南海トラフ地震、広大な想定震源域…津波到達は最短2分

 南海トラフ地震の発生可能性が相対的に高まっているとして、気象庁は8日、初となる「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を発表した。南海トラフで巨大地震が起きると、震源域から近い太平洋沿岸では最大30メートル超の津波が押し寄せるなど、甚大な被害が想定されている。同庁は少なくとも1週間は地震への備えを再確認するように呼びかけている。

神奈川県西部で震度5弱、南海トラフとの関連は「一般的に考えて距離が遠いので関係ない」

 南海トラフは、静岡県の駿河湾から宮崎県の日向灘沖まで約700キロ・メートルにわたって延びている。フィリピン海プレート(岩板)が陸の岩板を引きずりながら、年間3~5センチの速度で沈み込んでいる。地下にひずみがたまるため、100~150年間隔で大地震が繰り返し発生している。トラフとは、二つの岩板が接する海底の溝のことだ。

 政府の地震調査研究推進本部は、今後30年以内にマグニチュード(M)8~9級の巨大地震が70~80%の確率で起きると推定している。

 地震に伴い陸の岩板が跳ね上がると、海面を押し上げて津波が発生する。政府の2012年の想定によると、東京都の島しょ部や静岡県、高知県は最大30メートル超の巨大津波に見舞われる恐れがある。

 沿岸近くで地震が発生した場合、1メートル以上の津波が沿岸に到達する最短時間は、静岡県で2分、和歌山県3分、高知県5分と見積もられている。揺れを感じたら、すぐに標高の高い場所に避難する必要がある。

 被害は最大で死者・行方不明者23万1000人、経済被害は207兆8000億円と見積もられ、国難級の災害となる恐れがある。

 国は、南海トラフ地震で震度6弱以上か3メートル以上の高さの津波が想定される1都2府26県の707市町村を、防災施設の整備などを行う「防災対策推進地域」に指定している。今回発表された臨時情報(巨大地震注意)の対象となる。

最低1週間 備え再確認

 南海トラフ地震臨時情報は、2019年5月に運用が始まった。

 日本の大規模地震対策は、駿河湾などで懸念されていた東海地震の予知を前提に進められてきた。だが東日本大震災を予測できなかった反省から、国は対策を転換した。

 1707年の宝永地震(M8・6)では、南海トラフのほぼ全域が震源となった。1854年には安政東海(M8・4)と安政南海(同)の二つの地震が32時間差で続いた。1944年の昭和東南海地震(M7・9)の2年後には、昭和南海地震(M8・0)が発生した。

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 こうした事例を踏まえ、今回のような大きな地震が起きた時は、その後連動して巨大地震の発生可能性が高まるとして、さらなる地震への事前対策を呼びかける仕組みを作った。

 気象庁の基準では、南海トラフ沿いの想定震源域でM6・8以上の地震か、岩板が緩やかにずれ動く「ゆっくりすべり」の異常を確認した場合、臨時情報の「調査中」を発表。その後、専門家による評価検討会が巨大地震との関連性を調査し、M7以上8未満で「巨大地震注意」、M8以上で「巨大地震警戒」に切り替える。

 今回は、日向灘で基準を上回るM7・1の地震が起きたため、巨大地震注意を発表した。

 巨大地震注意が発表された場合は、少なくとも1週間は地震への備えを再確認するほか、必要に応じて自主避難をするよう求めている。巨大地震警戒の場合は、これに加えて、津波避難が間に合わない災害弱者らに事前避難を求める。

 気象庁は、M7以上の地震の後、1週間以内にM8級以上の巨大地震が起こる可能性は数百回に1回程度としている。臨時情報に詳しい、福和伸夫・名古屋大名誉教授は「情報が発表されても地震が発生しない『空振り』は当然起きる。これを機会に家族で話し合うなどして、地震への備えに不足がないか確認してほしい」と呼びかけている。

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 科学部 天沢正裕、笹本貴子、渡辺洋介、編成部 北川雄大、デザイン部 谷崎純太が担当しました。

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