初代プリウスのしくみを、まずはおさらい!
1997年10月、「21世紀に間に合いました」のキャッチコピーで登場したプリウスは、トヨタが赤字覚悟の渾身の思いでリリースした世界初の量産型ハイブリッド車です。2024年現在では5代目となるベストセラー商品となっていますが、その人気の秘密はもちろん、その高い燃費性能にあります。そしてその燃費性能は、初代プリウスからのシステムをモデル毎に発展させてきた結果でもあります。
今回はトヨタが誇る世界の自動車電動化を推進してきた、プリウスのハイブリッドシステムの機構を分かりやすく紹介していきます。
※ プリウスの歴史についてはこちらをご覧くださいませ。
初代プリウスのエンジンルームを空けた様子を下図に示しています。左側がエンジンでで、右側がインバータを含む電力制御装置となります。トヨタ自動車はこの電気系の制御装置をPCU(Power Control Unit:パワーコントロールユニット)と呼んでいます。インバータに使用されているパワー半導体は、電流が流れているときの損失、さらにバッテリの直流電圧をモータ駆動用の交流電圧に変換する際にスイッチング行っていますが、そのスイッチング時に損失が発生することで、インバータは発熱してしまいます。さらにモータ部も、同様に熱を発生します。これらの発熱に対してプリウスは水冷方式を採用し冷却しています。しかしながら、従来のエンジン駆動車両における冷却システムは使用できません。
従来車両はラジエータからエンジンまで配管し、ウォータポンプにて冷却水を循環させることで、エンジンでの発熱をコントロールしていました。この冷却水のピーク温度は110℃に達します。しかし、インバータを含むシリコン半導体や電気部品にその温度の冷却水を循環させると、半導体やモータ磁性部における損失が大きくなり、さらに大幅にキャパシタ等の寿命劣化に直結してしまいます。こういった背景もあり、この初代プリウスにはPCUやモータの冷却には別の冷却系統を用意しています。エンジンのラジエータに並べる形で車両フロント側に電気系冷却用ラジエータを用意し、それらをPCU、モータに配管し、エンジン冷却と同じくウォータポンプにて冷却水を循環させ、電気系全体の冷却を行っています。この冷却水温度はエンジン冷却系と異なり前述の理由から、65℃という低いピーク温度に管理されています。
初代プリウス(トヨタ自動車)のエンジンルーム
初代プリウスの動力部における諸元を下の表に示しています。電気系の駆動を司るモータ定格出力は30kW、最大出力は33kWであり、その動力源は288Vニッケル水素バッテリでを採用しています。(1.2V単位の単電池を直列に6個接続したものを1セルとして、これを40セル直列接続することで288Vを発生しています。)
初代プリウス動力部諸元
また、初代プリウスの動力部のシステム概略図を下図に示します。このシステムはトヨタ・ハイブリッドシステム(THS:Toyota Hybrid System)と呼ばれ、現在生産されている5台目プリウスに搭載されるTHS-IIの源流システムと言えます。電力の仲介は各回転機(モータ、発電機)に接続されたインバータにて行い、それらの入出力となる動力部、並びにエンジン出力の車両駆動側への動力部は、動力分割機構を介することで協調制御され、プリウスの車両動力を獲得しています。
トヨタ・ハイブリッドシステム(THS:Toyota Hybrid System)の概念図
しかし、この初代プリウスには一つの問題が残りました。新たに搭載したニッケル水素バッテリの電圧変動です。THSの動作モードや温度等の環境変化に応じてプリウスに搭載されたバッテリ電圧も変化してしまいます。当時の燃費性能指標であったJC08走行サイクルモードにおいて、およそ150V〜300Vまで変化してしまいます。このバッテリ電圧変化、と温度変動により適切な出力を得ることができない場合が発生します。この電圧変動によってユーザからはパワー不足等の声がフィードバックされており、2代目以降のプリウスではこの根本的な対策を施すことになりました。そのハイブリッドシステムがTHS-IIです。
歴代プリウスのハイブリッドシステムを比較してみよう!
