膜性腎症の概要
膜性腎症は、腎臓の糸球体という部分に異常が生じることによって引き起こされる疾患です。とくに、60〜80歳の男性に多くみられる傾向があります。
糸球体は直径0.1〜0.2mmほどの小さな構造で、腎臓には約100万個存在しており、血液をろ過し、老廃物や塩分を尿として体の外に排出する役割を担っています。しかし、膜性腎症になると、糸球体を構成する基底膜が厚くなり、ろ過機能が低下してしまいます。その結果、主な症状として尿中にタンパク質が漏れ出す「蛋白尿」があらわれます。この状態を「ネフローゼ症候群」と呼び、むくみや血尿がみられることもあります。
膜性腎症は、成人におけるネフローゼ症候群の原因の中で最も多いとされています。膜性腎症には、原因がはっきりしない「一次性」と、他の病気などが原因となる「二次性」があります。一次性膜性腎症は、免疫の異常が関係していることが明らかになっており、膜性腎症全体の大半を占めます。
膜性腎症の治療には、免疫抑制薬やステロイド薬を使用する治療や、これらの薬を使用しない保存的療法があります。保存的療法では、利尿薬や血圧を下げる薬、血液をサラサラにする薬の使用に加えて、禁煙や体重管理、塩分制限などの生活習慣の指導が行われます。
膜性腎症は、早期に発見して適切な治療をはじめれば、腎機能の低下を防ぐことが可能です。
膜性腎症の原因
膜性腎症には、原因が特定できない「一次性」と、何らかの病気や薬剤によって起こる「二次性」があります。
一次性膜性腎症では「PLA2R」というタンパク質が関係していることが明らかになっています。このタンパク質に対する「抗PLA2R抗体」が、患者のおよそ70%で検出されることが報告されています。ほかにもいくつかの関連するタンパク質があると考えられています。
一方で、二次性膜性腎症は、がんや自己免疫性疾患、薬剤、感染症などが原因で発症します。
膜性腎症の前兆や初期症状について
膜性腎症は数週間から数ヶ月かけて少しずつ進行するため、初期段階では目立った症状が現れにくい病気です。最も特徴的な症状は、尿中にタンパク質が排出される「蛋白尿」で、この状態が「ネフローゼ症候群」とよばれています。ネフローゼ症候群になると、むくみや高血圧、脂質異常症などもみられることがあります。
ただし、膜性腎症によるネフローゼ症候群では、尿中のタンパク質の増加は比較的ゆるやかで、むくみがあまり目立たない場合もあります。また、個人によって程度が異なりますが、血尿がみられることもあります。
また、ネフローゼ症候群になると血液がかたまりやすくなり、血栓症のリスクが高まることが知られています。とくに膜性腎症は、ネフローゼ症候群の中で血栓ができる頻度が最も高いとされています。このため、症状が軽い場合でも血栓リスクに注意しながら、慎重な経過観察をすることが必要となります。
膜性腎症の検査・診断
膜性腎症の診断には、主に尿検査や血液検査、腎生検が用いられます。
尿検査では、尿中に多量のタンパク質が排泄されている「蛋白尿」を確認します。また、血液検査で、血清アルブミンの低下やコレステロールの上昇が認められると、ネフローゼ症候群と診断されます。これらの検査は健康診断などでも簡単に実施でき、腎機能の異常の早期発見に役立ちます。
ただし、ネフローゼ症候群には膜性腎症以外にもさまざまな原因があるため、正確な診断にはより慎重な検査が必要になります。
また、膜性腎症の確定診断には腎生検が必要です。腎生検では、腎臓の組織の一部を採取して詳しく調べることで、病気の種類や進行度を確認できます。膜性腎症では、光学顕微鏡で係蹄壁(糸球体を覆う特有の構造)のスパイク形成やびまん性肥厚を認めます。さらに、免疫蛍光染色でIgG4やC3の顆粒状沈着や、電子顕微鏡で糸球体基底膜上皮下の電子密度の高い沈着物も認められます。
近年では、体への負担が少ない血液検査で「抗PLA2R抗体」を調べる方法も注目されています。ただし、現時点ではこの検査は保険適用外であり、あくまで腎生検が難しい場合の補助的な手段とされています。
膜性腎症の治療
膜性腎症の治療は、病気の進行具合や原因によって慎重に決定されます。
これまでは、初期治療としてステロイド薬を単独で使用し、効果が不十分な場合に免疫抑制薬を併用する方法が一般的でした。しかし近年では、ステロイド薬や免疫抑制薬を使用しない「保存的療法」を初期治療の選択肢とすることも増えています。
保存的療法とは、利尿薬や血圧を下げる薬、血液をサラサラにする薬を用いた薬物療法や、禁煙、体重管理、塩分制限などの生活指導を行う方法です。とくにステロイド薬などの副作用リスクが高く、増量が難しい患者にとっても、有用な治療法です。
保存的療法を6ヶ月ほど継続しても症状の改善がみられない場合は、腎機能の低下を防ぐために、ステロイド薬や免疫抑制薬を中心とした治療に切り替えることが検討されます。
治療の効果や副作用のあらわれ方には個人差があるため、経過をみながら個別の治療方針が選択されます。
膜性腎症になりやすい人・予防の方法
膜性腎症は、とくに60〜80歳の男性に多くみられる傾向があります。また、がんや自己免疫性疾患、感染症のある人は、膜性腎症を発症するリスクが高まるため、注意が必要です。
早期発見が治療後の経過にも影響を与えるため、定期的な健康診断などで尿検査を受け、異常がみられた場合は速やかに専門医を受診することが重要です。
膜性腎症の予防は、生活習慣の改善が基本となります。とくに、肥満や高血圧、糖尿病などの生活習慣病は腎臓に負担をかけるため、これらを適切に管理することが慢性腎症を含む腎疾患の予防につながります。
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参考文献
この記事の監修医師
中路 幸之助 医師(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。
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