車内を静かにするには音の正体を把握する必要がある
「エンジンの振動が好き」と主張するクルマ好きも存在しているが、現実的にクルマは静かで滑らかに走る方向に進化してきている。たとえば、はじめて電気自動車(EV)に乗った人が「エンジン車では考えられないほど静かで驚いた」といった感想をもつことは珍しくない。もちろん、静かでスムースすぎて運転している感覚が希薄になる、という批判もあるが、ほとんどのユーザーは静かであることをポジティブに評価している。
そして、EVになると圧倒的に静粛性が増すということは、そもそもクルマの騒音源の多くがエンジンに由来していることを意味しているといっても過言ではないだろう。エンジンに加えてトランスミッションまで含めたパワートレイン由来のノイズというのは本当に耳に届きやすく、音量的にも大きめとなる。しかも低速からずっと耳に届く騒音発生源といえる。
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パワートレイン由来以外の主なノイズ発生源としては、ボディ内装類などのキシミ音、サスペンションやブレーキなどの足まわり系、ドアミラーといった突起物から聞こえる風切り音、タイヤ由来のノイズなどが挙げられる。そして、それぞれに対策となる定番手法がある。
パワートレイン/ボディ/足まわり/風切り音/タイヤと5つの原因ごとに主な対策について見ていくことにしよう。
「内燃機関」という日本語表記からもわかるよう、エンジンを軸とするパワートレインは、燃焼による熱エネルギーを運動エネルギーに変換する構造となっている。そのため、燃焼由来のノイズなどは避けられない。エンジンの回転数が変化することによる振動は常に発生しているし、トランスミッションなどの駆動系においても同様だ。また、エンジンで発生したエネルギーの一部は排気として放出されるが、その際にも大きなノイズを生み出す。
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物理的な対策としては、エンジンやトランスミッションを支えるマウントへの工夫が挙げられる。基本的にはゴム製となるマウントだが、形状的な改良やサイズに余裕をもたせることでパワートレインの振動を抑制できるし、高級車になると電磁石などによってマウントの硬さをコントロールする可変タイプなども採用されている。
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おおもとの振動は、エンジン回転による影響が大きいため、回転数を低く、なおかつ一定になるような制御もパワートレイン由来のノイズ低減には効果的といえる。一般的にいって、MT車よりもCVTのほうが滑らかに走れるのは、エンジン回転数の変動を抑えているからだ。
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また、ほとんどのクルマでエンジンはキャビンの前方に置かれている。そこでエンジンルームとキャビンの間にあるダッシュパネル(バルクヘッド)に吸音材などを配することで音の侵入を防ぐといった対策もなされている。
そして、こうした吸音材や制振材によるノイズ対策はボディ全体で実施されている。キャビンのフロア部分はもちろん、ラゲッジルームからのノイズの侵入を防ぐためにホイールハウスにも吸音材が貼られているクルマが増えている。もちろん、こうした部材を足すことでのノイズ対策はコストアップ要因となる。高級車ほど静かで大衆車になるとうるさいと指摘されることが多いのは、どちらがノイズ対策にコストをかけられるのかを考えれば明らかだろう。
騒音が部品交換の目安になる場合も
このほか、ボディのきしみ音をノイズとして感じることもある。最近のクルマであれば、通常の走行状態で使っていれば、体感できるほどボディが歪むことはないといえるが、段差を乗り越えたときなど、ボディ剛性の低いクルマではスチールモノコックが変形してしまい、それに伴って内装材などから異音が発生することもある。
ただし、筆者の経験的には、内装由来のキシミ音の多くは樹脂パーツをはめこんでいるツメやクリップの劣化によるところが大きく、クリップなどを新品交換するだけでキシミ音がマシになることもあるので、古くなったクルマでキシミ音が気になっているならば、そうしたメンテをしてみてもいいだろう。
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足まわり関連からの騒音としては、サスペンションが動く際のキシミ音とブレーキからの高周波なノイズが主なところだろう。前者についてはスプリングやダンパー(ショックアブソーバー)から発生している場合と、サスペンションアーム類に由来しているケースがある。
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ダンパー由来のノイズについては、それ自体が部品として寿命を迎えていないと音が発生してこないことが多く、対策としては新品や良品への交換となる。また、ブレーキからのキーキー音についても、ブレーキパッドやディスクローターの交換時期を示していることが多い。
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サスペンションアームからの異音については、調整すべき部分が緩んでいるならば正常な状態に締めなおせばいいだろう。また、ブッシュ類からの異音であれば、新品交換が主な対策となるだろう。
風切り音とタイヤからのノイズについては、いずれも高速巡行で気になることが多い。ドアミラーの根元などで発生する音はドライバーの耳に届きやすいし、タイヤのパターンノイズは高速で走るほど大きくなりがちだ。
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これらについては、正直いってユーザーでは対策しきれないといえる。ボディ由来の風切り音については、できるだけ発生しないようメーカーが設計しているわけで、素人がなにか対策できるようなことは考えづらい。ただし、ルーフキャリアのようなアクセサリーをつけたことで風切り音が気になるようであれば、不要なときには外すなどの対応は可能だ。
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タイヤのパターンノイズについても、一部の競技用タイヤを除けば、ノイズが発生しづらいパターンとなっている。たとえば、タイヤのトレッドパターンをよく見ると、ブロックのサイズが微妙に異なっていることがある。これは、ブロックサイズを変えることで発生する周波数をずらし、それによって耳に届くノイズを分散させるというのが狙いといえる。
パターンノイズ以外に、タイヤのなかで音が共鳴することで発生するノイズもある。こうしたノイズを減衰させるために、タイヤの内側に吸音スポンジなどを貼り付けたモデルも存在している。
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パターンノイズの小さなタイヤ、吸音機能を持ったタイヤを、交換のタイミングで選ぶというのは、タイヤ由来のノイズを抑えるべくユーザーができる対策といえるだろう。
筆者の個人的な印象でいえば、運転しているときよりも助手席や後席に座っているときのほうがクルマの各部から発生するノイズは気になりがちな傾向にあると思う。運転しているときでも、高速道路でACCなど先進運転支援システムを使っていると、それまで気にならなかったノイズが耳に届くように感じることもある。
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いまやAIを活用した自動運転テクノロジーというのは、次世代自動車の進化を支える要素と認識されているが、自動運転が高機能になればなるほど、ユーザーはクルマに静かさを求めるようになるだろうし、その要求レベルも上がるだろう。はたして、完全自動運転が実現する時代には、どれほど静かなクルマが生まれるのか、いまから楽しみだ。
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