「農水省の発表は、1桁あるいはそれ以上少ないと思います」
日本の国土は、外国資本に買われまくっているのか?
国土交通省が毎年発表している公示地価で、住宅地の地価上昇率が2年連続で全国トップとなった北海道富良野市の北の峰町。富良野は「第2のニセコ」とも言われ、土地や滞在施設に対する外国資本の需要が高い状態が続いている。
外国人の土地取得をめぐってはこれまでも、長崎県対馬での韓国資本による土地買収や、北海道での中国資本による森林取得などが問題視されてきた。外国人が土地を何ら制限なく売買できる国は世界で日本以外にはなく、「一定の制限を設けるべき」との声もある。
「北海道のトマム、サホロ、キロロの3大スキーリゾートは中国の復星集団に買収され、その後、いずれのリゾートも転売された」と、国土資源総研所長の平野秀樹氏(写真はトマムリゾート)
外国人が日本の国土を買い始めたのはいつで、目的は何か。今現在、日本のどれくらいの土地が外国人に所有されているのか。
「外国資本による国土買収が本格的に始まったのは’08年です。
農水省は毎年、外資が取得した森林の面積を公表しています。去年8月の発表では、’06年から’23年までの累計が1万79ヘクタール。農地は’17年から’23年までの累計が158ヘクタールでした。
最初に断っておきますが、国土買収に関わっている外資とは、主に中国を指しています」
『サイレント国土買収』(角川新書)や『日本はすでに侵略されている』(新潮新書)などの著書がある、国土資源総研所長の平野秀樹氏はこう説明する。平野氏は’08年から「外資の国土買収」をテーマに全国踏査を続けている。
「私はこの問題を17年間追いかけていますが、農水省が発表した外資による土地の買収面積は、1桁あるいはそれ以上少ないと思います。実際に買われている森林の面積は1万ヘクタールどころではなく、10万ヘクタールはあるでしょう。
農地は2桁違い、1万5000ヘクタールを超えます。なぜなら、私が入手した情報によると、関東の某県には外国籍の個人や法人が所有権または賃貸借権を有するとみられる農地が、4800ヘクタールあるんです。そのうちの78%は中国籍。あとの22%はスリランカ籍とマレーシア籍です」
住宅地やリゾート地は? 重要施設の周りは?
住宅地やリゾート地など、森林と農地以外の外資による土地取得の実態はどうなっているのだろう。
「住宅地もリゾート地も外資区分の統計がないため、実態はわかりません。ただ、都心の不動産関係者の実感によると、住宅販売の2割から4割くらいは外資関連のようです。
’12年に『再生可能エネルギー特別措置法』が施行されて以降、ソーラーや風力発電などの建設用地の買収が全国に広がっています。上海電力をはじめとする中国系企業による買収がかなりの割合を占めていると私は見ていますが、再エネ用地の公表資料や統計値に外資区分はなく、外資がどのくらい土地を取得しているかを示すデータはありません」
一方で政府は、昨年12月に「土地等利用状況審議会」を開き、’22年の「重要土地等調査法」施行から初めて、国の安全保障上重要な施設周辺の土地・建物の外国人や外国法人による取得状況の調査結果を公表した。
重要土地等調査法とは、自衛隊拠点や米軍基地、原子力発電所など重要施設の周囲1キロや国境離島を「注視区域」や「特別注視区域」と規定し、利用を規制する法律。昨年の調査は、’23年度までに指定された注視区域399ヵ所を対象に行われた。
その集計結果によると、指定区域339ヵ所の土地・建物の取得総数は1万6862件で、そのうち外国人と外国法人による取得は371件。国別では、中国が203件(54.7%)で最多だった。
「重要施設とされる軍事や防衛、原子力関係の施設周辺はほとんど、すでに地上げが終わっています。変電所周りも買われてしまっている。重要な土地に関していうと、データセンターなども含め、外国資本による買収自体は一巡した感があります」
外資が日本のそれらの土地を取得する目的は何か。
「たとえば原発や変電所、防衛省や自衛隊施設周辺の土地は、橋頭堡としてドローン基地にもなり得ます。つまり、有事を想定して取得していると考えられる。
リゾート地は金のなる木ですから、経済的に有効な場所と見て買収しているのでしょう。
森林は水源が目当てですし、日本の農地は汚染されていないので非常に貴重。森林と農地は格安なうえに価値があるので買うんだと思います」
「外国人所有地」→「所有者不明」→「税金の未払い」のカラクリ
それにしてもなぜ、平野氏が先に指摘した「国が公表している外資による買収面積は、実態より1桁あるいはそれ以上少ない」などということになっているのか。
「たとえば北海道のトマム、サホロ、キロロの3大スキーリゾートは、中国の復星集団(フォースン・グループ、上海)に買収されました。しかし、復星集団はそのいずれのリゾートも転売しています。
それらを買ったのはどこか。たとえばキロロの場合は、東京千代田区のキロロマネージメントという合同会社です。
合同会社キロロマネージメントの登記簿を調べると、代表社員は株式会社キロロホールディングスとなっています。株式会社キロロホールディングスを調べると、代表取締役は中国上海の人物。
このように土地の所有権者を日本の合同会社にし、代表社員を日本法人にすると、トマムもサホロもキロロも中国資本とは直接的に言えないわけです。
