石破内閣は日本の財政危機を十分認識しているとみられる。では財政破綻はいつ、どのような形で起きるのだろうか(写真:ブルームバーグ)
私の前回の記事「日本の『財政破綻』はすでに始まっているが、それが誰の目にも明らかになる『きっかけ』は何か? 考えられる「4つのシナリオ」(5月31日配信)が警告となったわけではないだろうが、この2週間は「財政破綻が明確化するきっかけとなる事件」は起きなかった。
「国債購入額の減額ペース」に関心が集まる時点で危険
しかし、この先も危機は続く。というより、ずっと危機は続き、「何かが起きたら破綻」という状態が、今年あるいは来年は続くだろう。つまり、今年あるいは遅くとも来年には日本の財政は破綻するだろうということだ。危機が続き、結局破綻するということだ。
この危機的状況を、現政権も認識しているようだ。野党の消費税減税攻勢にもひるまず、減税はしないという方針を堅持し、コメの「バラマキ」でしのぎ切ろうとしている。
ただし、実際は、今月だけでも、まだまだ「国債危機関連イベント」は続く。まず、日銀は16〜17日に開かれる金融政策決定会合で、国債の買い入れ額を段階的に減らす計画の中間評価をするが、市場の関心は2026年4月以降の国債の「減額計画」にある。現在は「月あたり5.7兆円程度の国債購入額を四半期ごとに4000億円程度減らし、来年1~3月に2.9兆円程度にする」という計画だが、今後の「減額ペース」や「期間」をどうするか、という点に集まっている。
すでに関心が集まっている時点で危険である。つまり、減額ペースがどうなろうと、日銀が予想よりも国債買い入れ額を減らす、と解釈してサプライズニュースとすることが、仕掛けたい投機家にとっては可能だからだ。
ただ、日銀の行動心理として、マーケットの波乱を自分のせいにされることに、昨年8月5日の株価暴落以降、恐怖感すら覚えており、日銀は「絶対にそれは起こさせない」と思っているだろう。
したがって、4000億円ずつ減らすというペースを維持するという見方と、減速度合いを半減させる2000億円にするという見方があるが、有力なのは後者のほうだろうし、その場合は、危機にはなりにくい。
次に、財務省が6月20日に債券市場参加者を集めた国債市場特別参加者会合を開くというニュース(日本経済新聞報道による)。この会合を開くというニュース自体が、相場に大きな影響を与えた。
政権の能力と無関係に、政治がもっとも危険な理由
それは投機家たちの仕掛けにすぎないのだが、ということは、6月20日の会合後も、何らかの動き、あるいは発言をリークさせて、仕掛けてくる可能性はある。
こちらは、投機家のニュースの作り方、解釈の仕方の自由度が高いので、よりリスクは高い。ただし、債券投資家たちは野蛮な株式トレーダーたちと違って、理屈重視なので、あまりに無茶な動きはしないだろう。
なぜなら、投機家の仕掛けは、残り多数の普通の投資家たちが追随してこないと、利益を上げられないため、債券市場で仕掛けるときは、多くの人が恐怖を抱く可能性のあるシナリオが、ある程度の説得力を持って成立していないといけないからだ。今回は、まだその時機は熟していないとみるのが普通だろう。
日銀、財務省がへまをしないのは、彼らの能力からして当然かもしれないが、一方、政治は、政権の能力とは無関係に、外野が事件を起こす可能性があるので、もっとも危険だ。
安心材料のほうから書くと、冒頭に述べたように、石破内閣は、財政破綻リスクを十分認識していると見られる。与党からの圧力で、「2万円程度の給付金(子どもと住民税非課税世帯の大人には1人2万円加算)」は実現しそうだが、グローバルな投機家たちにとっては、毒にも薬にもならないようなはした金ではニュースにならないので仕掛けにくいだろう。
こうした給付金はもちろんプラスではないし、薬にもならないのだから、やらないほうがいいが、消費税減税のニュースインパクトに比べれば、断然ましだ。しかし、政権が、危機を警戒していても、政権「外」にいる「与野党」(日本の場合は、与党自民党も野党的な外野気分でいる議員が多いのが大きな問題だ)が不用意に動く恐れがあり、いかなる主体にもコントロール不能なので、そのリスクはある。ただし、現状では野党も停滞気味なので、事件が起こるリスクはそれほど高くない。
もっとも恐れるべきシナリオは何か
こうなると、もっとも恐れるべきシナリオは何か。前回記事の最後に記した「債券暴落4つのシナリオ」のポイントは、
1 トランプ政策で、米国債が暴落し、世界中の債券が連動して暴落
2 日本株が暴落し、日本国債を買う余力のある投資家がいなくなる
3 日銀の国債買い入れ額が予想以上に減少する
