粉瘤

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粉瘤の概要

粉瘤(ふんりゅう)とは、皮膚に袋状の構造物ができ、その中に角質や皮脂が溜まって形成される良性の皮下腫瘍です。別名、表皮嚢腫(ひょうひのうしゅ)やアテロームとも呼ばれます。背中や顔、首にできる場合が多いですが、全身のどこにでも出来る可能性はあります。腫瘍の中央に黒い点があるのが特徴です。皮膚の下にしこりができて、数か月しても消えない場合は粉瘤の疑いがあります。
初期段階では痛みを伴わないことが多く、しこりが小さいために気づかれにくいです。しかし、時間が経つにつれて徐々に大きくなり、炎症や感染を引き起こします。進行すると、赤みや腫れ、痛みを伴うことがあり、場合によっては膿が溜まります。

粉瘤は自然治癒することはほとんどなく、放置すると再発や悪化のリスクが高まります。そのため、手術による摘出が行われます。手術は、局所麻酔を用いて日帰りで可能なため、身体への負担は少ないです。

粉瘤の原因

粉瘤の発生原因は完全には解明されていませんが、いくつかの要因が関与していると考えられています。一般的には、皮膚の毛穴が閉塞し、内部に角質や皮脂が溜まることで粉瘤が形成されるとされています。具体的な原因は、軟部組織の損傷・ウイルス感染・遺伝的要因・ホルモンバランスなどです。

軟部組織の損傷

外傷や皮膚の損傷が原因となります。例えば、擦り傷や切り傷、虫刺され、ピアスの穴などがきっかけで粉瘤を形成する場合があります。そのため、傷がある部位は清潔に保つのが大切です。

ウイルス感染

ウイルス感染が原因となる場合もあります。特に、ヒトパピローマウイルス(HPV)に感染することで、手足に粉瘤ができることがあります。HPVは、主に性交渉などの刺激によって生じる細かな粘膜の傷が感染経路です。

遺伝的要因

さらに、遺伝的な要因も関与していると考えられています。家族に粉瘤ができやすい人がいる場合、その体質が遺伝することがあります。特に、外毛根鞘性嚢腫(がいもうこんしょうせいのうしゅ)というタイプの粉瘤は、遺伝的な要因が強いです。

ホルモンバランス

粉瘤の発生には体質やホルモンバランスも影響を与えます。例えば、ホルモンバランスが乱れることで皮脂の分泌が増加し、毛穴が詰まりやすくなりやすいです。また、汗をかきやすい人や皮脂の分泌が多い人は、粉瘤ができやすい傾向があります。

粉瘤の前兆や初期症状について

粉瘤の初期症状はほとんどなく、自覚しにくいことが多いです。初期段階では、皮膚の下に小さなしこりが感じられる程度で、痛みや赤みなどの目立った症状はほとんどありません。このため、粉瘤が発生しても気づかずに放置されることが多いです。

粉瘤の前兆としては、しこりに小さな黒点が見られることがあります。この黒点は、粉瘤の袋の開口部であり、しこりを押すとここから老廃物が排出されます。

粉瘤が進行すると、しこりが徐々に大きくなり、目立つようになります。大きくなった粉瘤は、見た目にも影響を与えるため、特に顔や首などの露出部にできた場合は、患者さんにとって大きなストレスです。さらに、粉瘤が細菌感染を起こすと炎症が発生し、赤み・腫れ・痛みが生じます。これは、感染性粉瘤や炎症性粉瘤と呼ばれる状態で、膿が溜まる症状です。この場合、粉瘤は強い痛みを伴い、日常生活に支障をきたすことがあります。

これらの症状が見られる場合、皮膚科や形成外科を受診して適切な検査・治療を受けることをおすすめします。

粉瘤の検査・診断

粉瘤の診断は、主に視診と触診によって行われます。経験豊富な医師であれば、粉瘤の特徴的な外観や感触から比較的容易に診断することができます。粉瘤は、皮膚の下にしこりとして現れ、中央に小さな黒い開口部が見られるのが特徴です。

