健康維持に欠かせない臓器 腎臓にもっと関心を

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腎臓は、私たちの健康維持に欠かせない臓器です。
機能が著しく低下すると、透析や腎移植が必要になる場合もあります。今回は、あまり知られていない「腎臓」の働きや機能低下が及ぼす影響などについてお伝えします。

(編集=坂本ミオ イラスト=はしもとあさこ)

執筆者

熊本大学大学院生命科学研究部 腎臓内科学 准教授 桒原 孝成(くわばら たかしげ)さん
熊本大学大学院生命科学研究部 腎臓内科学
准教授 桒原 孝成(くわばら たかしげ)さん

  • 日本内科学会総合内科専門医・指導医
  • 日本腎臓学会専門医・指導医
  • 日本透析医学会専門医

    はじめに

    元気を保つ“縁の下の力持ち”

    臓器の中でよく知られているのは「心臓」だと思います。それに続いて「胃」「肝臓」「肺」などの名前が挙がるのではないかと思いますが、「腎臓」の名前が浮かぶ人はどれくらいいるでしょうか。

    「おしっこを作っているところかな?」くらいの知識は多くの人にあるものの、普段あまり意識することのない地味な臓器かもしれません。

    そんな腎臓は、実は私たちの体を健康に保つ縁の下の力持ち的な存在です。平均寿命世界一の日本だからこそ、皆さん“健康長寿”で過ごしたいですよね。健やかな人生を目指して、少しだけ一緒に知識を深めてみましょう。

    腎臓の働き

    尿を作る以外にも多彩な働き

    腎臓の機能で最も知られているのが「おしっこ(尿)」を作る働きです。尿を出すことで、余分な水分や体にたまったゴミ(老廃物)を捨てるといった大まかなイメージはあるのではないでしょうか。

    もちろんそうなのですが、体内の水分の過不足が生じないように、多ければ捨て、足りなければ保つように働き、カリウムをはじめとするミネラルの微調整、血圧調節、骨や血管を健康に保つ、貧血にならないように指示を出す、など多様な働きをしています。

    普段は意識していませんが、何気ない日常生活を不自由なく送ることができているのは腎臓のおかげでもあります。おいしい果物をいっぱい食べたり、たまにはラーメンを味わったりといったことも、腎臓が正常に働いてこそ楽しめているのです。

    また、オリンピック選手などが行う高地トレーニングでは、酸素の少ない高地に適応するために酸素を運搬する赤血球を増やそうと腎臓が頑張っています。

    腎臓はとっても働き者! 尿を作る、水分バランスを一定に保つ、ミネラルの微調整、血圧調整、貧血にならないよう指示を出す、骨や血液を健康に保つ、など

    機能が低下すると…

    慢性腎臓病(CKD)や合併症に注意

    多彩な働きをしている腎臓だけに、機能が落ちてくるとさまざまな病気につながります。むくみ(浮腫)や高血圧をはじめ、腎機能低下がさらに進行すると食欲低下(尿毒症)、貧血、骨粗しょう症などを合併します。

    厄介なのは、これらはいずれも腎機能低下がかなり進まないと気付けない点です。

    腎機能を表す数値に「eGFR」があります。健康な腎機能を100点とすると、60点を下回ると慢性腎臓病(CKD:Chronic Kidney Disease)の診断になります。この時点で自覚症状はほとんどなく、45点あるいは30点を下回るようになって初めて「おかしい」と気付くことも珍しくありません。15点を下回ると末期腎不全として透析療法を含めた治療を見据えた相談が必要になります。

    尿検査で分かる尿蛋白の値(-、±、1+、 2+、3+)についても、2+以上などかなり悪くなってから症状に気付くことが多いです。

    腎臓は全身の血管に関係し、健康に寄与しています。無症状の段階の腎機能低下、例えば腎臓の点数が60点、あるいは尿蛋白が±の時点で既に心臓の発作や脳卒中のリスクが高まります(図1)。これらから、腎機能低下は「老化」につながるといわれています。

    腎臓の働きが落ちると、知らず知らずのうちに老化が進んでいる!?

    図1 CKD患者の心血管病による死亡リスク

    CKD(60点以下)CKDの早期から心血管病のリスクが高まります

    腎疾患の予防

    定期的なチェックが不可欠

    腎臓が私たちの健康な生活にいかに大切か、そして無症状の時点で既に全身に変化が起こり始めていることを感じていただけたでしょうか。

    「無症状だから、自分では気付けないよね」というご意見もあるでしょう。本当にその通りです。腎臓専門医である私でも、腎臓病にかかってしまったとき、症状のみでごく早期の段階で気付くことは難しいかもしれません。「早く気付くために何かないの?」と言われれば、尿の泡立ち、軽度のむくみ、感冒(風邪)後の血尿などでしょうか。

    そうなると、やはり日頃のメンテナンス、定期チェックが欠かせません。自家用車をお持ちの方は必ず車検を受けていると思いますが、これと同じです。事故や故障が起こる前に、事前に不具合を察知して対処したいですね。

    腎臓の悲鳴を検査で早く察知しよう

    尿蛋白の数値に注意しよう

    わが国では、幼児から高齢者まで検尿を含めた健診を受けることができます。これは世界に誇れる素晴らしい制度です。学校、職場あるいは自治体の年1回の健診を受ける権利を必ず活用しましょう。

    血圧や脂質異常を放置すると脳卒中や心筋梗塞など重篤な疾患のリスクになることが知られるようになりました。健診でコレステロールや血圧が正常値から外れている場合、「受診しなければ」という気持ちになると思
    います。

    では尿蛋白の数値ではどうでしょうか。±~1+で受診を勧められた場合、正常(-、陰性)から少しだけ異常値に振れただけと考えるかもしれませんが、それはとても危険な思い込みです。糖尿病・肥満や高血圧など生活習慣病が原因の場合は、尿蛋白が少しでも認められている時点で、既に全身の血管が傷ついていることを意味します。「リスクがある段階」を超えて障害が始まっていることを示唆しているのです。

    少しの異常でもすぐに受診を

    以前は治療法がないといわれた腎臓病ですが、近年の急速な医学の進歩により、新しい薬や多職種による指導により治療が可能になってきています。CKDの場合も、ごく早期であれば回復も目指せるかもしれません。ただし、進行後の治療としては

    落ちてしまった腎機能を維持する、あるいは低下を遅らせることが基本です(図2)。

    健診で検尿異常を指摘されたら(車検で異常が見つかったら)、たとえ軽微な異常値であっても「治療可能なうちに(故障や事故が起こる前に)」早く受診しましょう。

    図2 治療開始時期によるCKDの治療効果

    CKDの場合も、ごく早期であれば回復も目指せるかもしれません。ただし、進行後の治療としては落ちてしまった腎機能を維持する、あるいは低下を遅らせることが基本です

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