近畿北部に「10m超」大津波の可能性…日本海に潜む『海域活断層』の脅威とは?専門家は「日本海側の津波は範囲は狭いが高い」と指摘

2024年11月05日(火)放送

 南海トラフ巨大地震が発生すると「太平洋側に巨大津波が来ると想定される」とよく言われていますが、一方で、日本海側にも津波のリスクが潜んでいることを知っているでしょうか?過去に近畿北部を襲った大津波の実態に迫り、今後のリスクについて考えます。

神社に伝わる約1300年前の津波の「言い伝え」

特集津波くろ_000-000054701.jpg
 京都府宮津市の「天橋立」。白い砂と松林が美しい日本三景のひとつです。近くの高台にある神社には、約1300年前の津波についての「言い伝え」が残っています。

 (元伊勢 籠神社 権禰宜・岸野駿平さん)「こちらが波せき地蔵です。大宝元(701)年に発生した大地震による津波が、お地蔵さんの手前で切り返したことから『波せき地蔵』と呼ばれています」

 飛鳥時代の701年に京都府北部などを襲った大宝地震。当時、地蔵は参道の入口にあったとされています。標高16mのこの場所まで、津波が来たと伝わっているのです。

 (元伊勢 籠神社 権禰宜・岸野駿平さん)「当社にも伝わる記録にもありますとおり、地震災害とそれにともなう津波は、日本海側でも過去に何度も発生しています。ご先祖さまの記録と記憶を軽視せず、常日頃備える必要があります」

「海域活断層」の地震の脅威…発生直後に津波到達の可能性

image

 今年の元日に発生した能登半島地震。日本海での津波の脅威を目の当たりにしました。石川県能登町では、約5mの津波が住宅街を襲いました。

 (住民)「ゆめにも思っていませんでしたね。人生80年生きてきた中で津波が来たことはなかったんですから」

 四方を海に囲まれた日本列島。近畿地方では、南海トラフ地震による太平洋側の津波の危険性が最も高いとされています。一方、日本海側では、東日本大震災以降に調査が進んだ「海域活断層」の地震に警戒が必要です。断層が陸に近いため、地震が起きるとすぐに津波が来るおそれがあるのです。

 1983年の日本海中部地震では、津波により秋田・青森・北海道で104人が犠牲になりました。

 その10年後、1993年に起きた北海道南西沖地震では、奥尻島に数分で津波が到達。津波は、高さ約30mの地点にまで遡上するなどし、死者・行方不明者は230人にのぼりました。

京都府で最大10.9mの津波想定「日本海側の津波は狭い範囲だが高い」

 こうした高い津波が近畿北部を襲うことはあるのか?津波のメカニズムが専門の関西大学・高橋智幸教授は、近畿の北部でも10mを超える津波のおそれがあると指摘します。

 (関西大学・社会安全学部 高橋智幸教授)「特に『F49』とか『F54』と呼ばれている活断層が海の中にありまして、それらが地震を発生させると、津波が兵庫県や京都府にも押し寄せるとわかっています」
特集津波くろ_000-000441067.jpg
 Fは、英語で断層を意味するfaultの頭文字です。日本海側にある60の海域活断層に北から順番に番号がふられていて、国が警戒を呼びかけています。
特集津波くろ_000-000505701.jpg
 京都府で最大の津波が想定されるのは、断層が87kmにわたるF49で、津波は最も高い伊根町で10.9m、舞鶴市や京丹後市でも8mを超える見込みです。
特集津波くろ_000-000525801.jpg
 兵庫県北部では、F54による津波が最も大きく、香美町で5.3m、豊岡市と新温泉町では4.5mと想定されています。地震から10分以内に第一波が到達するとみられていて、迅速な避難が必要です。

 (関西大学・社会安全学部 高橋智幸教授)「太平洋側の場合には(津波が)広い範囲にやって来るけれども、日本海側の場合は狭い範囲だが津波の高さは高いので十分危険だと思います」

 また、活断層が海底にあるため、内陸部に比べて調査が進んでおらず、まだ分からないことが多いといいます。

 (関西大学・社会安全学部 高橋智幸教授)「海域活断層地震の発生間隔は数百年~数千年。われわれ人間が知っている情報だけでは、そういった活断層の地震がいつどこで起きるか予測できないと思ったほうがいい」

約100年前に発生した近畿北部での地震 700ページ以上にわたる記録

 日本海側で懸念され、予測が難しい海域活断層地震。実は、約100年前、近畿北部でも起きていました。

 昭和2年(1927年)に発生した北丹後地震では、2~3mの津波が押し寄せたという記録が残されています。当時、京都府がまとめた資料では、北丹後地震について700ページ以上にわたり記録されています。地震や火災で、現在の京丹後市などで約3000人が亡くなりました。資料には津波の様子も詳細に記されていました。

 【資料より】
 「海岸に面せる地方では、發震(はっしん)と共に俄然(がぜん)海水は平生(へいぜい)の水位より一丈餘(よ)を增(ま)した」※一丈=約3m

 「出漁中であった漁船は其(この)波動の爲(ため)に三四間(けん)も離れた陸上に打揚げられるなどの騒ぎ」※三四間=5~7m

 現在の京丹後市で、「海水が3mあまり上昇」「漁船が5~7m離れた陸地に打ち上げられた」と津波の様子が記録されていました。津波は確かに発生していたのです。

「能登半島地震で再認識」先人が残したメッセージと過去の被害から学ぶ

 今年8月、政府の地震調査委員会は、京都の沖合に新たに3つの海域活断層が見つかったと発表しました。いずれも、マグニチュード7クラスの地震を発生させるおそれがあるとしています。

 (地震調査委員会・委員長 平田直東京大学名誉教授)「ぜひ、ひと事と思わずに防災の備えに努めていただきたい」  

 最大5.3mの津波が想定されている兵庫県香美町。毎年、町をあげて防災訓練を実施しています。海に近い地区では津波を想定して、住民たちは一斉に高台の公園に向かいます。
特集津波くろ後半_000-000337334.jpg
 去年までは、数軒ごとに集まってから避難していましたが、能登半島地震では、地震の数分後に石川県の沿岸に津波が到達したことから今回の訓練から、個々で高台を目指すように変更しました。

 (住民)「1月1日(能登半島地震)のことがあったので、ドキドキしながら訓練に参加しました」
 (住民)「能登半島地震で再認識した。『自分の身は自分で守る』という意識ができた気がします」

 日本海に潜むいくつもの海域活断層。先人が残したメッセージと過去の被害から学び、津波のリスクに備える必要があります。

コメント