4 日本が消費税減税など大減税をするというニュースが世界を駆け巡る
ということであった。
上記の4つのうち、3と4、日銀と消費税による財政危機は、現時点では最も恐れるべきシナリオではない。2番目に書いた株価暴落だが、日本の株式市場が最初のきっかけになるシナリオは、現時点では描きにくく、これもマイナーシナリオだ。となると、やはり、最大のリスクは1のトランプ大統領のリスクだ。
「3つのトランプリスク」とは何か
このトランプリスクは3つに分けられる。第1に、関税政策をはじめとする経済政策により、世界が不況に陥るシナリオだ。これは着実に起きるだろうし、すでに始まっている。
いまのところ、株価は、2月から4月の衝撃が大きすぎて、最悪から解放された安堵感から上昇しているが、実体経済の現実に直面するのはこれからだ。不況が来るのは間違いない。
しかし、この不況は、確実だが、静かに広まり、現実から将来予想へ織り込まれていくので(願望から少しずつ覚めていくので)、世界の債券市場に与えるショックは小さいかもしれない。
危機を起こすショックは、実際の影響のトータルでの大きさよりも、スピード感、恐怖感によるものであるから、不況による影響は、危機から破綻になったとき、そこから回復する力が弱っている、ということに影響する。つまり、破綻後の被害を大きくするという形で表れるだろう。
第2のものは、乱暴な外交政策による、世界的な地政学リスクの高まりである。これも着実に高まっている。「就任後24時間以内にウクライナとロシアの停戦を実現する」というトランプ大統領自身の言葉とは裏腹に、彼によって、ウクライナへのロシアの侵略はさらにこじれ、むしろ長引く見込みとなった。停戦後の姿も見えない。ウクライナの未来は絶望的になってしまったといえるだろう。
ただし、このロシア侵略戦争は長引いてしまったために、ニュースインパクトがもはや何もなく、ロシアが核攻撃でもしない限り、世界的な金融市場破綻を起こすカテゴリーのリスクとはならなくなってしまった。
一方、ロシアの横暴を放置したために、欧州の危機感は高まっている。この余波で、イスラエルの暴走を止めるどころか煽っているアメリカの代わりに、欧州が何らかの抑止力を発揮する可能性もゼロになってしまった。
欧州は「自分たちのことは自分たちで守る」という意識となったため、結果的に、アメリカとは違った意味での欧州内向き主義、自分たちのことで手一杯となってしまった。つまり、アメリカと欧州が、世界の地政学リスクを抑制する役割をまったく果たさなくなってしまったのである。この結果、周辺部でのリスクは高まり、かつ何か勃発したときに、止めるものは何もなくなってしまったのである。
したがって、地政学リスクが勃発し、世界の金融危機となり、リスク回避から、すべてのリスク資産が暴落するというリスクシナリオを警戒する必要は高まったといえる。
中東、イラン、インド・パキスタンでも、あるいは中国周辺(現時点ではこの可能性は低いが、潜在的に)、そのほか世界中にリスクが拡散し、どこかで、意図せざる事件が起こる可能性は極めて高くなっているといえる。このような混乱、混沌、無秩序の地政学環境の中では、これらの主要国以外の局地的なプレーヤー、テロリストたちにとっては、絶好の環境であり、テロが金融危機を起こす可能性は極めて高い。
第3のトランプ大統領のリスクカテゴリーは、アメリカの内政問題だ。思ったよりも早く目立った形で、内乱が起きてしまったが、ロサンゼルスでの暴動への州兵派遣は、どこかでいったんは収まるだろう。だが、こんなことで、海兵隊の派兵という大事件にしてしまっているようでは、次は本当に内乱になってしまう可能性もある。
ハーバード大学の件といい、トランプ政権は、ボヤを大火事に自ら仕立て上げるのが得意であり、非常に危険だ。
金利の高止まりによる債券価格の下落に注意
そして、経済政策の危険性は、多くの識者が議論しているが、トランプ減税の実現方法である。アメリカの債務上限をどうするか、というテクニカルな問題にとどまらず、FRB(連邦準備制度理事会)議長人事への介入、下手なスタンドプレイ的な人事ニュース(スコット・ベッセント財務長官を次のFRB議長にするというニュースなど)、これは通貨ドルの信任を自ら壊すものであり、米国債への信用にも直結する。
さらに、インフレ率がそこそこ高止まりすることから、ジェローム・パウエルFRB議長においては利下げをしない可能性も高い。これはもちろん、トランプ大統領の横暴的な行動を誘発する。
