他人事ではいられない「空き家問題」のリアル

image

住宅価格の高騰が止まりません。不動産経済研究所の調査によれば、2024年の新築マンション1戸あたりの平均価格は6,082万円と8年連続で上昇しています。その一方で、深刻な社会問題となりつつあるのが「空き家問題」。総務省の調査によれば、全国の空き家の数は900万戸、住宅全体の13.8%にまで及んでいるそう。

「空き家問題」は、人口そのものの減少や少子高齢化、都市部への人口集中など、日本という国が抱える様々な社会問題が複雑に絡み合った結果でもあります。今回は、この「空き家問題」についてわかりやすく解説し、そのリアルに迫ります。

日本の住宅の4戸に1戸が空き家に!?

日本の人口は年々減少を続けていますが、それに反比例して増加し続けているのが「空き家」です。総務省の2023年の「住宅・土地統計調査」によれば、総住宅数のうち、空き家は900万戸。総住宅数に占める空き家の割合(空き家率)は13.8%となっています。空き家数は過去30年間、一貫して増加しており、1993年から2023年までの30年間で約2倍になっているそう。

賃貸住宅や別荘などを除いた、一般的な「空き家」の割合について都道府県別に見てみると、鹿児島県が13.6%と最も高く、それに続くのが高知県の12.9%、徳島県と愛媛県の12.2%と、特に西日本で空き家の割合が高い傾向にあるようです。

これだけでも十分に高い気がしますが、野村総合研究所によれば、2043年には全国での空き家の割合が約25%になるという試算も。つまり、そう遠くない将来、日本の住宅の4戸に1戸が空き家になる時代がやってくるということになります。

(出典)総務省「住宅・土地統計調査」(2023年)

引用元:
https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2023/pdf/g_kekka.pdf

「空き家」が増加している5つの理由

空き家が増加する主な理由としては、大きく下記の5つが挙げられます。

(1)少子高齢化

少子高齢化により、住宅を引き継ぐ子どもや身内がいないケースが増えています。こうした場合、その住宅に住んでいた高齢者が施設や病院に入ったり、亡くなったりした後、家だけが空き家として残ることになります。

(2)都市部への人口集中

若い世代が仕事や生活の利便性を求めて都市部に移動し、そこで自分たちの住宅を買うケースも増えています。そのため、地方に住んでいた親が亡くなった後、誰も住む予定のない親の家(実家)が空き家として残ることになります。

(3)相続問題

親の家(実家)を相続したのはよいものの、その家をどうするかの結論が身内でまとまらず、そのままずるずると放置されることも少なくありません。また、売りたくても金額が想像よりはるかに安く、売却の決断ができない、修繕したくても金額が高くて二の足を踏むケースも多いようです。

(4)古い建物に価値がつきにくい

日本の多くの家は木造住宅。築年数が20〜30年を超えると建物は資産価値がほぼないものとみなされるため、融資がつきにくく、結果として流動性が低くなります。そのため、持ち主が転居、あるいは相続した後、売りたくても買い手がつかずに空き家化してしまうことに。

(5)解体費用が高額

空き家は、当然ながら解体するにも費用がかかります。そのため、「放置しておくのはよくないとわかってはいるけど、解体の費用が負担できない」という理由で放置するしかなく、かつ売りに出していても買い手がつかないため、結果としてそのまま老朽化が進んでいるケースが少なくありません。

このように、空き家が「空き家化」する理由は様々で、実際にはいくつもの理由が複雑に絡み合っている場合がほとんどです。

なぜ「空き家」が増えることが問題なの?

使う予定のない住宅を「空き家」にしておくことは、所有している個人にとっても、地域にとってもマイナスの影響を与えます。

個人にとっては、住んでいなくても毎年、固定資産税がかかりますし、誰も住んでいない住宅は換気がされずに湿気が溜まりやすいため、カビや木材の腐敗を引き起こしたり、害虫が侵入したりと老朽化が進みやすくなります。そのため、維持をしていくためには、たとえ住んでいなくても修繕が必要になったり、換気や庭木や雑草の手入れのために定期的に訪れたりといったメンテナンスの手間も必要になります。加えて、中にものが残っている場合、空き巣の被害に遭ったりする可能性もあります。

