視界がぼやける、物が二重に見える…それは加齢による老眼だけでなく、視野が欠けていく病気「緑内障」の初期症状である可能性も。緑内障は、放置すると失明のリスクもある深刻な病気ですが、早期発見と予防で進行を食い止めることができます。今回は、簡単にできる「盲点チェック」の方法や、緑内障の基礎知識、そして目を守るための生活習慣まで、二本松眼科病院・副院長の平松類先生に詳しく教えてもらいました。
視野欠損により目が見えにくくなる「緑内障」
緑内障とは、目で見た情報を脳に連絡する視神経が傷つくことで、視野が部分的に欠けてしまう病気です。治療をせずに放置すると、視野の欠損が広がり、目が見えにくくなります。
視神経にダメージを与える原因は、眼球内の血流の低下、加齢による機能の低下、視神経の脆弱性、眼圧の上昇など、さまざまです。とくに眼圧の問題は、緑内障の進行具合に影響する最大の原因といわれており、基本の治療法は「眼圧を下げる」ことに尽きるといっても過言ではありません。
●緑内障と白内障の違い
名前のせいで混同されやすいのですが、緑内障と白内障は、まったく異なる病気です。
白内障とは、目のレンズ機能を果たす水晶体が白く濁ることで、目が見えにくくなる病気です。世界的には、失明原因の第1位とされる病気ですが、日本などの医療先進国では、手術による治療法が確立されているため、80代のほぼすべての人が罹患しますが、まったく怖い病気ではなくなりました。
一方の緑内障は、80代の人でも発症するのは10人にひとり程度ですが、現代医療では失われた視野を元に戻すことは不可能であるため、より深刻な病気といわざるを得ません。
緑内障になると失明してしまう?
緑内障と聞くと、すぐに「失明してしまうかも?」と不安に感じる人はとても多いものです。たしかに緑内障は、中途失明原因第1位の病気ですが、放置せず適切な治療を受けていれば、約99%の人は失明することはありません。
1990年代に始まった調査の結果では、緑内障を発症してからの20年間で両眼を失明した人はたったの1.4%しかいなかったという学術論文も発表されています。それから約30年を経た現在であればなおのこと、失明の不安におびえる必要はないといえるでしょう。
ただし、現代医療では、視野欠損の症状の進行を止めたり、遅らせることはできても、失われた視野を元に戻すことはできません。つまり、緑内障は早期に発見して、早めにきちんとした治療を受けることがとても重要なのです。
緑内障にもさまざまなタイプがあり、種類によって症状や進行するスピードは異なります。
しかし、一般的な緑内障であれば、普通は視神経へのダメージはゆるやかに進むため、急激に視野が大きく欠損したり、突然失明してしまうようなことは起こりません。
●定期的な眼科検診は必要?
緑内障は、適切な治療を受ければ、ほぼ失明することはありませんが、医療技術が進歩した現在であっても、失った視野の回復や視神経の再生は不可能です。40歳を過ぎたら、ぜひ定期的な眼科検診を受けましょう。
強度近視、緑内障の疑いがある人必見!「盲点チェック」
盲点チェックは片目ずつおこないます。これは、右目の盲点チェックをする場合のやり方です。
1:両腕を前に伸ばし、両手の人差し指を立てて、指先が目線の高さにくるようにする
2:左目を閉じる(左目をチェックする場合は、右目を閉じる)
3:右目で左手の人差し指の指先を見つめたまま、右手をゆっくりと右方向にスライドさせる(左目をチェックする場合は、左右を逆におこなう)。
緑内障は、視野が欠ける病気ですが、普段は脳が補ってくれるので視野欠損はなかなか自覚できません。そこで、この「盲点」を利用すれば、緑内障による視野欠損をイメージしやすくなります。
定期的にチェックしてみて、盲点が拡大している場合は、視神経がダメージを受けている可能性があるので、早めに眼科を受診しましょう。
緑内障の第一の予防策は?
