インバウンド需要も見込む
鳥取県境港市のコーヒーノキ1万本が植わる澤井珈琲の新拠点が脚光を浴びている。
同社は5月、境夢みなとターミナル(境港)からほど近い場所に「澤井珈琲ラボショップ」を中核とした新拠点を構えた。
ここには物販・飲食サービスを展開するラボショップのほか、コーヒー栽培用の温室ハウス2棟、コーヒーの研究棟、第4工場(ドリップバッグ製造増産のための機械充填工場と商品の配送基地)が広がる。
ラボショップの来店状況について、取材に応じた澤井幹雄社長は「鳥取県外からの観光のお客様も多く、30代を中心とした若いお客様が多い。既存店舗は40・50代以上のお客様がメインのため、お客様の若返りも図れている」と語る。
生豆販売コーナー
ラボショップの一番のウリは「お客様の好みの焙煎度や好みのブレンドに合わせて、お客様の目の前で焙煎し“世界一新鮮な珈琲豆”を販売している」点にある。
「やくもブレンド」「ブルーマウンテンNO.1」「カフェインレス コロンビア」など16種類の生豆を取り揃えオーダーに応じて、その場で焙煎して販売している。
ドリップバッグコーヒーなど お土産に適した多彩な商品もラインアップする。
イートインスペースでは「トリゴネコーヒーソフトクリーム」「コーヒーシュークリーム」「キューブパン」などのオリジナルスイーツを取り揃える。
「ゴジラ」と「キングギドラ」をテーマにしたドリップバッグコーヒー
境港に寄港するクルーズ客船によりインバウンド需要も見込む。
今年は昨年よりも多い31隻のクルーズ客船が寄港。
このことが後押しした模様で「半日観光の外国の方にも多くお越しいただき、7月中旬に発売開始した『ゴジラ』と『キングギドラ』をテーマにしたドリップバッグコーヒーなどが好評を博している」との手応えを得る。
6月には、境港と韓国・東海(トンヘ)港を結ぶ定期貨客船が就航し、同客船には澤井珈琲の商品が導入され船内で販売されている。
コーヒー栽培 来春に50キロの収穫見込み
温室ハウス2棟では、苗木を含め約1万本のコーヒーノキが栽培されている。
温室ハウス2棟
8年前に設置した第3工場横の4棟のビニールハウスにパーチメント(種)を3万粒植えて栽培しているコーヒーノキが大きくなり、手狭になった為ことと、特許を取得しているコーヒーリーフティー「トリゴネコーヒー茶」の栽培とコーヒーの実を実らせる栽培方法が異なることから最新の温室設備を整えた2棟を新設した。
現在、2棟に約1万本を移して研究栽培を行っている。
コーヒー生産地は、北緯25度から南緯25度のコーヒーベルト地帯と呼ばれる赤道を中心としたエリアが適しているとされる。
その点、北緯35度の鳥取県は年間平均気温14.9度で冬場は積雪で氷点下にもなる豪雪地帯でコーヒーの栽培は不可能とされていた。
ゲイシャ品種の苗木
澤井珈琲では、実証実験として店舗内で栽培するところから始め、温室ハウスでの栽培に挑む。
澤井社長の妻で澤井珈琲ウエルネス社長を務める澤井由美子さんは「最初の年は、寒さだけでなく、暑さにも弱く、朝、夕に水やりをしても萎れて、弱り、そして、寒さで枯れた苗木たちも多かったが、残った苗木たちは年ごとに寒冷地仕様で育ち、なじんで元気に育った。この寒さに強い、コーヒーノキの実を、自社で開発した独自の土に埋めて、子どもをどんどん増やしていき、現在約3万本の珈琲の木や苗木が育っている」と振り返る。
澤井珈琲では、最初は寒冷地では珈琲の実は付かないだろうとの見立てのもと、コーヒーの葉でコーヒーの健康成分を引き出した「トリゴネコーヒー茶」を目的に栽培していたが、5年後以降には、少しずつでも実を付けるようになったことから栽培の方向性を軌道修正。
「お茶だけではなく、この北緯35度の境港でも、国産珈琲の栽培も可能ではと希望が見え、現在、コーヒー栽培では収量アップと品質向上に向けて、水やりの頻度や自社開発した肥料などを手探りで実験している。この中には、ゲイシャ品種もあり、ジャパニーズ・ゲイシャとして売り出していく構想もある」と力を込める。
ラボショップ外観
今年はここで、5キロのコーヒーチェリー(生豆換算3キロ)を収穫。「少しでも多くの方に味わっていただきたい」との想いのもと他の産地の豆とブレンドにしてラボショップで販売したところ好評を博し1か月足らずで完売した。
「皆さまから“美味しい”と言っていただけた。来春には50キロの収穫を見込む」と述べる。
新設された2棟の温室ハウスで育つコーヒーノキの一端は、ラボショップのテラス席から眺められるようになっている。
コーヒーの研究棟では「珈琲の可能性は無限大」をテーマに掲げ商品開発に加えて、機能価値と情緒価値の両面からコーヒーの新たな可能性を探索。近く新商品の投入を予定しているという。
第4工場で供給能力が大幅に増強
第4工場
ドリップバッグは現在1日最大30万個を製造しているが注文に追い付かないことから、第4工場に一日約3万個増産のドリップバッグ製造機械1台を増設した。
第4工場には、機械の増設余地があり、時期を見ながら増設する予定という。
第4工場の稼働により供給能力も大幅に増強した海外出荷や商品加工作業は、過去、第2、第3工場で手分けをして行っていたが、現在、商品加工製造は第4工場にほぼ一本化されている。
その上、配送会社と連携するシステムを構築したことで供給能力が飛躍的に向上した。
「昨年までスタッフが毎月十数時間残業していたのが、今は残業がほぼゼロになった。また、第4工場からの配送効率化がアップして、通常出荷に加え、追加で、その日のうちに出荷することが出来る“最強配送商品”となり、大幅に注文量を増やし、売り上げを伸ばすことができた」(澤井社長)との手応えを得る。
以前はセールの時などストックする場所は限られていたが、現在はスペースに余裕ができ通常の出荷作業を終え、終業までの時間を前倒しでの準備に充てている。これにより、大量注文などが入る年末年始の繁忙期にも残業を極力回避して対応していく。
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