この国の人口はどこまで減っていくのだろうか。今年1年間の出生数が70万人割れになるかもしれず、大きな話題となっている。
そんな衝撃的な現実を前にしてもなお、多くの人が「人口減少日本で何が起こるのか」を本当の意味では理解していない。
ベストセラー『未来の年表 業界大変化』は、製造・金融・自動車・物流・医療などの各業界で起きることを可視化し、人口減少を克服するための方策を明確に示した1冊だ。
※本記事は河合雅司『未来の年表 業界大変化』から抜粋・編集したものです。
農家の多くが70歳以上になる
人口減少は、人々が生きていくための基礎である農業も厳しくしていく。農林水産省の「2020年農林業センサス」によれば、農業経営体は2015年の前回調査と比べて30万2000少なくなり、107万6000だ(21.9%減)。
中でも激減したのが、家族経営の「個人経営体」である。22.6%も少ない103万7000に落ち込んだ。個人経営体の減少はそこで働く基幹的農業従事者(主な仕事が農業という人)の減少に直結するが、39万4000人減って136万3000人となった。新規就農者が減る一方で、高齢化に伴う引退者が増加したためだ。基幹的農業従事者の平均年齢は0.8歳上昇し67.8歳となった。
むろん基幹的農業従事者だけが高齢化するわけではなく、雇用者を含む「農業就業者」全体を見ても引退する人は多い。農水省の別資料は、農業就業者が2010年の219万人から、2035年には142万人へと約35%減ると推計している。
規模の縮小もさることながら、注目すべきはその年齢構成だ。142万人のうち49歳以下は31万人にとどまり、70歳以上が61万人を占める。
農林水産政策研究所の「農村地域人口と農業集落の将来予測」(2019年)によれば、農業地域の人口減少は著しい。2045年には、平地農業地域は31.6%減、中間農業地域も41.6%減と、都市部の10.7%減に比べて大きく下落する。高齢化率(65歳以上)も「平地」が43.3%、「中間」は46.9%だ。
農業集落レベルで見ると、さらに深刻な実情が浮き彫りになる。1集落あたり平均世帯数は50戸だが、このうち販売農家(経営耕地面積が30a以上または農産物販売金額が50万円以上の農家)は6戸に過ぎない。調査年前の5年間で8割以上の集落において人口が減り、中山間地域では空き家が激増した。
農業を営む世帯が減ると「寄り合い」の開催が少なくなり、用排水路の保全・管理といった集落活動そのものが停滞する。とりわけ「9人以下」になると集落活動の著しい低下を招くが、こうした集落が2045年には全体の8.8%(山間農業地域は25.0%)を占めると予想されているのだ。
同研究所は、人口が9人以下で、しかも高齢者が過半数を占める集落を「存続危惧集落」と位置付けているが、全国に約14万ヵ所ある農業集落のうち2015年には2353ヵ所だった。これが、2045年には9667ヵ所へ4.1倍に膨らむというのだ。その9割は中山間地域に位置する。農業集落に占める「存続危惧集落」の割合で比較すると、約20%となる北海道をはじめ、石川、和歌山、島根、山口、徳島、愛媛、高知、大分の各県で10%を超える見通しだ。
こうした集落では農業生産はもとより、農地を取り囲む地域社会そのものの維持が見通せなくなる。ところが、農水省の対策は相変わらず水路や農道の維持管理や機械・設備の共同利用、鳥獣被害の抑制など農地をどうするかといった「産業政策」にとらわれている。これでは遠からず日本農業は限界を迎える。
「生産性向上」という道
いま問われているのは農業を続けられるかどうかではなく、子供の通学や年老いた親の通院など農業就業者を取り巻く日常生活自体が成り立ち得るかどうかである。「産業政策」から「地域政策」への転換が急がれる。
農業就業者の減少が避けられない以上、農業ビジネスモデルの転換は避けられない。経営規模が拡大するほど面積あたりの経費は低減することを考えれば、就業者の減少をカバーするには米国のように機械やAIを活用してスケールメリットを図ることだ。自動操舵システムやドローンによる農薬散布で作業時間を大幅短縮した事例も登場している。同時に、収益性の高い作物への転換を徹底することである。大規模化に向かない中山間地域の農地では、とりわけ収益性が重要となる。その上で、流通業や小売業を含むサプライチェーン全体としての生産性向上に取り組むことが必要だ。
農林業センサスを見ると、引退者の増加もあり法人を含む団体経営体は1000増えて3万8000(2.8%増)となった。団体経営体が増加するにつれて大規模化も進むため、1経営体あたりの耕地面積は3.1ヘクタールと、前回調査より20.4%増えた。耕地面積別に経営体の増減率を見ると、北海道では100ヘクタール以上が17.5%増えている。残る46都府県は50~100ヘクタールが34.5%増だ。
ただし、規模が拡大するにつれて収益性よりも補助金交付額の大きい作物を優先するようになるため、農業経費は一定規模に達すると低減しにくくなる。個人経営体の農地を統合する形で耕地面積の拡大を図るため、農地が分散してしまい非効率となることもマイナス要因だ。
こうした克服点も残っているが、成果は現れ始めている。財務省の資料によれば、1経営体あたりの農業所得は平均174万円だが、主業農家は662万円(2018年)で、この10年間で58%増となった。農産物価格の上昇もあるが、経営規模の拡大によるところが大きい。
つづく「日本人はこのまま絶滅するのか…2030年に地方から百貨店や銀行が消える「衝撃の未来」」では、「ポツンと5軒家はやめるべき」「ショッピングモールの閉店ラッシュ」などこれから日本を襲う大変化を掘り下げて解説する。
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