アベノミクスとは一言で言えば、日本企業を「世界基準で稼げる効率的な組織」へ作り替えるための大手術でした。その結果、企業は株主に対して積極的にお金を配るようになりましたが、一方で、新しい事業への投資や従業員の給料アップが後回しになったという課題を残しました。
1.アベノミクスの「三本目の矢」が狙ったもの
アベノミクスと聞くと、多くの人が「お金をたくさん刷って景気を良くする(金融緩和)」というイメージを持つかもしれません。しかし、実は日本経済を根本から変えようとしたのが「三本目の矢」と呼ばれる成長戦略でした。
その中核にあったのがコーポレートガバナンス(※注:企業統治。不祥事を防ぎ、持続的な成長のために会社を正しく管理する仕組み)の改革です。
当時の日本企業は、銀行からお金を借りるのが当たり前で、株主の顔をあまり見ていませんでした。また、せっかく稼いだお金を「もしもの時のため」と溜め込み、有効に使わない傾向がありました。政府はこれを「もったいない」と考え、もっと効率的にお金を使って、投資家を惹きつける魅力的な企業になるよう求めたのです。
2.注目された「ROE」という指標
改革の中で、企業が最も意識するようになった指標がROE(※注:自己資本利益率。株主から預かったお金を使って、どれだけ効率よく利益を出したかを示す指標)です。
政府や投資家から「ROEを上げなさい」と迫られた企業の経営者は、2つの方法を考えました。
めちゃくちゃ稼いで利益を増やす
溜め込んでいる無駄なお金(自己資本)を減らす
手っ取り早く指標を改善するために、多くの企業が選んだのが後者の「お金を減らす」ことでした。具体的には、事業に関係のない土地を売ったり、他社の株を売ったりして作ったお金を、配当金として株主に配ったり、自分の会社の株を市場から買い戻したりしたのです。
これを株主還元(※注:企業が稼いだ利益を、配当などの形で株主に返すこと)と呼びます。
3.20年間で「株主への配当」は9倍に
その結果、日本企業の姿は劇的に変わりました。2000年度と比較すると、株主に配るお金の総額はなんと9倍にまで膨れ上がりました。
かつての日本企業は、欧米に比べて「株主を軽視している」と言われていましたが、今や分配の割合はヨーロッパ諸国に並ぶ水準にまで達しています。これは、日本市場が国際的に見て「ちゃんとした市場」として認められる大きな一歩となりました。
しかし、ここで一つの歪みが生まれます。 株主への還元が9倍になった一方で、従業員の給料や、新しい設備への投資、研究開発費は、ほとんど増えなかったのです。
4.「引き算の経営」から「足し算の経営」へ
最近では、こうした「投資を抑えて株主にばかりお金を配る姿勢」に対して、厳しい目が向けられるようになっています。
今の日本企業は、不採算な事業を切り捨てて効率を上げる「引き算」の段階は一通り終えたと言えるでしょう。これからは、そこで身軽になった体を使って、新しい価値を生み出すために投資をする「足し算」のフェーズが求められています。
「有望な投資先がないから株主に返す」というのは、経営者としての役割を放棄しているのと同じだ、という厳しい意見も出始めています。自分たちの力で新しいビジネスチャンスを見つけ出し、そこにお金を投じ、成長した結果として、給料も配当も増えていく。そんな健全なサイクルが期待されているのです。
まとめ / 感想
・アベノミクスは、日本企業に「効率性(ROE)」を強く意識させた結果、株主への還元(配当など)は20年前の9倍にまで増えた。
・設備投資や給料アップは後回しにされてきた側面がある。
・今後は、節約や効率化だけでなく、成長のための「投資」が求められている。
アベノミクスって、なんとなく「株価が上がって景気が良くなりそうだったもの」くらいの認識でしたが、実は企業の財布の紐の結び方を変える大きなルール変更だったんですね。
配当が9倍になったと聞くとすごいと思いますが、その一方で自分たちの給料が2割程度しか増えていないというデータを見ると、なんだかモヤモヤしてしまいます。これまでは「無駄を省く」ことで褒められていた会社が、これからは「どうやってお金を使って未来を作るか」を問われる時代になったというのは、私たち働く側にとっても注目すべき変化だと感じました。



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