視診と触診だけで診断が難しい場合や、他の皮膚疾患との鑑別が必要な場合には、追加の検査が行われます。例えば、エコー検査は、粉瘤の大きさや内容物の状態を詳細に観察することができます。また、CT検査やMRI検査が行われることもあります。これらの画像診断は、粉瘤が深部に達している場合や、周囲の組織との関係を詳しく調べるために大切です。特に、大きな粉瘤や再発を繰り返す粉瘤の場合には、詳細な画像診断が必要になります。

粉瘤はほとんどが良性ですが、まれに悪性の可能性があるため病理検査を実施することがあります。病理検査では、粉瘤の内容物を顕微鏡で観察し、細胞の異常や感染の有無を確認します。
粉瘤の診断には、他の皮膚疾患との鑑別も重要です。以下に鑑別するべき疾患とその特徴を紹介します。

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上記のように特徴が似ている皮膚疾患は複数あります。

粉瘤の治療

粉瘤の治療は、手術による摘出が一般的です。粉瘤は自然に治癒することがほとんどないため、手術によって取り除く必要があります。手術は局所麻酔を用いて行われ、日帰り手術が可能な場合が多いです。手術で取り出した粉瘤は確定診断のために病理検査に出すことがあります。

手術の方法には、切開法とくり抜き法の2種類があります。切開法は、粉瘤の上部を切開し、袋ごと取り除く方法です。この方法は、粉瘤が大きい場合や、再発を防ぐために袋を完全に取り除く必要がある場合に適しています。一方、くり抜き法は、特殊な器具を用いて粉瘤の袋をくり抜く方法です。この方法は、傷跡が小さく、術後の回復が早い利点がありますが、粉瘤が大きい場合や複雑な形状をしている場合には適さないです。

炎症や感染を伴う粉瘤

炎症や感染を伴う粉瘤の場合、まずは排膿処置が行われます。排膿処置では、粉瘤の上部を切開し、内部の膿や老廃物を排出します。この処置によって一時的に炎症が治まりますが、根本的な治療ではないです。そのため、炎症が治まった後に、再度摘出手術を行います。

手術後のケアも重要です。術後は、傷口を清潔に保ち、感染を防ぐためにガーゼや絆創膏を使用します。傷口が完全に治癒するまでの期間は、医師の指示に従って適切なケアを行うことが大切です。

粉瘤になりやすい人・予防の方法

粉瘤は、特定の体質や生活習慣によって発生しやすい人がいます。例えば、ホルモンバランスが乱れやすい人や、皮脂の分泌が多い男性、家族に粉瘤ができやすい人がいるなどです。また、汗をかきやすい人や、皮膚に刺激を受けやすい人も粉瘤が発生しやすいです。粉瘤の予防方法としては、皮膚の清潔、健康的な生活習慣、定期的な受診が大切です。具体的にどんなことをしたらいいか以下で説明します。

皮膚の清潔

洗顔や入浴で皮膚の汚れや余分な皮脂を洗い流し、皮膚を清潔に保つのが大切です。また、皮膚に刺激を与えないようにすることも予防に繋がります。例えば、ニキビを無理に潰したり、皮脂の詰まりを強く押し出すことは避けるべきです。

健康的な生活習慣

健康的な生活習慣を心がけることも粉瘤の予防に役立ちます。バランスの取れた食事や十分な睡眠、適度な運動を行うことで、ホルモンバランスを整え、皮膚の健康を保つことができます。また、ストレスを溜めないようにすることも大切です。ストレスはホルモンバランスを乱し、皮脂の分泌を増加させる原因となります。

定期的な受診

粉瘤ができやすい人は、定期的に皮膚科を受診し、早期に異常を発見することが重要です。特に、過去に粉瘤ができたことがある人や男性で皮脂が詰まりやすい方などは定期的に受診すると良いでしょう。早期に発見することで、粉瘤が大きくなる前に適切な治療を受けることができます。

関連する病気
  • 表皮嚢腫
  • アテローム
  • 参考文献

  • みんなの医療ガイド|粉瘤
  • 日本皮膚科学会
  • この記事の監修医師

    高藤 円香

    高藤 円香 医師

    監修記事一覧

    防衛医科大学校卒業 / 現在は自衛隊阪神病院勤務 / 専門は皮膚科

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