100機もの自爆型ドローン一斉発進も可能、中国のドローン空母「九天」が初飛行へ、台湾有事あれば間違いなく脅威に

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国際航空宇宙ショーで展示された中国軍の大型無人機「九天」。
小型ドローンの「空母」にもなる(写真:共同通信社)

迅速に交換可能なモジュール式キャビン

[ロンドン発]ウクライナ戦争でドローン(無人航空機)の重要性が証明される中、100機のカミカゼドローンを一斉に発進できる中国の無人新型高高度ドローン空母「九天」の初飛行が6月末までに行われると中国中央電視台(CCTV)が5月17日付で報じた。英紙も一斉に後追いした。


中国CCTVが公開しtた、飛行中に小型ドローンを一斉に発進させる「九天」のCG画像

 CCTVによると、「九天」は昨年の第15回中国航空ショーで初公開され、注目を集めた。翼幅25メートル、最大離陸重量16トン、最大積載量6トン。第4号機は機体の組み立てを終え、現在システムの設置と試験を行っているとみられる。初飛行は6月末までに行われる予定だ。

 偵察・攻撃一体型ドローン「九天」の動力システムはターボファンエンジンを採用。最大飛行高度は高高度の1万5000メートル、最大飛行速度は時速700キロメートル、最大航続距離7000キロメートル、飛行時間は12時間以上とCCTVは報じている。

 兵器は8つの外部取り付けポイントに1000キログラム級の誘導爆弾、空対空ミサイル、空対地ミサイル、対艦ミサイル、巡航ミサイルを搭載できる。英SF人形劇『サンダーバード』2号のように迅速に交換可能なモジュール式キャビンを備え、2時間以内に任務を切り替えられる。

敵地の奥深くまで飛んで攻撃できる

 航空輸送や情報支援、システム戦闘、緊急救助など軍民両分野のミッションに使用できる。CCTVが放送した映像ではカミカゼドローンを次々と発進させる様子が紹介され、スウォーム攻撃(多数のドローンを連携させて目標を攻撃すること)を連想させる。

 恐ろしいのは腹部に組み込まれたハチの巣のようなミッションキャビンだ。この中に数百発の巡航ミサイルや小型ドローンを搭載できるため「九天」は「空中ドローン空母」の異名を持つ。遠方のオペレーターが遠隔操作し、より精密かつ法的に許容される運用が可能になる。

 軍事専門家の張学峰氏はCCTVに「より高度な電子戦用ポッドやレーザー光線で敵の赤外線誘導ミサイルを妨害する指向性赤外線妨害システムを搭載すれば、敵レーダーを抑制・妨害し、『九天』の生存性は大幅に向上する」と指摘している。

「小型ドローンは飛行距離が短いという問題を抱えている。敵地の奥深くにあるターゲットを攻撃したい場合、小型ドローンでは難しい。しかし『九天』は小型ドローンを搭載して敵地の奥深くまで飛んで攻撃できる」(張学峰氏)

ロシア軍の死傷者の80%はドローン攻撃

 ウクライナ戦争以降、ロシア、ウクライナのドローン生産、中でも戦車破壊能力を持つ一人称視点(FPV)ドローン生産が急増している。ウクライナにおけるロシア軍の死傷者の80%はFPVドローンによるものとも言われる。

 英紙デーリー・メール(5月20日付)は「『九天』は天高く飛ぶという意味。中国は空軍力の増強を積極的に進めている。このようなスウォーム攻撃は防御がほぼ不可能で、その規模と速度で敵システムを圧倒する」と警告している。

 防衛アナリストは同紙に「この戦略は台湾上空での緊張が高まった場合、ゲームチェンジャーとなる可能性がある。ドローンスウォームは情報収集、通信妨害、さらには精密攻撃にも使用される」との見方を示している。

「九天」は米軍のRQ-4グローバルホークとMQ-9リーパーに対抗する最新兵器になる。高高度を飛行する「九天」はレーダーシステムを回避できるように設計されており、現代戦におけるステルス性の高いプレデターになる。

台湾防衛のための米軍の「ドローン地獄」作戦

 中国は今年3月、1トン以上の物資を最大1000キロメートル輸送できる初の無人輸送機TP1000の試験運用を行った。高高度長時間滞空型ドローンWZ-7や「雙尾のサソリ」と呼ばれる中高度・長時間滞空型TB-001スコーピオンを南シナ海や台湾海峡周辺で運用してきた。


2024年11月、中国・広東省珠海市で開催された第15回中国国際航空宇宙博覧会で展示されたWZ-7(新華社/共同通信イメージズ)

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「雙尾のサソリ」TB-001(新華社/共同通信イメージズ)

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 サミュエル・パパロ米インド太平洋軍現司令官は昨年6月、米紙ワシントン・ポスト紙に対し、中国人民解放軍の艦隊が台湾海峡を移動し始めたら、米軍は数千の潜水・水上・空中ドローンを殺到させ、台湾と米国、パートナーの軍が対応する時間を稼ぐ作戦を披露した。

「中国は世界が行動を起こす前に短期間で激しい戦争を仕掛け、既成事実化しようとしている。ほとんど警告なしに大規模な攻撃で台湾を圧倒することが中国の戦略の可能性が高い。私の任務は今から2027年、それ以降も西側が勝利できる能力を確保することだ」(パパロ司令官)

 パパロ司令官が言及した作戦の名は「ドローン地獄」。中国の侵攻艦隊が中国と台湾を隔てる約160キロメートルの海峡を渡り始めたらすぐに米軍は人工知能(AI)を活用した数千の無人潜水艦、無人水上艦、無人航空機で台湾海峡周辺を埋め尽くして混乱を引き起こす。

1カ月間、中国人民解放軍を惨めな状況に釘付けにする

「台湾海峡をドローン地獄にしたい。そうすれば1カ月の間、中国人民解放軍を惨めな状況に釘付けにして、米国と同盟国は台湾防御の準備を万端に整えることができる。中身は言えないが、本当だ。実施可能だ」(パパロ司令官)

 ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、中国はトルコと並ぶ世界最大の武装戦闘用ドローン輸出国だ。ウクライナ戦争で兵器として改造される民生用ドローンは中国の大手、DJI(大疆創新科技有限公司)が市場の4分の3を占める。

 中国人民解放軍海軍は米海軍を抜き、世界最大の海軍力を誇る。軍事用ドローンの軍拡競争でスピード、スケール両面で中国が大きな優位性を持つ。米国には兵器の大量生産能力が不足しており、軍需産業が寡占状態にあるため機動性・柔軟性にも欠けるという構造的な問題を抱える。

「ドローン地獄」作戦はAI搭載の使い捨て型ドローンを18〜24カ月以内に数千機生産する米国防総省のレプリケーター計画と密接に関連している。米国と台湾が中国の侵攻に備えるには量・スピード・多様性・分散性が鍵となる。レプリケーター計画はその試金石となる。

 米シンクタンクが実施した机上演習によると、中国が台湾に侵攻する前にドローン軍団が準備できていない場合、紛争が長期化する恐れがある。米海軍と空軍は大きな損失を被り、日本、韓国、フィリピンも巻き込まれるのは必至だ。

【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。

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