焼酎どころ・鹿児島で日本酒を!原料は地元産の“食べるお米”ヒノヒカリ 世界の「伊佐ブランド」目指して挑戦

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鹿児島の酒といえば焼酎だが、県内を代表する米どころ、かつ全国に流通する芋焼酎の蔵元もある伊佐市で、日本酒を造るプロジェクトが進んでいる。原料となるのは、日本酒用に栽培された「酒米」ではなく、日頃我々が食べている米、いわゆる「飯米(はんまい)」。仕掛け人と農家が一体となって世界ブランドを目指している。

酒米でなく飯米で日本酒造りに挑戦

金箔がちりばめられたグラスに注がれる、柔らかな透明の液体は、伊佐市で生産された米・ヒノヒカリを原料に醸造された日本酒「碧緋(あおひ)」だ。

飲んでみると、甘みの強い伊佐米を使っているからか、フルーティーな香りが際立っている。飲みやすく、喉をスーッと通り抜けていく。

伊佐米は秋田・横手市の醸造所に運ばれ日本酒となるが、一般的な日本酒と異なる点がある。通常、日本酒はお酒用に栽培された「酒米」が原料だが、今回使われているのは食べるお米、いわゆる「飯米」だ。

「碧緋」をプロデュースした和文化研究家の齊木由香さんは伊佐市出身で、実家はかつて酒蔵だった。

きっかけは、2022年のコロナ禍。観光業が止まって自身が計画していたレストランをオープンすることができなくなったとき、伊佐市の職員から聞いた「米を流通できず余って困っている」という言葉が心に残った。齊木さんは「その米でどうにかできないか」と思ったという。酒米は糖質がないので、おいしい酒を造れると言われるが、うま味がたっぷりある飯米でどうやって日本酒を造るかが大きな挑戦だった。

収穫量より“味”にこだわり

原料となる主食米のヒノヒカリを提供しているのは、伊佐市菱刈の亀割浩介さんだ。

亀割さんの水田を案内してもらうと、菱刈の山間を進むと、緑豊かで広々とした水田が広がっていた。

亀割さんによると、山手から水が来るため水流は豊富で、水温は平地の水田と比べて低いため、かけ流しの形ができるという。「収量的には出ないが、高温障害が出にくく、質のいい米ができる」と亀割さん自慢の水田だ。

伊佐の自然に育まれた米。亀割さんは収穫量よりも味にこだわる米作りを25年間続けてきた。原料となる飯米を探していた齊木さんのイメージにも合致した。

亀割さんが作る米の魅力について齊木さんは、水道水を使っておらず、純粋な山水で作っている点を挙げた。「不純物が一切含まれていないオーガニックでおいしいお米から日本酒を造りたい」という強い思いが芽生えたという。

食べるお米で日本酒造りをしたいという、一般的な感覚からかけ離れた齊木さんの打診に、亀割さんは当初、面食らったが、青木さんの熱意に押された。

運命的な出会いから不思議な縁

かつて、古民家レストランだった伊佐市大口の建物に、このプロジェクトのもう1人のキーパーソンが住んでいる。

IT関連企業を経営する井ノ原大成さん(21)は、2023年11月、東京から父親の出身地である伊佐市に移住した。満員電車で移動し、家も狭くて窮屈な思いをする東京より、家賃は10分の1以下で住めて、仕事の成果に影響のないITという仕事も、伊佐を選んだ理由だった。

齊木さんとは東京で共通の知人を介して知り合った。井ノ原さんも齊木さんも伊佐にルーツを持ちながら東京で生活をしていたという共通点があり、「最初に日本酒を口に含んだ時は、運命的な出会いからここまで来られたことに不思議な縁だなと感じた」という。

そんな井ノ原さんは、伊佐米日本酒の販売のために齊木さんが立ち上げた会社に2024年4月から合流し、主に経営面のバックアップをしている。

原料となる米を生産する亀割さんとの意見交換も大事な仕事だ。亀割さんに、今後は日本酒に適した米作りを検討するかどうかを聞くと「全く考えていない」との返事。「お酒のお米を作るのではなく、食べておいしいお米を作って、それでおいしい酒を造る」と亀割さんの気持ちに揺るぎはない。

井ノ原さんも「酒米にすると今までの酒との差別化ができない。核となるこだわりを我々も芯として、しっかり持って開発していきたい」と、気持ちは同じだ。

「世界各地のお客に提供したい」

ヒノヒカリの日本酒は1年目となる2024年、高級志向の「碧緋」と地域向けの「千畳岩」の2ブランド3品が合計2000本生産される。販売開始の8月1日を前に予約は順調だという。

井ノ原さんは、「日本の文化、特にお酒は海外で成長している。我々は海外に向けたブランディングを中心に構築しているので、日本全国だけでなく、世界各地のお客に提供したい」をまっすぐな瞳に決意がにじんでいた。

酒米ではなく、あえて飯米で勝負するチーム伊佐の日本酒。独自性を武器に、世界の「伊佐ブランド」を目指している。

(鹿児島テレビ)

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