=10日、西之表市の馬毛島上空(本社チャーター機から税所陸郎撮影)
鹿児島県西之表市馬毛島で、米軍空母艦載機陸上離着陸訓練(FCLP)移転を伴う自衛隊基地整備が始まって2年がたった。地元では賛否の論争から、古くから続く暮らしや産業をどう守るかに焦点が移りつつある。26日告示の市長選、市議選を前に、基地工事がもたらした功罪を追った。(連載・馬毛島の現在地 基地着工2年②から)
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「忙しくて手が回らない。手伝ってくれない?」
取材で訪れた西之表市街地の飲食店。マスター(71)に誘われ、8、9日、ホール業務を体験した。正午をすぎると複数の団体が同時に来店。厨房(ちゅうぼう)では注文が飛び交った。
オーダーを受け、料理を器に盛り、片付けまでと何役も担うと目が回る。娘さん(43)は「まだ少ない方。対応できず入店を断らざるを得ない日もある」と明かす。
馬毛島での工事に人手を取られ、従業員はかつての4分の1に減った。午前7時から深夜まで2交代制の営業も、昨秋ごろから深夜を取りやめ、座席数を減らした。「毎晩、翌日のシフトをどうしようか悩んでいる」とマスターは言う。
基地工事に救われた面もある。客の7割を関係者が占める。他に経営していたコンビニとカラオケは新型コロナ禍の影響で赤字となったが、工事関連業者からの申し出があり、店を閉め貸し出した。それでも胸中は複雑だ。「経済は潤ったが、果たして生活は豊かになったかどうか。人が足りず業務の負担は大きい」
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この2年間で商圏人口は急拡大した。基地工事による活況がコロナで沈む地域経済の再生に一役買ったことは、市の景気動向調査からも明らかだ。調査に協力した事業者の53%が、2023年度の売り上げは着工前の22年度より「良くなった」と回答。24年度も35%が前年度比増とした。
ある宿泊施設は3分の2を作業員用に充て、資金繰りにめどが付いた。64歳の経営者は「工事の間に、より魅力ある施設にしようと考えている」と話す。繁盛ぶりを「30~40年前のバブル期に次ぐ」と例える市街地の飲食店主もいる。
不安材料は止まらない物価高騰だ。市経済観光課は「何しろコストがかかる。基地工事は期間が限られ、結果的に特需といえるほど利益を感じられる事業者はそう多くならないかもしれない」と危惧する。
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種子島に滞在する工事関係者は、最新の昨年10月末時点で約1990人。防衛省が23年5月に公表した推移の見通しでは、ほぼピークを迎えた。着工前後から高騰した家賃相場もようやく“天井”が見えてきた。
市内の物件を取り扱う不動産業者によると、木造アパート1室は月約7~8万円で高止まりし、工事関連向けに月20~30万円に設定した一軒家は空きが出始めた。とはいえ、着工前からは価格差が大きく、担当者は「地元住民が借りやすい値段では空きがない。工期延長でこの状態が続くのは心苦しい」とこぼす。
着工直後、市に「家賃改定で大家から退去要請があった」といった相談が相次いだ。落ち着きつつあるという現在も、市営住宅の入居待機は20~30件で推移する。住宅不足の解消にはほど遠く、各業種が苦慮する人材確保において壁として立ちはだかっている。
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