だが、それ以上に重要なのは、金利が予想外に高止まりするということだ。市場の見通しが外れて、長期の債券価格が下落する可能性があり、信用リスクが高まっているところに、金利のほうからのファンダメンタルズ的にも価格が下落するとなると、米国債の売り仕掛けは起こりやすくなるし、それを恐れて、世界的に米国債の買い控えが起こる。米国債の下落シナリオが実現する要素はそろっているのである。
今回の議論をまとめると、今後の日本国債下落リスクシナリオとして、もっとも危険なのは、海外発の世界的金融危機から、その一環として、日本株も日本国債も売られるというシナリオである。
海外発には2通りあって、1つは地政学的な事件からの世界金融危機である。それともう1つは、トランプ大統領による内政事件、アメリカ発の米国債暴落、ドル暴落からの世界金融危機である。
一方、日本国内発で、日本政府財政破綻が起こるシナリオは、日本の財政破綻シナリオがあまりに現実的になりすぎ、リスクも高まりすぎて、広く認識されたことによって、むしろ警戒感から、なんとしても起こさないという政策担当者側、政権側の意識が、日本としてはかつてないほどに高まっており(いや1998年の金融危機には及ばないか)、可能性は足元では低い。もちろん、それでも、何らかの政治的流れから消費税減税などが実現すれば、このリスクシナリオも実現する。
海外発の危機に備え「プライマリーバランス回復」を
ただ、海外発の危機のほうが、実はより日本にとってはダメージが大きくなる。なぜなら、逃げ道がなく、また、財政破綻した後に、心を入れ替えて、日本の経済、財政を立て直そうとしても、世界的な不況と金融危機であれば、外部の経済に頼って、経済成長を回復し、財政収入を回復する、というシナリオが実現しないからだ。だから、この場合の財政破綻からは、すべて、名実ともに、自力で回復しなければならない。そして、それは相当難しいだろう。
ならば、このリスクシナリオにどう備えておくか。かなり皮肉なことであるが、海外発の危機に対応するためには、自国内部の自滅的な危機を防止する以上に、財政破綻しにくいようにしておく必要があり、財政破綻後、歳出を賄えるように財政を立て直すときの、立て直し幅を最小限にしておく必要がある。
つまり、プライマリーバランス(国債の利払いを除く政策的経費を税収などで賄えている状態)の回復幅(黒字幅)は、海外発のリスクに備えるために、自ら財政破綻を防止するために必要な黒字幅よりも、むしろ大きくなるのである。
現在、前回も紹介した東京財団のプロジェクトをはじめ、財政破綻危機の警鐘を鳴らしている多くの論者は、日本国自らの財政悪化による財政破綻を想定している。
だが、繰り返すが、実際には、プライマリーバランスの回復は海外発のリスクに備えるためにこそ極めて重要なのであり、彼らが想定している以上に大幅な黒字化が必要なのであり、緊急の使命なのである(本編はここで終了です。この後は競馬好きの筆
競馬である。
15日は、上半期グランプリ、宝塚記念(阪神競馬場の芝コース、距離2200メートルで行われるG1レース)である。
今年から、先週8日の安田記念も宝塚記念も日程を繰り上げて、夏競馬が全体的に早くスタートすることになっている。
宝塚記念はドゥレッツァの単勝に資金を全部
これはいいことだと思うが、さらに、私が毎年主張しているように、チャンピオン決定戦なのだから、クラシックディスタンスの1マイル半、2400メートルで行うように変更するべきだ。阪神コースは2200メートルだと内回りコースにもなり、実力判定レースとしての価値はさらに下がる。何もいいことはないのだ。
一方、下半期、いや年度総決算の有馬記念は中山競馬場の芝2500メートル。内回り。これは2200メートルの外回りにすれば、距離は短くとも外回りなだけに、むしろスタミナを要し、またスピードの争いにもなり、実力判定レースとしては良いことづくめだ。
2500メートルというのは2200メートル以上に世界的には不自然な距離で(競馬は1ハロン=200メートルが基準単位である)、何の意味もない。1年でも早く、この2レースの距離を入れ替えていただきたい。
さて、予想となれば、私はそれでも波乱が起きず、強い馬が強いレースをして勝つことを望み、そういう予想をする。
いちばん強いのは、ドゥレッツァ(1枠2番)。中盤から押し上げて押し切る競馬を期待したい。穴で怖いのは、ヨーホーレイク(5枠9番)。7歳にして、突然の充実。今年2月の京都記念(G2)では、前回時から20キロ増で完勝して、6歳までとは別馬のようになった。大穴は武豊騎手騎乗のメイショウタバル(6枠12番)。しかし、そこまで手は広げられないので、ドゥレッツァの単勝に資金を全部。
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