【北京=東慶一郎】中国の 習近平シージンピン 政権が対日メッセージの発信に苦慮している模様だ。中国経済の不振を背景に、日中関係を重視する姿勢は示すものの、強硬発言も目立つ。中国・深圳市で日本人学校の男子児童(10)が刺殺された事件でも詳細を明らかにしない閉鎖的体質は変わらない。中国軍は日本周辺での威圧的行動を活発化させており、ちぐはぐ感が否めない。
「個別の事件が中日の往来や協力に影響しないことを信じている」
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中国外務省の報道官は19日の記者会見で、深圳の事件が日中関係に与える影響について問われ、こう述べた。一方で、動機や背景の説明を求める質問には「調査中」を繰り返し「類似の事件はいかなる国でも起こりうる」と強弁した。
日中関係は、昨年11月の岸田首相と習国家主席の首脳会談以降、徐々に改善の方向に向かっていた。今年5月の日中韓首脳会談に合わせた岸田氏と 李強リーチャン 首相の会談後は、両国要人の往来も活発になり、友好的なムードが醸成されていた。
経済低迷に悩む中国では、地方政府を中心に日本からの投資呼び込みを求める声が多い。こうした要望を踏まえ、中国政府も個別の懸案解決に向けた協議に応じていた。20日に発表された東京電力福島第一原子力発電所の処理水海洋放出を巡る両国の合意もその一つだ。
ただ、外交当局の動きに軍が足並みをそろえるわけではない。
8月以降、中国軍による領空侵犯や領海侵入が相次ぐ。今月18日には空母「遼寧」が沖縄県沖の接続水域を航行した。日本政府関係者は「明らかに日本への威嚇を意図した行為」とみているが、中国国防省は公式SNSで「国際法と国際慣習に合致する」などと受け付けない。軍の行動は、米国や豪州などとの協力を強化する日本の安全保障政策に対する不満が背景にあり、今後も続くとみられる。
「友好」と「強硬」を両立させる中国の対日姿勢に対し、北京の日中関係筋は「確たる方針を持っていないとしか思えず、予測が立てにくい」とこぼした。
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