GDPの2倍以上にまで膨らんだ日本の借金。しかし多くの国民は、自分たちがすでに「崖っぷち」に立っていることを知らない。このままバラマキ政策が続けば、財政崩壊の「X-DAY」は刻一刻と近づいてくる。
そうなる前に、何か手立てはないのか。『持続不可能な財政』(講談社現代新書)を著した2人が、前編記事『最高税率は90%、政府が支払いを踏み倒し…日本が「財政破綻」した後に待つ「怖すぎる未来」』に引き続き、問題点と解決策を徹底議論した。
河村 小百合(かわむら・さゆり)/1991年、株式会社日本総合研究所入社。2019年より調査部主席研究員。財務省財政制度等審議会財政制度分科会委員を務める。著作に『日本銀行 我が国に迫る危機』など
藤井 亮二(ふじい・りょうじ)/1985年、参議院事務局入局。予算委員会調査室首席調査員、企画調整室次長などを経て、2018年に参議院予算委員会専門員(調査室長)。2022年より白鷗大学教授
もはや「聖域」ではない社会保障
河村:過去に財政破綻したギリシャなどと決定的に異なるのは、日本は「お金持ちの国」だということ。政府は大規模な借金を抱えていますが、個人資産の総額は2000兆円以上あります。余裕がある人がもう少し負担すれば、財政再建は決して不可能ではありません。
これまでバブル崩壊やリーマンショックなど経済危機はたびたび起こりましたが、余裕はあったのに負担を免れてきた人がいるからこそ、ここまで個人金融資産が積み上がったわけです。そういった方々、つまり高齢世代で経済的に余裕がある方々に、まず負担をお願いしたいです。
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藤井:歳出115兆円のうち3分の1を占める社会保障費も、もはや「聖域」と呼べる段階ではなくなっています。
一例を挙げるならば、現在の後期高齢者医療制度。たとえ資産が数億円あっても、75歳以上で年収が少なければ、毎月約7000円の保険料で医療費が原則1割負担になる。年齢で一律に区切るのではなく、資産状況に応じて負担を増やす選択肢もあるでしょう。
また税制面に目を向ければ、不公平な制度も見られます。たとえば一部の大企業は、「租税特別措置(租特)」の恩恵を受けて、法人税から研究開発費などが大きく控除されている。
あるいは富裕層ほど利子や配当など金融所得から儲けていますが、その税率は所得税よりはるかに低い約20%。そのため所得が1億円を超えると、むしろ負担率は下がってしまいます。
お寺や神社は、住民税も法人税もタダ
河村:身近にある神社やお寺などの宗教法人は法人税や住民税、さらに固定資産税まで原則非課税です。こういう不公平な実態を知れば、違和感を抱く国民は少なくないはず。住民税の均等割程度の少額でも、負担してもらえたらよいのですが。
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負担なしで恩恵を享受している例はほかにもあります。最近、指摘され始めた国民年金の第3号被保険者も、保険料を全く納付せずに年金を満額受け取れるなんて、考えてみればおかしな話です。その分は、第2号被保険者(会社員と公務員)全員が、男女や婚姻の有無を問わず負担しているのですから。
この制度を前提に人生設計している人も多いでしょうし、急にやめることはできません。しかしどこかの世代からは撤廃しなければ、年金制度そのものが立ち行かなくなると思います。
「借金大国」を生んだ元凶
藤井:日本には、第3号被保険者に該当する専業主婦(夫)が約700万人います。この人たちが月100円でも保険料を納めれば、年間84億円の財源になる。これくらいから始めるだけでも、十分に効果はあるでしょう。
『持続不可能な財政』でも紹介しているように、選択肢はほかにもありますが、実際にどの政策を選ぶのかは、民主主義に則って国民が決めるべきです。しかし判断を下す前に、日本の現状、そしてこのまま進むとどのような事態が待ち受けているのか、知ってほしいですね。
河村:今年1月にも内閣府が、「中長期の経済財政に関する試算」を公表しましたが、まさに「大本営発表」でした。将来の経済成長率をかなり高く、金利は低く見積もっていて、まるで「成長すれば借金なんてすぐ返せる」とでも言わんばかりです。
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藤井:ほかにもさまざまな機関が見通しを公表しているものの、どれも前提となる経済成長率は政府の数字を用いています。すなわち前提条件が甘すぎて、現実的な予測とはいえません。
河村:そんな楽観的な見通しを続けてきたからこそ、日本は世界最悪の借金大国になってしまったわけです。取り返しがつかなくなる前に、最悪の事態を防ぐにはどうすべきか、国民一人ひとりが自分ごととして真剣に考えてくれるよう願っています。
「週刊現代」2025年3月8日号より
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