ドナルド・トランプ米大統領の就任式に臨む米実業家イーロン・マスク。2025年1月20日撮影(Chip Somodevilla/Getty Images)
米国では共和党のドナルド・トランプ大統領が政権の座に返り咲いたことで、億万長者が勝者になるだろうと思われていた。ところが新政権発足から数週間で、同国の大富豪の運勢は急落した。本稿では、最大の敗者となった面々を紹介しよう。
現在のトランプ政権には、米国の歴代の政権の中で最も多くの億万長者がおり、その数は少なくとも9人に上る。トランプ大統領には多くの大富豪の友人がおり、昨年の大統領選挙から今年初めの就任式までの間に16人の億万長者を米フロリダ州の私邸マールアラーゴに招待した。米IT大手メタのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は、2月と3月にトランプ大統領とホワイトハウスで会談したとも報じられた。
だが、ビジネスと資本主義を信奉する大統領自身が大富豪でもあることは、これまでのところ「億万長者クラブ」のメンバーにとってあまり良い結果をもたらしていないようだ。トランプ大統領が就任した1月20日以降、3月13日までの間にS&P500種株価指数は7.9%下落し、ハイテク株比率の高いナスダック総合株価指数は11.8%落ち込んだ。これにより、米国の富裕層は大きな打撃を受けた。フォーブスは、同国の億万長者が被った損失の総額を4150億ドル(約60兆円)と見積もっている。
これとは対照的に、民主党のジョー・バイデン前大統領が2021年1月20日に就任した際には、同じ期間中にS&P500指数は2.4%上昇し、ナスダック指数の下落も1%にとどまった。同期間中、米国の億万長者は合計で1530億ドル(約22兆1000億円)資産を増やした。
株価下落の要因の1つは、トランプ政権の関税政策だ。これにより、企業の経営陣が嫌う経済の不確実性が生じることとなった。中でも最も大きな打撃を受けたのは、トランプ大統領の右腕であり、フォーブスの「世界長者番付」で首位に立つ米実業家のイーロン・マスクだ。
同大統領が就任した1月20日時点で、マスクの資産は4340億ドル(約62兆7000億円)に達していた。しかしそれ以降、マスクがCEOを務める米電気自動車(EV)大手テスラの販売が、ドイツ、中国、オーストラリアで劇的に落ち込んだことから、米銀最大手JPモルガン・チェースは今年第1四半期のテスラの販売台数の予測を20%下方修正し、2022年第3四半期以来最低となる35万5000台とした。全米のテスラ販売店では、トランプ大統領の側近として政界に進出したマスクCEOに対する抗議行動が勃発しており、中には破壊行為を伴うものもある。こうした中、テスラの株価は同大統領就任以降43%下落した。フォーブスの推計によれば、マスクの資産は3月13日の株式市場の終値時点で3300億ドル(約47兆7000億円)まで減少した。純資産が24%減少したにもかかわらず、マスクは世界で最も裕福な人物の地位を維持している。
米ベアード・プライベートウェルス・マネジメントの投資ストラテジスト、ロス・メイフィールドは、マスクの資産への打撃は驚くべきことではなく、政界への進出ともあまり関係がないと考えている。その上で、「景気が減速に向かうと、自動車と循環株が最も大きな打撃を受ける。自動車は貿易や関税の影響も受けやすい」と説明した。
景気の低迷は複数のハイテク株にも大打撃を与えている。米大型ハイテク7社(テスラ、エヌビディア、アルファベット、アマゾン、メタ、アップル、マイクロソフト)を指す「マグニフィセント7(壮大な7銘柄)」もかつては優勢だったが、景気減速に対する懸念の中、1月20日以降、時価総額が合計で1兆5000億ドル(約216兆8000億円)以上下落した。アマゾン創業者のジェフ・ベゾス、アルファベット(グーグル)の共同創業者セルゲイ・ブリン、メタのザッカーバーグなど、米大手ハイテク企業のトップはそろってトランプ大統領の就任式に出席した。これらの大物経営者たちは現在、大統領就任式以降、最も多くの財産を失った人々に名を連ねている。
