年金14万円・パート勤務の66歳独居女性。「息子に迷惑をかけないで済む」気持ちが軽くなった一方で、入り混じる後悔のワケ

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少子高齢化の影響でお墓の継承者不足が深刻化しています。子どもが遠方に住み、実家のお墓を守るのが難しいケースも増加。そんな中、管理負担や費用を減らすために「墓じまい」を選ぶ人が増えています。事例と共に見ていきましょう。

継承者不足、管理費や墓参りの負担などで増加する「墓じまい」

少子高齢化の影響はさまざまな場面で見られますが、その1つが「お墓の継承者問題」です。

かつては長男が家を継ぎ、先祖代々の墓を守ることが慣例とされてきました。しかし時代が変わり、単身世帯や子どもがいない夫婦、子どもがいても都市部へ移住し実家に戻らないケースなどが増加。結果として、墓を受け継ぐ人がいなくなる事態が各地で起きています。

管理する人がいないお墓は「無縁墓」となり、寺院や霊園が撤去・合葬することもあります。 こうした背景から、すでにお墓や納骨堂に納めた遺骨を他のお墓や納骨堂に移す「改葬」や墓石を撤去する「墓じまい」を選ぶ人が増えています。

厚生労働省が2023年10月に公表した「令和4年度衛生行政報告例」によると、2022年度の全国の改葬件数は過去最高の15万1,076件に。また、管理する人がいなくなった無縁墓を行政が撤去した件数は3,651件でした。

一方で、自分の代で墓を閉じることに抵抗や罪悪感を覚える人も少なくありません。また、墓じまいを実行した後に、「これでよかったのか」と悩むケースもあるといいます。Aさんも、まさにその1人です。

子どもに迷惑をかけたくないと墓じまいを決断

Aさん(仮名・66歳)は地方都市に暮らすパート勤務の女性。夫に先立たれ、現在は一人暮らしです。息子が1人いますが就職を機に他県へ移り住み、結婚やUターンの予定は今のところありません。

電車で30分ほどのお寺に先祖代々のお墓があり、毎年お盆や彼岸には掃除や供花のために欠かさず足を運んできました。しかし、自分が元気なうちはともかく、将来的にこのお墓を息子に任せるのは大きな負担になるのではないか……。

年間にかかるお墓の管理費用は変動はありますが、だいたい1万5,000円ほど。Aさんは年金収入月13万円(夫の遺族年金を含む)に加えてパート収入もあり、それほど大きな負担ではありません。それは息子にとっても同じでしょう。

お金のことよりも、むしろ距離の問題、お寺との付き合い、そして、息子が自分の代でお墓をどうするべきか考えなければならないこと。そういったことが負担になるのではと考えたのです。

そんな折、知人から「永代供養墓なら子どもに負担をかけなくて済む」という話を聞きました。永代供養墓は、寺院や霊園が一定期間、または永続的に供養や管理をしてくれる形態です。

Aさんはすぐに調べ、寺院に相談。墓石を撤去し、祖父母、両親、夫の遺骨を永代供養墓へ移す「墓じまい」を決断しました。息子は驚いたようでしたが、Aさんの話を聞くと、同意しました。

手続きは思ったより煩雑で、改葬許可申請や寺院との日程調整、石材店との契約などに時間と費用がかかりましたが、なんとか実行したAさん。

ところが、墓じまいを終え、長年あった墓石がなくなった墓地跡を目にした瞬間、心が重くなりました。永代供養墓は他の人の遺骨とともに安置されているため、自分だけの空間ではないことに寂しさを覚えます。お盆に、両親や夫と向き合う静かな時間も失われました。

自ら選んだはずの墓じまいでしたが、Aさんの心にはぽっかりと穴が開いたまま。お墓は単なる石ではなく、思い出や家族とのつながりを形にする拠り所だったことに、失って初めて気づいたのです。

それでも、「これで自分になにかあっても息子に迷惑をかけずに済む」と、気持ちが軽くなった部分もあり、複雑な気持ちを抱えていると言います。

多様化する弔い方

人生の終わりを見据えて、遺された家族に負担がかからないよう準備をする「終活」をする人が増えています。

ハルメク 生き方上手研究所が全国の50~79歳の男女を対象に実施した「終活に関する意識・実態調査2025」によると、人生の終わりを見据えて終活を「すでに始めている」人は44.0%、「今後実施する予定」は33.4%と、多くの人にとって終活が身近なものであることがわかります。

また、弔いの形は多様化し、選択肢が広がっています。一般的なお墓以外では以下のような種類があります。

1. 永代供養墓(合同墓・合祀墓)
寺院や霊園が遺骨をまとめて管理・供養するお墓。管理者が供養してくれるため、後継ぎが不要。個別区画タイプや合同安置タイプがあります。

2. 納骨堂(屋内型)
ビル型・ロッカー型などの屋内施設に遺骨を安置。カードキーや暗証番号で出入りでき、天候や季節を問わずお参りが可能。都市部で人気。

3. 手元供養
遺骨や遺灰の一部を自宅で保管し、小さな骨壷やペンダント、オブジェなどに収めて供養する方法。散骨や永代供養と併用されることも多い。

4. その他

墓石の代わりに樹木や花を墓標として遺骨を埋葬する「樹木葬」、遺骨を粉末状にして海にまく海洋散骨、遺骨の一部をロケットで宇宙へ打ち上げる「宇宙葬」、ヘリウムガスの入ったバルーンで遺骨の一部を空へ飛ばし、高度で自然に散骨される「バルーン葬(空中葬)」、故人の遺骨から人工ダイヤモンドを生成し、それを手元供養として身につけたり、保管したりする「ダイヤモンド葬」など。

このように、さまざまな選択肢から選ぶことができます。ただし、それぞれにメリット・デメリットがあります。また、「管理が不要で負担が少ない」という安心感を優先するか、「故人と向き合える場所がある」ことを重視するか、最適な方法は人によって異なります。

Aさんのように事前に十分に考え、子どもへの負担を減らすために墓じまいを選ぶ人もいます。しかし実際に実行すると、思いがけない寂しさや後悔を抱くこともあります。

お墓や供養の形は、経済的・物理的な問題だけでなく、残された人の心の拠り所にも関わる大切な選択です。将来の安心と今の心のつながり、その両方を見据えて、家族や親族とよく話し合いながら、時間をかけて判断することが大切です。お盆の今、「我が家のお墓」について、家族で考えてみてはいかがでしょうか。

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