米国は台湾を助けない!?「疑米論」が広がる台湾 トランプは中国からの攻撃を止めてくれるのか?

 トランプの態度が不安視される中、安全保障に関する台湾の報告書は、台湾が米国との安定した関係を求めていることを示していると、2025年3月18日付ウォールストリート・ジャーナル紙は解説記事で述べている。

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 トランプ大統領は中国の攻撃から台湾を守ってくれるのか、不安がくすぶる中、台湾軍は、台湾の安全にとって米国の支援は不可欠だと述べ、米国との安定した関係を望んでいることを示した。

 台湾防衛部は新たな「4年毎の国防計画の見直し」(QDR)の中で、台湾は米国製装備品の購入に長年頼ってきたと述べると共に、情報・監視、長距離精密攻撃能力の確保等について米国の支援の有用性を強調し、「米国は極めて重要な戦略的パートナーであり、軍事協力で我々と緊密に連携し、我々の自衛能力の向上を助けてくれる」と述べている。

 QDRは政策の方向性を示すもので、新総統の就任の度に最初の年に発表される。米国との関係については、2021年のQDRで初めて若干の言及があったが、今回は一章を割いている。

 台湾防衛部の軍事計画概要は、複数レベルでの対中抑止という戦略は変わっていないものの、中国の能力は、サイバー戦争やドローン戦争に関する能力の向上も含め、変化したことを示唆している。中国は台湾を自国領土と主張し、武力行使による台湾掌握の可能性を排除せず、台湾に圧力をかけるべく、台湾周辺で度々軍事演習を行っている。

 台湾は中国がサイバー攻撃とともに陸・海・空・宇宙から攻撃してくるとみている。防衛省の報告書によれば、中国は迅速に侵攻してくる可能性も、台湾を封鎖して屈服させようとする可能性もある。台湾は、中国がそこまで行かないよう米国が中国を抑止し、必要なら介入することを今も期待している。

 最近、頼清徳総統と政府幹部は中国による台湾封鎖等、10以上のパターンの不測の事態について密かに机上の軍事作戦を行ったが、参加した安全保障当局者によれば、全てのシナリオで「同盟諸国の強固な支援と具体的行動」が含まれていた。台湾に批判的なトランプや側近たち(過去に、台湾は主権を中国に明け渡すべきだと示唆したイーロン・マスクもいる)の発言で、中国が攻撃した場合の米国の対応について不透明感が増している。

 一方、今月初めに台湾の半導体メーカー台湾積体電路製造(TSMC)が米国の半導体製造工場に少なくともさらに1千億ドルを投資すると発表したことで、台湾は関税の執行は猶予されたようだ。

 米国と台湾は正式な外交関係は結んでいないが、米国は台湾にとって最重要の軍事支援国であり、両国は台湾関係法で結ばれている。同法は米国から台湾への自衛の武器の売却を約定しているが、台湾が攻撃された場合の米国の介入の義務については何も言っておらず、米国は戦略的曖昧さと呼ばれる立場を保っている。

 米国による台湾軍の訓練と協力の例としては、高雄市で台湾海軍を2年間訓練する協定がある。今週台湾議会に提出される防衛の報告書によると、昨年、台湾、米国その他の同盟国は防衛政策、武器売却、情報、防衛研究開発に関連して500回以上の交流を行った。

 また、頼総統は今月、国内総生産(GDP)比3%への軍事費の引き上げを約束したが、これでもまだ米国の一部が求める水準に達しない。

 今月初め、顧立雄国防相は、トランプと米国は信頼できる同盟相手になるかと問われ、台湾海峡の現状と安定の維持は今も米国の核心的利益であると信ずると答えている。

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台湾を安心させたこと

 台湾海峡の平和と安全を維持するには、引き続き米国の積極的関与が必要であるとウォールストリート・ジャーナルの記事が述べている。今日の台湾情勢を鑑みる時、これは的を射た議論と言えよう。

 トランプ大統領の選挙期間中の発言は「台湾は半導体ビジネスを米国から盗んだ」とか「台湾は国防経費を負担しようとしない」など極めて否定的なものであった。そのため、台湾の中では、いざとなった時には米国は台湾を助けてくれないのではないか、との悲観的な「疑米論」に結びつく傾向があった。

 今年2月に入ってから、頼清徳総統は「国家安全保障に関するハイレベル会議」を開催した。そこで石破・トランプ間で発出された「日米共同声明」が「台湾海峡の平和と安定を維持することが極めて重要で、国際社会の安全保障と繁栄にとって不可欠の要素」と記述されたことを、台湾にとって、現時点での最大の安心材料と評価したようである。

 なお、トランプは大統領就任後には、中国による台湾武力侵攻の可能性などについての質問については「一切コメントしない」と発言するようになっている。

 このような背景をもとにして、ウォ―ルストリート・ジャーナル紙が強調しているのは、米国の台湾に対する積極的関与の重要性である。中でも台湾国防部が最近公表した報告書は、台湾防衛についての台湾軍事専門家の見方を紹介している。

 この報告書は明白に「米国は台湾にとって決定的に重要な戦略上のパートナーであり、緊密な連絡を通じて我々自身の自衛能力を高める」と記述している。そして、米国は高雄南部において、台湾の兵力に対して訓練や演習協力を行っており、昨年だけでも500回の交流があったという。

 米国は、上記のようなトランプの台湾に対する否定的発言はあったものの、引き続き、国内法の「台湾関係法」(1978年成立)に基づき、台湾に対し、防御用の武器売却を行っていることは言うまでもない。

頼清徳が示す「4つの不変」

 頼清徳総統は本年1月、国防予算をGDP比3%以上にすると発表した。頼清徳は「現在、台湾の国防予算はGDP比2.5%であるが、特別予算を編成する」と述べたと伝えられている。

 中台間の往来についての頼清徳の基本的立場は、「4つの不変」に示されている。すなわち、①国家の主権を守る決意、②台湾海峡の平和と安定の現状を維持する決意、③対等、尊厳、健全、秩序のある両岸間の対話と交流の用意があるとの約束、④民主的で自由な生活様式を守り抜く意思、の4つが不変であることである。

 なお、中国は、最近、頼清徳が、自分たちのことを「外国敵対勢力」と呼んだとして非難し、「台湾独立」は絶対に許容できないと猛反発している。

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