Photo by iStock

地域にとっては、すべての空き家がしっかりメンテナンスされていればよいのですが、そうではない場合、治安や景観の悪化、火災や倒壊リスクの増大などが懸念されます。

また、空き家が増えるということは、その地域の住民そのものが減るということでもあります。住民が減ると、道路や水道、電気といったインフラや行政サービスを維持することが難しくなってしまいます。スーパーや飲食店、銀行、医療施設など、日々の生活に欠かせない施設の撤退が促進され、商店街の活気も失われていくかもしれません。その結果、さらに買い手がつきにくくなり、ますます空き家が増えていく……という悪循環に陥ってしまうのです。

他人事ではいられない! 身近な「空き家」のリアル

「自分は都市部で生活をしていて、地元に戻ることは考えていない」、「でも、このままだと親が亡くなった後、誰も住む予定のない親の家が空き家として残りそう」という人は、皆さんの中にも多いのではないでしょうか。

実際に相続が発生し、実家が空き家となった場合の対処は簡単ではありません。なぜなら、メンテナンスをするにも、取り壊しもするのにも手間や金銭的な負担がかかりますし、家族との想い出が詰まっている家を取り壊したり、売却したりすることに自分あるいは身内の誰かが心理的な抵抗を感じる場合も少なくないからです。

Photo by iStock

兄弟の一人が売却したいと考えても、別の兄弟は売却に反対するといった状況はめずらしくありません。親が生前、「こうしてほしい」と意思表示をしていた場合にはまだよいのですが、そうではない場合にはどちらの主張が親の気持ちを代弁しているとも言えないため、落としどころが見つかりにくいのが現実です。

また、最近では平均寿命の伸びに伴い、高齢の親が一人で暮らすのが難しくなり、老人ホームや子どもの家などに転居し、実家が長い年月、空き家となるケースも増えています。そうした場合、子どもは「管理が大変だから売却してしまいたい」と考えたとしても、親のほうは「いつかは自宅に戻りたい」「最期は自宅で迎えたい」と考えていたり、認知症などのために売却の判断や手続きそのものが困難であったりするケースも少なくありません。

海外から“AKIYA”に日本に熱い眼差しも

なんだか暗いお話ばかりが続いてしまったので、ひとつ明るいニュースもご紹介しましょう。

日本では深刻な社会問題としての存在感が増しつつある「空き家」ですが、海外では一転、“AKIYA”として熱視線を浴びているのをご存じでしたか?

Photo by iStock

海外からの観光客の多さを見てもわかるように、今世界では空前の日本ブームが巻き起こっています。治安がよく、人々がやさしく、豊かな自然と四季があり、食べものが美味しい日本。物価が安い上に、円安の時代でもあります。「移住して長く住みたい」「別荘を持ってバケーションで訪れたい」と考える人が大勢いるのもわかりますよね。

そんな日本で一軒家が安価で買えるのですから、“AKIYA”は確かに魅力的です。加えて、新築好きな日本人にとって、「古い木造住宅=価値が低く、管理の手間がかかるもの」であっても、海外には築100年を超えるような建物に住むのが当たり前の国もたくさんあります。そうした国の人々にとっては、老朽化した住宅を、手間をかけて自分らしくリノベーションすることも、理想のライフスタイルを実現する過程のひとつなのです。

「空き家問題」は新たなフェーズに突入

2025年には日本は団塊の世代が75歳を迎え、国民の5人に1人が後期高齢者(75歳以上)となる超高齢化社会が現実のものとなっています。そしてこの団塊の世代が平均寿命を超過する2040年頃には、相続問題も、空き家問題もさらに拍車がかかっていくはずです。まさに今、「空き家問題」は新たなフェーズに突入している時期と言えます。

多くの人にとって他人事ではいられない「空き家問題」。そのリアルを知り、家族がそれぞれどんな想いでいるのか、それを実現するのにどういった壁があるのか、ポジティブに有効活用する方法がないのかなど、多方向から一度ゆっくりと考えてみてはいかがでしょうか。

大竹 のり子

ファイナンシャルプランナー/株式会社エフピーウーマン代表取締役

大竹 のり子

出版社の編集者を経て、2005年4月に女性のためのお金の総合クリニック「エフピーウーマン」を設立。現在、経営の傍ら、講演、雑誌、テレビなど多くのメディア出演を通じ、女性が正しいお金の知識を学ぶことの大切さを伝えている。『老後に破産しないお金の話』(成美堂出版)、『幸せになれるお金の使いかた』(ダイヤモンド社)、『ライフプランから考える お金の増やし方』(ナツメ社)などお金の分野での著書・監修書は約70冊に及ぶ。

コメント