現在、日本人男性がいちばんかかりやすいがん――それが、ほかでもない前立腺がんです。国立がん研究センターがん情報サービスによれば、前立腺がんの罹患数は、近年、トップの座を占め続けていると推測されています。
長く、よい状態を保って生きていくためには、患者さん自身のがんの状態、全身の健康状態などを勘案しながら、最良の治療法を「選択」していくことが必要です。『 名医が答える! 前立腺がん 治療大全 』よりそのためのヒントを紹介します。
PSA値が高いといわれました。前立腺がんでしょうか?
PSAは前立腺の細胞が分泌する酵素で、通常、血中濃度はわずかです。一般的にPSAの基準値は4とされていますが、基準値は年代によって調整すべきという考え方もあります。
『名医が答える! 前立腺がん 治療大全』より
PSAの高さは前立腺になにか異常が起きているかもしれないというサインです。基準値を超えてもがんとは限りませんが、PSA値が高くなるほど前立腺がんがある可能性は高くなります。がんかどうか診断するには、最終的には前立腺の組織を採取して調べる生検が必要です。ただし、すぐに生検となるわけではありません。基準値を超えていても10以下の場合は、一般にグレーゾーンといわれます。グレーゾーンの人すべてに生検をした場合、7〜8割はがんが見つからず、結果的に多くの人にとって不要な検査となってしまいます。まずは泌尿器科医のもとで二次検査を受け、前立腺がんの疑いがあるかどうか調べてもらいましょう。
PSA検査後、診断までの流れを教えてください
PSA値は、前立腺肥大症や前立腺炎など、がん以外の病気が原因で高くなることもあります。前立腺がんが原因か、それとも別の病気が原因かは、PSA値だけでは判断できません。前立腺がん検診などでPSA値が基準値(一般的には4、50代〜60代前半なら3、60代後半なら3.5とすることもある)を超えているとわかった場合には、前立腺がんの疑いがあるかどうかを調べるために、泌尿器科での二次検査(精密検査)が必要になります。二次検査では次のような検査がおこなわれます。
『名医が答える! 前立腺がん 治療大全』より
● 問診
頻尿・残尿感などの排尿トラブルがあるか、その他、気になる症状があるか、これまでにかかったことのある病気や、常用している薬があるかといったことを聞かれます。答えられるようにしておきましょう。血縁者に前立腺がんの経験者がいるか、ほかのがん、とくに膵臓がんや乳がん、卵巣がん、大腸がんの経験者がいるかどうかも、伝えられるようにしておきましょう。
● 直腸診
医師が肛門から指を入れ、前立腺の大きさや形、硬さ、表面の様子などを調べます。がんがあると、石のように硬く感じられたり、ゴツゴツした感触があったりします。ただし、ごく早期のがんは触れても異常が感じられません。また、触れることができる範囲も限られているため、これだけで「異常なし」とはいえません。
● 経直腸的超音波検査
肛門から超音波を発信する装置(超音波プローブ)を入れ、前立腺の大きさや形を画像化します。がんがある程度大きくなると、黒い影のように映ることもあります。
● 前立腺MRI検査
前立腺がんの疑いがあれば、さらにMRI検査をおこなう例が増えています。前立腺の画像の見え方からあやしい部位を特定し、がんの疑いの高さ・低さを5段階で評価、生検をおこなうかどうか判断する材料のひとつとします。しかし、画像からはがんの可能性が低いようでも、「絶対にがんではない」とはいえません。生検に進むかどうかは、ほかの検査結果などと合わせて総合的に判断されます。
● その他
PSAの分析結果も参考にされます。PSA値を前立腺の容積で割って出すPSA密度が高いほど、または血液中の総PSAに占めるタンパク質に結合していないフリーPSAの割合(F/T比)が低値であるほど、前立腺がんの可能性が高くなります。PSAの前段階の物質の量をはかり、総PSA、フリーPSAと組み合わせて算出する指標(phi)を参考にすることもあります。
さまざまな検査の結果、がんの疑いは低いと判断されれば、生検はおこなわれません。ただし、医師に指示された間隔でPSA検査を受けるようにします。PSA値の上昇速度が速くなってきたなどという変化があれば、その時点で再び対応を考えます。
前立腺がん 治療大全③前編
頴川 晋
東京慈恵会医科大学教授
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