初代プリウスでのニッケル水素バッテリの電圧変動問題の解決へ向けて、トヨタ自動車はどの様にアプローチしたのでしょうか。その具体的な手法を分かりやすく電気システム概略図に落とし込んだ歴代プリウスの比較図を下に示しています。
歴代プリウスのハイブリッドシステムの違い
この図を見ると、初代プリウスでは288Vのニッケル水素バッテリをエネルギー源とし、直接インバータによりモータ駆動制御を行っていることが分かります。よって、モータ出力はバッテリ電圧に直接依存することとなります。これに対して2台目では、ニッケル水素バッテリとモータ駆動用三相インバータの間に昇圧チョッパという電気機構を挿入しています。これがTHS-IIの基本的な考え方です。昇圧チョッパとは、入力側(この図の場合には昇圧チョッパの左側の2配線が入力側)の直流電圧を出力側(この図の場合には昇圧チョッパの右側の2配線が出力側)の異なる値の直流電圧に変換する電力変換装置です。直流を直流に変換することから、DC-DCコンバータとも呼ばれています。そして、2台目プリウスではこの昇圧チョッパは202Vのニッケル水素バッテリの直流電圧を500Vの直流電圧に変換しています。この昇圧チョッパをニッケル水素バッテリ前段に入れることで、モータ駆動用電圧を安定した値に維持することが可能となる訳です。すなわち、温度変化や走行状態によるニッケル水素バッテリの電圧変化に、モータ出力は影響を受けないこととなります。これが、トヨタ自動車が考えたバッテリ電圧変動に対する技術的な問題解決アプローチの基本的な考え方です。
そして、昇圧チョッパ導入の効果はもう一つのメリットを生み出します。このより高い直流電圧によりモータ駆動を行っていることから、同じ出力値の場合はモータに流入する電流値を抑制することが可能です。そして、電流値が抑制できるということは、同じ応答速度条件と考えると、モータ巻線をより多く巻くことが可能となります。モータにおいて巻線の増加はアンペールの力の法則から出力の増加を意味します。2台目プリウス以降のモデルでは、この巻線増加によりモータ出力性能の向上を実現していることが図からも分かると思います。
さらに、昇圧チョッパを導入することで、バッテリ電圧値を下げることが可能となります。THS-IIでは、昇圧チョッパによりモータ駆動用電圧を高く設定が可能なため、昇圧チョッパ前段となるバッテリ電圧は低く抑制可能です。具体的にはバッテリセル数を削減することができます。これにより、コスト抑制、さらにバッテリ部の小型軽量化が実現可能となる訳です。
トヨタ最強のハイブリッドシステム・THS-IIのメカニズム
前項に示したTHS-IIのより具体的なシステム概念図を下図に紹介しています。大容量バッテリ(ニッケル水素バッテリ、もしくは4代目プリウスの上位グレードにおいては207Vのリチウムイオンバッテリ)と各インバータの間に昇圧チョッパを挿入し、モータ駆動用電圧を引き上げ、かつ安定化させています。初代プリウスに採用されたTHSと比較すると、昇圧チョッパの有無の違いのみとなっていることが分かります。この昇圧チョッパの挿入により、駆動用モータの高出力化、並びに発電機の大容量化(17kW)を実現しています。
トヨタ・ハイブリッドシステムⅡ(THS-Ⅱ : Toyota Hybrid System Ⅱ)概念図
トヨタのハイブリッドシステム、THS-IIでは詳細には13の走行モードを持ちます。その走行モードと各システム構成要素の駆動状態を示した表を下記に示しています。実際にはHV走行モードだけでも3つの走行モードを持つことが分かります。これらを細かく協調制御することで、高燃費な性能を維持しながらユーザが求める力強い走行性能も同時に獲得することに成功しています。
THS-Ⅱにおける全ての走行モードに対する各要素状態
この表において、理解が難しい点は発電機の駆動に関する点となります。前述の通りTHS-IIでは高電圧条件下で17kWの大容量発電機を搭載可能となっていますが、この発電機は発電機としてではなく、モータとして駆動する走行モードが2つだけ存在しています。エンジンスタート時とエンジンブレーキ制動時です。エンジンスタート時は、プリウスはセルスタータを持たないため、この発電機をスタータとして機能させているので。それ故、このエンジンスタート時では、電動モード時にモータとして動作を行っています。
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日々、X(@YamamotoPENU)にて最新の自動車技術について紹介しています。YouTubeでも様々な電気自動車のインバーター等の分解解説をしています。
また、日経Think!にも定期的にコメントをさせていただいております。
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