川底の岩穴からこんこんと湧き出る大出水の湧水=霧島市横川町下ノ
(関連)大出水の湧水が流れ込む久留味川で遊ぶ家族連れ=霧島市横川町下ノ
霧島市の主な水源地を地図で確認する
霧島市(鹿児島県)の水道水はおいしい-。移り住んだ人たちからよく聞く。それは12万人余りの生活を支える市の水道の61の水源が、ダムや川ではなく全て地下水か自然に湧き出た湧水だからだ。しかも1日の取水量約4万8000トンのうち、湧水は4万トン近くと8割以上を占める。湧水利用量は全国の自治体でトップだという。自然豊かな霧島連山が生みだす水の恵みの秘密を探る。
「水をがぶがぶ飲めるのがうれしい」。東京から霧島永水に3年前移住した編集者・ライターの藤原綾さん(46)は、水道を絶賛する。東京では臭いが気になりミネラルウオーターを買っていた。「薬品臭さが全くない。霧島の貴重な財産」と話す。
□消毒最低限
なぜ臭くないのか。市上下水道部によると、最低限の消毒しかしていないのが理由。川やダムの水を使用する場合は、汚れを集めて沈殿させる薬剤の投与や、複数回の消毒、ろ過が必要という。
ところが市が水道水に使う湧水と地下水からは大腸菌や一般細菌などは検出されないため、水道法で定められた1度の塩素消毒のみで各家庭に届く。厚生労働省「おいしい水」要件の残留塩素が1リットル中0.4ミリグラムのところ、霧島市の水道水は0.15ミリグラム程度と低い。
水の週間(8月1~7日)に合わせ市役所で開かれた水フェスタ。3種を飲み比べる「利き水」があった。銘柄を隠し提供されたのは、隼人市民サービスセンターの蛇口から取った水道水と市営のミネラルウオーター「関平鉱泉」、外国産の「エビアン」。好きな味を選ぶシール投票で、水道水が最多の135票を獲得した。
□自然にろ過、保水
「豊富な湧水や地下水には、霧島連山が大きく関わっている」。第一工科大学の高嶋洋教授(59)=地質学=は指摘する。1市6町が合併した霧島市。ほとんどが降雨の多い霧島連山のすそ野に広がり、水が集まりやすいという。
もう一つの鍵は火砕流堆積物の分厚い地層だ。霧島市を形成する地層のうち、約34万年前の加久藤カルデラの火砕流堆積物が「水がめ」になっているらしい。市内最大の約6万人に配水する国分の台明寺水源をはじめ、隼人の奥新川水源、横川の大出水の湧水など、いずれもこの層から湧き出している。
つまり、上に重なる入戸、岩戸、阿多火砕流堆積物層を通過し自然にろ過された水が、透水性の低い加久藤カルデラの火砕流堆積物に保水されているのだ。高嶋教授は、NPO法人日本地質汚染審査機構理事長を務める立場から「霧島市の水道環境はすばらしい。自然に湧き出るので地下への負荷もない」と評価する。
□水源目視できず
理想的な湧水利用にデメリットはないのか。市上下水道部水道工務課の養田健課長(56)は「水源が地下にあり、中の様子が見られない」ことを挙げる。
例えば県で最大震度5強を記録した8月の地震。霧島市国分の水道水の一部に濁りが見つかったものの、解消するめどが立たなかった。市は1週間給水所を設け、市民からは不安の声が上がった。
水を検査し安全性は確認できても、濁りはなかなか収まらない。水源が目視できないため、自然に濁り成分が沈下するのを待つしかなかったという。水質が良いからこそ、ろ過設備もない。市上下水道部は「今後の課題」としている。
豊富な水資源だが、地下にはまだまだ秘密がありそうだ。市内には多くの温泉地が点在するにもかかわらず、湧水や地下水に温泉成分が混ざっていない。また地層が抱える水量や湧き出す仕組みは依然謎だ。
気候変動の影響も受けやすいと言われる湧水や地下水。高嶋教授は「水道を通じて霧島の水循環や自然環境に関心を持ってほしい」と話している。
◇人もまちも潤す
霧島の水の恵みは水道だけではない。
市営のミネラルウオーター「関平鉱泉」。健康や美容にいいとされるシリカを多く含み、県内外に人気を広げる。湧水や地下水ではなく、江戸時代から湯治場として愛される関平温泉を冷却し容器に詰めたものだ。
牧園の関平鉱泉所でドライブスルー販売するほか、スーパーマーケットや物産館、ふるさと納税でも取り扱う。2023年度は自動販売機や個人事業主などに販路拡大し、約4億2000万円と前年度より売り上げを2000万円ほど伸ばした。今年も通常販売、ふるさと納税ともに好調だという。
霧島の湧水の豊かさを体感できるのは、横川町下ノの「大出水の湧水」だ。青い水底の2メートルほどの岩穴からこんこんと湧き出て久留味川に流れ込む。1年を通して常に15度程度の低温で、夏の遊び場として人気。暑い日には、水着姿の家族連れらが「冷たい」と歓声を上げて涼む。水道利用はされていないものの、1日3万トンが湧出している。
市が管理し、毎月水質検査を実施しているとあってファンも多い。姶良市の自営業寺原仁太さん(42)は、毎回60リットルくみ、なくなり次第再訪する。パイプ等を通さず水面から直接くめる点も「安心感がある」とお気に入り。「全然味が違う」とぞっこんだ。
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