グリーンランドをめぐる議論が、再び国際社会の関心を集めています。2025年以降、トランプ政権は同島の取得に意欲を示しており、2026年に米国がベネズエラで軍事作戦を実施したあとには、「次はグリーンランドではないか」といった憶測も流れました。こうした見方の当否はともかく、グリーンランドは歴史的にも地政学的にも重要な位置を占めてきた地域です。本稿では、同島の歴史的経緯と北欧諸国、とりわけデンマークとの関係を整理し、グリーンランド問題の背景を考察します。
北米と欧州の中間に位置するグリーンランド
デンマーク王国の自治領である「グリーンランド」。2025年1月には、トランプ米大統領が同島の獲得に意欲を示したと報じられました。さらに2026年1月、米国がベネズエラに対して軍事作戦を実施したことを受け、「次の焦点はグリーンランドではないか」といった憶測も一部で広がっています。
面積は約216万km2と日本の約6倍。かつてはデンマーク王国の植民地でしたが、1953年に自治権が付与されました。
第二次世界大戦中にはナチス・ドイツの占領下に置かれ、その後は米国の保護下に入り、戦後にデンマークへ返還されています。なお、現在も米国は同島に軍事基地を保有しています。
トランプ大統領の発言は唐突に映る面もありますが、北米と欧州の中間に位置する地理的条件やこれまでの歴史的経緯を踏まえると、要求の是非は別として、一定の戦略的背景が存在すると考えられます。
北欧5ヵ国の税制が「似ている」歴史的理由
数年前、日本で「金融一体化税制」が議論された際には、北欧諸国に共通する「二元的所得税※」が注目され、多くの論考が発表されました。なかでもスウェーデンの税制が頻繁に取り上げられましたが、デンマークも同様の税制を採用しています。
※ 二元的所得税……労働所得と資本所得を分けて課税し、労働所得には累進税率、資本所得には一律に低税率を適用する税制方式。
また、租税条約の分野では、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデンの北欧5ヵ国による、世界初の多国間租税条約である「税務行政執行共助条約」が存在します。
これら5ヵ国は地理的に近接しているという共通点がありますが、それ以外に二元的所得税や租税条約において共同歩調をとる理由について、詳しく説明されることは多くありません。その背景には、歴史的な経緯があります。
北欧地域の多くの国は、かつてデンマーク王国の支配下にあり、その後、スウェーデンやノルウェーなどが分離独立しました。現在の北欧諸国は、デンマーク王国を起点として形成された歴史を共有しているのです。
経済的豊かさと地政学的リスクが“並存”する北欧
北欧5ヵ国に共通する特徴として、国民1人あたりGDPが高いことが挙げられます。OECD加盟国の国民負担率を見ても、下記のように北欧諸国はいずれも上位に位置しています。
・第4位……デンマーク
・第7位……フィンランド
・第9位……スウェーデン
・第16位……ノルウェー
また、1人当たりGDPの世界ランキング(2022年)は、下記のとおりです。
・第2位……ノルウェー
・第8位……アイスランド
・第9位……デンマーク
・第12位……スウェーデン
・第17位……フィンランド
・・・
第30位……日本
特にノルウェーは、北海・北極海・バレンツ海に豊富な石油・ガス資源を持ち、世界有数のエネルギー輸出国として知られています。
一方で近年、北欧諸国はウクライナ侵攻を契機としたロシアの軍事的圧力にも直面しています。加えて、デンマークにとっては、トランプ政権による高関税政策の影響も無視できない状況です。
グリーンランド問題を読み解くカギ
グリーンランド問題が今後どのように展開していくのかは、現時点では不透明です。しかし、同島が軍事戦略上きわめて重要な地域であり、歴史的にもその帰属が変遷してきた事実を踏まえると、単なる突発的な話題として片づけることはできません。
地政学、歴史、そして北欧諸国の成り立ちを理解することが、グリーンランド問題を考えるうえで不可欠であるといえるでしょう。
矢内 一好
国際課税研究
首席研究員


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