今、森林地帯の大半のリゾート地で、所有権者を合同会社や特定目的会社とし、出資者を匿名化させる手法が使われています。だからここ数年、外資の買収が収まったように見えるし、農水省が公表する外国資本の森林面積もあまり増えていない。カモフラージュが徹底してきているからです」
リゾート地だけではない。メガソーラーをはじめとする再エネ事業でも、事業者が合同会社となっている比率が高いという。
「メガソーラーや風力発電では事業者が合同会社というケースが目立ち、その件数が多いのは茨城、千葉、栃木のほか、北海道、宮崎、鹿児島です。外資の合同会社では、中国が絡んでいる箇所が最も多いとみられます。
合同会社の場合、創設時の社員と出資者はオープンになりますが、設立後はどこかの外資が100億円出資したとしても登記簿は創設時のまま。社内限りの定款を変えるだけです。こうした仕組みにより、合同会社を牛耳っている事実上の支配者は永遠に公表されないわけです。
合同会社は、資産の流動化や資金調達を目的に設立される特別目的会社の一種。幅広い投資家を集めやすくするために匿名性を高めた会社形態で、’06年以降に随分できています。匿名性によって国土の所有者が不明になるような仕組みを放置していること自体、そもそも問題なんです」
所有者不明の土地が増えると、どういう問題が起きるのか。
「外資が購入した土地は、外国人の間で転売されて所有者不明になるケースが多いですが、そうなると税金の徴収が難しくなります。固定資産税だけでなく、転売にかかる不動産取得税や所得税、登記に伴う登録免許税も、支払われることはまずない。
実際、地方税である固定資産税と不動産取得税を取り損ねている自治体は多いと思います。
しかし自治体は議決により、徴収できなかった税金を不能欠損処分によって『なかったことにできる』ため、取りそびれている固定資産税の額が表に出ることはほとんどありません。
昨年4月、『所有者不明土地』解消のため、国民への相続登記が義務化されました。国民の税金逃れは許さないのに、外国人由来の所有者不明は野放しにしたまま。これでは国内人への逆差別になってしまいます」
平野秀樹氏が著書『サイレント国土買収』で取り上げている、中国に本社を置く「上海電力」系の合同会社が運営する山口県岩国市のメガソーラー事業の建設現場(’22年10月18日撮影)
中国の『一帯一路』を警戒し規制強化する各国…外国人の土地買収規制がないのは日本だけ
「日本の土地売買規制は非常に甘く、外資に無防備すぎる」と平野氏は指摘する。現に、日本には外国人の土地買収に対する規制がない。
「3年前に重要土地等調査法ができましたが、これはほとんど骨抜きの法律と言っていいでしょう。規制区域が重要施設の周囲1キロ四方と限定的で狭い。実際にできることは土地利用の調査に限られ、売買規制にまで踏み込んでいない。結局、何の縛りにもなっていないんです」
外国資本による自国の国土買収に、他国はどう対応しているのか。
「中国、フィリピン、タイ、インドネシアなどでは、原則として外国人や外国法人の土地所有は認められていません。
’13年に中国が『一帯一路』構想を打ち出してからは、どの国も警戒感を強めていて、ニュージーランドやオーストラリアも規制を強化しています。買収規制が一切ないのは日本だけです」
では、日本にはどのような対策が必要なのだろう。
「優先的に取り組むべきことは、不明化防止です。所有者不明の土地が非常に増えているので、それをまず解消する法制度を整備する必要があります。大義名分はガバナンスの適正化ということで」
さらに平野氏は、見習うに値する法律として、スイスの「コラー法」を挙げる。
「コラー法には、土地の過剰外国化を阻止するために外国人による土地取得を規制すると明記されています。届け出違反の土地は没収され、転売も禁止。外国人の別荘取得は1500戸までと決められています。厳格な国土管理をするには、これくらいの法律が理想です。
ただ、日本では憲法29条によって日本人、外国人を問わず財産権が保障されているので難しい。外国人の土地売買を制限すると、財産権の侵害につながる可能性があるからです」
日本では、外国人による国土買収の規制を簡単には実現できない……それが現実なのだろうか。
「ハードルは高いかもしれません。しかし、今のままでは日本の国土はどんどん外国資本に買われ、所有者不明となってしまいます。
とにかく、法整備を急ぐことが大事です。やはり、国民も危機感を持って、国際標準の土地管理を求める声を上げなければいけないと思います」
外国資本が自国の国土を買いまくる――そんな状況をよしとする国民は、決して多くはないはずだ。
▼平野秀樹(ひらの・ひでき)国土資源総研所長、森林セラピーソサエティ副理事長。九州大学卒業。環境省環境影響評価課長、農水省中部森林管理局長を歴任。東京財団上席研究員、姫路大学特任教授も務めた。著書に『サイレント国土買収』(角川新書)『日本はすでに侵略されている』(新潮新書)『日本、買います』(新潮社)など。
- 取材・文:斉藤さゆり
- PHOTO:アフロ(2枚)
斉藤 さゆり
フリーライターとして雑誌記事の執筆、書籍の構成・編集などを手がける。現在は北海道在住で、ニュースサイトを中心に活動。社会情勢に関する執筆の機会が多い。地方紙の通信員としても取材・執筆。
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