桜島とともにある鹿児島
自然と歴史が調和する魅力的な地域・鹿児島県。九州で最も面積の広い県で、桜島が象徴するように、活火山の力強さと豊かな自然景観が広がっている。種子島、屋久島、奄美群島など、28の有人離島があり、鹿児島県の総面積の約28%は離島で占められているのも特徴だろう。
桜島は、鹿児島の誇りとも言える観光名所。その迫力ある噴火によって観光客に特別な体験をもたらすとともに、自然の脅威と美しさが共存する場所でもある。この鹿児島を象徴する活火山は、錦江湾に浮かぶ雄大な姿をしている。約2万9,000年前に起こった超巨大噴火によって「姶良(あいら)カルデラ」と「シラス台地」が形成され、さらに約3,000年後、カルデラの南端に桜島が誕生し、姶良カルデラの子どものような火山として、噴火活動をはじめた。
桜島は、その誕生以来、17回を超える大噴火を繰り返し、近代に入ってからも、1914年(大正時代)と1946年(昭和時代)に大噴火を起こしている。前者では大量の溶岩が流れ、それまで島だった桜島と大隅半島は陸続きとなった。後者は溶岩を流した20世紀最後の噴火だ。以後1955年からは、火山灰の噴出を繰り返す噴火活動がはじまり、今日まで続いている。
桜島の”機嫌が悪い”日は小さな噴火も。火山灰と付き合う日常
桜島はただの火山ではなく、自然と人々の暮らしが共存する場所でもある。小さな噴火は、日常茶飯事。いざ噴火が起これば、爆発音とともに噴石が飛び出し、噴煙がモクモクと上がる。音がしなくても、静かに水蒸気や噴煙を出していることもある。そんな時、住人たちは桜島を見て、「今日は機嫌が悪いね」と言葉をかわす。何もなければ、もちろんその逆で「機嫌がいいね」だ。
桜島は幾度となく大規模な噴火を繰り返し、1914年の大噴火では溶岩が湾を埋め、島が大隅半島と陸続きになるほどだったという
「桜島の年間爆発回数は、多い時で1年に約900回を超えることもあります。7月8月の時期は市街地へ向かって風が吹くため、市街地側は夏に火山灰が降り注ぐことが多いです」と鹿児島市の危機管理局・危機管理課の藤原さんは話す。桜島の降灰対策は、鹿児島市ならではの課題だ。移住相談でも火山灰についての問合せ数は少なくない。鹿児島市内で暮らすことを考えた際には付き合っていかなければならない問題だろう。
降灰除去対策に取り組む鹿児島市
鹿児島市内では、降灰に対する特別な取り組みがいくつかある。噴火により道路の区画線が見えづらくなった場合には、降り積もった火山灰を収集する「ロードスイーパー」や火山灰の舞い上がりを防ぐために水を撒く「散水車」などで道路は清掃される。また市民に克灰袋(こくはいぶくろ)を無料配布し、自ら収集する仕組みが整えられている。集められた克灰袋を灰ステーションに持っていけば、月に2回、鹿児島市が定期的に回収してくれる。
「日常的な火山の噴火による公共交通機関への影響はほとんどありません。ただ風向きによって桜島に降るのか、市街地側に降るのか変わるので、風向きチェックは日課ですね。それによって、洗濯物をどこに干すか決めるご家庭も多いでしょう」と道路維持課の木村さん。
桜島島内で実施されている、島外への避難訓練の様子。提供:鹿児島市
とはいえ、自然相手のこと。いつか起こると言われている大きな噴火に備えて、桜島島内では毎年、地域住民総出の防災訓練を行っている。地震の避難訓練と異なる点は、大噴火の前にどう逃げるか?というところだ。最近の桜島では、大噴火の前兆現象を把握できる体制が整っているため、噴火が起こってから避難するという事態はほぼ起こらないという。1914年に起こった噴火で学んだ、鹿児島の知恵がつまっている。
教育教材「みんなで学ぼう桜島火山防災」を通して、子どもたちにも注意喚起を行っている
火山灰とうまく付き合う家づくり
火山のある地域では、もちろん住宅の設えも少し異なってくる。鹿児島県特有の住宅の取り組みとして、桜島の噴火による火山灰被害を軽減するための「克灰住宅」というものがあり、県は工務店・建設業・設計事務所等の住宅建築技術者に向けて「克灰住宅設計マニュアル」を作成。住宅の火山灰対策の具体的な内容や施工例について、指針を発表している。
ポイントは3つ。火山灰の侵入を防ぎ、雨水を流しやすくし、清掃を容易にすることだ。
例えば、室内への火山灰の進入を防ぐために、窓やドア等開口部には二重サッシや高い気密性を持つ窓を使用したり、軒出の長さを大きくしたりする。また火山灰の堆積を防ぐために、屋根の勾配を10分の4以上にしたり、屋根から落ちる火山灰が自動的に溜まる仕組み「灰シューター」を設置したりする手法もある。
克灰住宅設計マニュアルを満たすと「克灰住宅」として認められ、最大120万円の補助金も受けられる。補助金の活用を検討している方は、まずは県内の注文住宅の相談窓口を活用してみよう
風雨があると、火山灰は屋根や樋、側溝などの凹凸部分に溜まってしまうが、外構の配置や形態、仕上げ材の工夫によって、火山灰の溜まりにくい構造や形状をとることができる。洗濯物が外に干せないことも多いので、サンルームを用意している家がほとんどだ。これらは暮らしの快適さを向上させるだけでなく、建物の長寿命化対策にもなる。
住宅構造の工夫以外にも、空調機や発電機などの屋外機器をラップフィルムや専用カバーで包んだり、火山灰を湿らせてから掃き掃除を行ったりするなど、住人自らできることもたくさんある。
行政サポートや体制も整っているので、鹿児島市で暮らし始めるにも安心だ。なにより、先述したように“ご機嫌”で言い表されるほど、桜島は街の人に愛されている。手がかかる子ほど可愛い、とはよく言ったものだ。市内から、桜島はだいたいどこにいても見られる。住民たちは火山灰と共に、この地に根付いて暮らしてきたのだ。この地域の魅力の一つに違いない。
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