「家族が緑内障だから予防したい」「近視が強いから緑内障が心配……」
このような予防に関する問い合わせは、たくさんいただきます。言い古されたことですが、緑内障においても早期発見・早期治療は大変重要です。現代医療では、一度失った視野やダメージを受けた視神経を再生することはできないので、視野欠損の症状が少しでも軽い状態で治療を始めることが大切だからです。
早期発見のために有効なのは、なにより眼底カメラや眼底検査と呼ばれる検査を受けることです。
眼底とは眼球の奥のことで、点眼によって瞳孔を開いた状態にし、光を当てて観察します。
さらに詳しく調べたい場合はOCT検査を受けてください。OCT検査とは、視神経や網膜を輪切りにするように撮影する映像診断で、視神経がどれだけ薄く、弱いのかもチェックすることが可能です。
●緑内障を防ぐ生活習慣
生活習慣でいえば、ビタミンAやビタミンCをよく摂る人は緑内障になりにくく、肉を食べない人は緑内障になりやすいなどの研究結果もあります。偏った食事も罹患リスクを高めるので、栄養バランスのよい食事を摂るようにしましょう。
血圧は、高過ぎても低過ぎても罹患リスクが高くなります。前者は塩分を控え、後者は運動するようにしましょう。長時間のデスクワークや運動不足もマイナス要因です。週3日程度は、30分以上歩く習慣を心がけてください。
また、高眼圧症の人や、視神経にダメージがあるがまだ緑内障にはなっていない人が、早いうちに積極的な治療を開始するなどの予防策もあります。
●家族が緑内障になったら要注意!
緑内障が遺伝する可能性については、まだたしかな研究データはなく、また遺伝するとしても確率は小さいとされています。ただし、近親者に緑内障患者がいる人は、発症リスクが高くなるのは事実なので要注意です。早めに専門医を受診して、定期的にチェックすることをおすすめします。
『眼圧を下げるには? 失明を避けるには? 緑内障について平松類先生に聞いてみた』(Gakken刊)では、緑内障に関する不安や悩みについて、平松先生が詳しく答えてくれています。
※ 参考文献:『緑内障 自分が患者ならこう対処! 名医が教える最新1分習慣大全』(中元兼二ほか著、文響社)、『緑内障 視神経乳頭陥凹拡大 眼科の名医10人が教える最高の克服法大全』(相原一ほか著、文響社)、『改訂新版 緑内障の最新治療』(平松類著・植田俊彦監修、時事通信社)、『自分でできる! 人生が変わる緑内障の新常識』(平松類著、ライフサイエンス出版)
眼圧を下げるには? 失明を避けるには? 緑内障について平松類先生に聞いてみた
平松 類さん
眼科医/医学博士。愛知県田原市生まれ。二本松眼科病院副院長。受診を希望する人は北海道から沖縄まで全国に及ぶ。専門知識がなくてもわかる歯切れのよい解説が好評でメディアの出演が絶えない。NHK「あさイチ」、TBSテレビ「ジョブチューン」、フジテレビ「バイキング」、テレビ朝日「林修の今でしょ! 講座」、テレビ東京「主治医が見つかる診療所」、TBSラジオ「生島ヒロシのおはよう一直線」、「読売新聞」、「日本経済新聞」、「毎日新聞」、「週刊文春」、「週刊現代」、「文藝春秋」、「女性セブン」などでコメント・出演・執筆等を行う。Yahoo!ニュースの眼科医としては唯一の公式コメンテーター。YouTubeチャンネル「眼科医平松類」は24万人以上の登録者数で、最新情報を発信中。 著書は『1日3分見るだけでぐんぐん目がよくなる! ガボール・アイ』『老人の取扱説明書』『認知症の取扱説明書』(以上、SBクリエイティブ)、『老眼のウソ』『その白内障手術、待った! 』(以上、時事通信社)、『自分でできる! 人生が変わる緑内障の新常識』(ライフサイエンス出版)など多数。
この記事は『眼圧を下げるには? 失明を避けるには? 緑内障について平松類先生に聞いてみた』より一部を抜粋し、再編集しています
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