〈馬毛島の変化を写真で比べる〉上空から見た馬毛島。上は2023年1月12日撮影、下は25年1月10日撮影=いずれも本社チャーター機から
ハローワークくまげに設けられた馬毛島の自衛隊基地整備に関する求人コーナー=10日、西之表市西之表
鹿児島県西之表市馬毛島で、米軍空母艦載機陸上離着陸訓練(FCLP)移転を伴う自衛隊基地整備が始まって2年がたった。地元では賛否の論争から、古くから続く暮らしや産業をどう守るかに焦点が移りつつある。26日告示の市長選、市議選を前に、基地工事がもたらした功罪を追った。(連載・馬毛島の現在地 基地着工2年③から)
◇
2.02-。ハローワークくまげ(西之表市)が公表した最新の2024年10月時点の有効求人倍率だ。求職者1人に何件の求人があるかを示す数値で、県平均は1.11倍、全国の1.25倍を大幅に上回る。好況下で“売り手市場”といえる一方、深刻な人手不足の表れでもある。
馬毛島で自衛隊基地工事が始まり、賃金設定は大きく変わった。24年10月の求人賃金の月額は、上限が前年同月比1万7000円増の25万円。パートの平均時給も1000円を超える。
ハローワークくまげによると、工事関連資材や作業員向けの荷物の配達で、運送業界の求人が目立つようになった。訪れる求職者から「最低賃金が時給1000円でも安く感じる」との声も聞かれるという。管内の情勢をまとめた資料をみると、医療・福祉が他業種に比べて常に求人数が多い。
■ □ ■
「人さえいれば…」。西之表市と中種子町で福祉施設を運営する社会福祉法人の事務局長(73)は何度も口にした。ここ数年、主に男性職員の離職が相次いでおり、業務の見直し、縮小を余儀なくされている。
とりわけ同法人が持つ養護老人ホーム(同町)は、存続の危機に立たされている。環境的、経済的に困窮する高齢者を自治体から受け入れる施設。種子島、屋久島で唯一ながら、事務局長は「70代の職員がいるからもっているようなもの」と明かす。
国が定めた介護保険料や自治体の支援で成り立つ高齢者施設。社会情勢に応じて柔軟に報酬が変動するわけではなく、人件費を以前より2割近く増やしてもなお、人材流出に歯止めがかからない。職員が減るたびに、1人当たりの業務負担は増える悪循環。事務局長の中で「介護難民」の言葉が現実味を帯びる。
■ □ ■
人材確保をより困難にさせているのが、住宅不足の問題だ。基地着工前後から不動産取引が活発化し、市内の物件は高騰。かつての水準に戻る兆しは見えてこない。福祉関係者からは「技能実習生を採用したくても住まわせる場所がない」との悲痛な声が漏れる。
基地工事が進むにつれ、市内各地でコンテナ型の簡易宿舎が目立つようになった。中には医療・福祉関係に貸し出す提案もあったものの、提示された家賃は「1室で月7万5000円」。そう聞いた瞬間、諦めざるを得なかったという。
建設業と近い技能を持つ農業人材も基地工事で“草刈り場”となった。高齢化で後継者不足に悩む中、農業離れに追い打ちをかけた格好だ。3代続く肥料店の社長(83)は「放棄されて荒れた畑が増えて悲しい。基地完成後に農業に人が戻る確証もない」と不安を隠さない。
農水産資源にあふれ、古くは「飢えない島」と称された種子島。国策の波にのまれた今、人もモノも「飢える島」になりつつある。
コメント