それでは、1月20日のトランプ大統領就任以降、最も損失を被った20人の億万長者を損失額の大きい順に列挙しよう(純資産は3月13日時点)。
1位 イーロン・マスク
純資産 3300億ドル(約47兆7000億円)
減少幅 1040億ドル(約15兆円)
主な収入源 テスラ、スペースX
2位 ジェフ・ベゾス
純資産 2100億ドル(約30兆4000億円)
減少幅 290億ドル(約4兆2000億円)
主な収入源 アマゾン
3位 ラリー・ペイジ
純資産 1360億ドル(約19兆7000億円)
減少幅 260億ドル(約3兆8000億円)
主な収入源 アルファベット(グーグル)
4位 セルゲイ・ブリン
純資産 1300億ドル(約18兆8000億円)
減少幅 240億ドル(約3兆5000億円)
主な収入源 アルファベット(グーグル)
5位 ラリー・エリソン
純資産 1830億ドル(約26兆4000億円)
減少幅 220億ドル(約3兆2000億円)
主な収入源 オラクル
6位 ジェンスン・フアン
純資産 1010億ドル(約14兆6000億円)
減少幅 190億ドル(約2兆7000億円)
主な収入源 エヌビディア
7位 マイケル・デル
純資産 970億ドル(約14兆円)
減少幅 180億ドル(約2兆6000億円)
主な収入源 デル・テクノロジーズ
8位 スティーブ・バルマー
純資産 1150億ドル(約16兆6000億円)
減少幅 110億ドル(約1兆6000億円)
主な収入源 マイクロソフト
9位 スティーブン・シュワルツマン
純資産 423億ドル(約6兆1000億円)
減少幅 102億ドル(約1兆5000億円)
主な収入源 プライベートエクイティ
10位 トーマス・ピーターフィー
純資産 488億ドル(約7兆円)
減少幅 79億ドル(約1兆1000億円)
主な収入源 ディスカウントブローカー
11位 マーク・ザッカーバーグ
純資産 2040億ドル(約29兆5000億円)
減少幅 76億ドル(約1兆1000億円)
主な収入源 メタ(フェイスブック)
12位 ロブ・ウォルトン一族
純資産 1030億ドル(約14兆9000億円)
減少幅 70億ドル(約1兆円)
主な収入源 ウォルマート
13位 ジム・ウォルトン一族
純資産 1020億ドル(約14兆8000億円)
減少幅 69億ドル(約1兆円)
主な収入源 ウォルマート
14位 アリス・ウォルトン
純資産 946億ドル(約13兆7000億円)
減少幅 68億ドル(約9800億円)
主な収入源 ウォルマート
15位 アビゲイル・ジョンソン
純資産 313億ドル(約4兆5000億円)
減少幅 56億ドル(約8000億円)
主な収入源 フィデリティ・インベストメンツ
16位 ブライアン・アームストロング
純資産 76億ドル(約1兆1000億円)
減少幅 52億ドル(約8000億円)
主な収入源 コインベース
17位 ロバート・ペラ
純資産 149億ドル(約2兆2000億円)
減少幅 46億ドル(約7000億円)
主な収入源 ワイヤレスネットワーク
18位 マッケンジー・スコット
純資産 274億ドル(約4兆円)
減少幅 45億ドル(約7000億円)
主な収入源 アマゾン
19位 ジョージ・ロバーツ
純資産 142億ドル(約2兆1000億円)
減少幅 42億ドル(約6000億円)
主な収入源 プライベートエクイティー
20位 リンダル・スティーブンス・グレス一族
純資産 264億ドル(約3兆8000億円)
減少幅 42億ドル(約6000億円)
主な収入源 石油・ガス
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