日産のハイブリッドシステムである「e-POWER」。エンジンで発電した電力を元に、走行用モーターを駆動して走る「シリーズ式ハイブリッド」というシステムで、2016年11月に、先代ノートのマイナーチェンジで追加設定。いわゆる「ハイブリッド」とは異なる新しいパワートレインのようなキャッチーなネーミングも手伝って、爆発的ヒットとなった。
現在はグローバルでe-POWERシリーズを展開しており、累計生産150万台を達成(2024年10月時点)。ただ、e-POWERに関しては、弱点も多く指摘されており、日産がここから復活をしていくためには、e-POWERシステムのブラッシュアップは必須だと思われる。現在のe-POWERシステムの長所と短所、そして、e-POWERのこれからについて、考えてみよう。
リニアで爽快な加速フィーリングが魅力
筆者は、かつて試乗会で乗ったノートオーラ(e-POWER)に感激し、その後すぐに購入、現在まで3年近く乗ってきたe-POWERユーザーだ。チョイ乗りではなく、年間を通してe-POWER車に乗ってきた、e-POWERの長所のひとつが、中低速でのリニアで爽快な加速フィーリングだ。
常時モーター駆動による力強いトルクのおかげで、一般的なガソリン車と比べて、動き始めのクルマの加速力がBEV並みに強く、アクセル開度に合わせて遅れなくトルクが立ち上がるため、リニアで気持ちのいい加速ができる。電力の回生量の強さを変えることで、ワンペダルドライビングといった遊び方もできるし、通常のAT車のようにクリープを利かせて、滑るような走行もできる。
燃費についても、必要に応じてエンジン始動、停止を行うため、丁寧な加減速操作を行っていれば、十分にいい燃費を実現できる。減速時に回生充電も行うので、燃費効率を上げることもできる。気候のいいシーズンならば、リッター20km/Lは軽々と超えて、リッター30km近くまで伸ばすこともできた。ヤリスハイブリッドやフィットe:HEVと、ガチンコ戦えるだけの燃費ポテンシャルは持っているのだ。筆者のオーラは4WD車だが、それでも最高実燃費はカタログ値(22.7km/L)を超える25km/Lに達する。
2024年6月にマイナーチェンジしたノートオーラ。2WDの価格は税込277~288万円
2024年5月のマイナーチェンジで特別設定された、エクストレイルe-POWERの「90周年記念車」。2WDは税込404万円、e-4ORCEは税込434万円~だ
デメリットは、高速走行とエアコンONによる燃費低下
e-POWER最大の弱点は、特定シーンでの極端な燃費の悪化だ。そのひとつが高速走行。e-POWERは、追い越し加速など、一時的に電力を大量に使うことに備え、バッテリー残量が2メモリ以上(全4メモリ中)を維持するよう設定されているため、高速巡行では頻繁にエンジン発電を行う。エンジン発電を抑えるため、コースト走行を心がけると途端に速度は低下し、アクセルペダルを踏み込まないと車速を維持することが難しい。
そのため、高速走行では燃費がかなり悪化してしまい、たとえば、新東名などの上限120km/h区間では、瞬間燃費計で10km/Lを下回ることもある。発電時のエンジン回転数はおおよそ2,500RPM前後なので、それなりにノイズも聞こえる。
上り坂ではEVモードスイッチをONに、下り坂ではOFFにするなどの小技を使うことで、多少は燃費悪化を抑えることはできるが、1メモリを下回りそうになると、EVモードがキャンセルされるようセッティングされているため、残念ながら思ったようには燃費を伸ばすことはできない。バッテリーに余力を持たせず、もっと積極的に電動走行をさせればよいのにと思うのだが、電力不足で加速できないことがないようにするという、安全性重視が方針なのだろう。これが、e-POWERの最大の弱点だ。
e-POWERの燃費はまた、気候によっても大きく左右される。真夏や真冬にエアコンをONにすると、エンジンがかかる頻度が明らかに増え、燃費が悪化してしまうのだ。他社のハイブリッド車でも傾向は同じだが、ライバルのヤリスハイブリッドやフィットe:HEVよりも、e-POWERは燃費への跳ね返りが大きいと感じる。筆者のオーラでは、昨夏の35度越えの猛暑化での平均燃費は11~13km/L、1月の気温5度の条件下では13~15km/Lだ(春先は平均燃費18km/Lであった)。
e-POWER車は、高速走行やきつい登坂路などで求められる力強い加速に備えて、積極的にエンジン発電を行って電力を蓄える設定となっており、燃費が極端に落ちることがある
ニューズUKモーターアワードで最優秀パワートレイン賞を受賞した新型キャシュカイ
高速燃費を改善する、ドラスティックなアイテムが欲しい!!
日産としても、最新のe-POWER車において、VCターボ化や小型化などのエンジンの改良、制御ロジックの改善、車体軽量化など、いくつも方策を投入してはいるが、根本的な弱点解消には至っていない。
やはり、ドラスティックに変えるアイテムが必要なタイミングであり、それはやはり、高速走行時に直結モードとなる駆動システムを投入することだと筆者は思う。シリーズ式ハイブリッドの簡素かつ安価というメリットは魅力的ではあるのだが、やはり、若干コストアップしようとも、ホンダのe:HEVのような高速走行時の燃費低減策が必要なのではないかと思う。
それができなのであれば、ポルシェタイカンなど一部の海外BEVが採用している高速走行向けの2段ギアボックスが欲しい。この2速ギアボックスを提供しているドイツのサプライヤーZFによると、BEVの航続距離を約5%伸ばすことが可能だという。
課題となるのはコストだが、簡易かつ安価なシステムを開発することができれば、シリーズ式ハイブリッドが生き残る道となりうるだけに、期待は高まる。せめて、400万円以上の上級車向けには標準設定するなど、何かしら手を打たないと、e-POWERは燃費が弱点だといわれ続けてしまいかねない。日産開発チームの活躍を期待している。
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