始めとするヨーロッパの植民地でした。つまり、第2次世界大戦で勝った強い国が、パレスチナを2つに割ろうと決めたわけです。

では、なぜ2つに割ろうと決議したのか。ユダヤ人が600万人も虐殺されるというホロコーストの悲劇に見舞われたからです。二度と同じことが起きないよう、パレスチナの地に移住して、自分たちの国をつくろうと決めた。この政治的運動をシオニズムといいます。

パレスチナに行けと言ったのは、イギリスのアーサー・バルフォアという人物です。1917年、当時の外務大臣だったバルフォアは、陳情に来たシオニストたちに「あなたたちがパレスチナの地に民族のふるさとをつくりたいなら、大英帝国政府は惜しみなく協力しましょう」と約束しました。

これをバルフォア宣言といいます。シオニストたちはこの文書を盾にとって、1948年、イスラエルを建国します。しかし、この土地はもともとパレスチナ人のものです。土地を奪われることになったパレスチナ人と、当然、衝突が起こります。これがすべての発端なんです。

その後、アラブ諸国とイスラエルの間では何度も戦争が起こりました。ところが、1973年の第4次中東戦争以降、一度も戦争は起きていません。半世紀もの間、アラブ諸国はイスラエルと一度も戦争をしていないのです。

そんな中で、パレスチナの人たち、とくに今問題になっているガザの人たちの暮らしは良くなったのか。何ひとつとして彼らの権利は向上していません。

ガザはイスラエル軍に包囲されており、「青空監獄」と言われています。そんなガザを、イスラエルは莫大な戦費をかけて壊滅状態に追い込もうとしています。すでに4万人を超す死者が出ており、うち1万7000人近くは子どもです。

これがすべての顛末であり、宗教はまったく関係ありません。世界中に散らばっていたユダヤ人が、他人の土地に乗り込んで国をつくり、もともと住んでいた人たちのあらゆる権利を奪った。そして今も人道上の悲劇をもたらし、ジェノサイドをくり返している。それが問題なのであって、宗教が出てくる余地などありません。

ハマスが攻撃に踏み切った深い理由

──ところが世間では、今回の戦争はユダヤ教とイスラム教の対立だと思い込んでいる人が多いように思います。

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インターネットを見ても、「ユダヤ教とイスラム教の何千年にもわたる対立」といった話ばかり出てきますね。くり返しますが、今回の戦争と宗教対立はまったく関係ありません

では、なぜ昨年10月7日、ハマスはあのような暴挙に出たのか。私は『分断を乗り越えるためのイスラム入門』の中で、コロナ禍によっておたがいの融和が進んだと書きました。コロナという災いに対し、イスラム教徒は信仰の中に落ち着きどころを見つけ、おたがい助け合っていくべきだという方向に向かいました。

アラブ諸国はトランプ大統領(当時)のあっせんによって、イスラエルとの仲を改善する方向にさえ向かっていました。

長年、「青空監獄」に押し込められてきたパレスチナの人たちは、自分たちは見捨てられたと思ったでしょう。その危機感はどれほどのものだったか。私もそのときに気づかなかったことを非常に恥じています。

ハマスにしてみれば、これが最後の戦いのチャンスだと思ったのではないでしょうか。完全に自暴自棄の戦いだったと思います。勝算があるとはとても思えない。これでアラブ諸国が味方をしてくれるとは、殺されたハマスの最高幹部イスマイル・ハニヤも思っていなかったでしょう。

けれども、このままでは自分たちの行く末は絶望でしかない。そこで、10月7日の暴挙に出た。イスラエルの一般市民を誘拐し、殺害したわけですから、ハマスはテロ組織の汚名を着せられても仕方ありません。しかし、その反撃と称して1万7000人もの子どもを殺戮するイスラエルも、テロ国家の汚名を着せられて当然です

イスラエルに対して影響力を持ちうるのは、アメリカとヨーロッパです。しかし、どちらもおろおろするばかりでイスラエルを抑えることができません。

一方、アラブ諸国や他のイスラム圏の国も、ハマスを支援するわけでもなく、政治的に何らかのソリューションを見出していく力もありません。こうした状況が今なお続いているわけです。

※本記事は、 Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』より、〈【前編】内藤正典と語る「『分断を乗り越えるためのイスラム入門』から学ぶ現在の中東情勢」〉の内容を一部抜粋、再構成したものです。

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