人生も五十路の坂にさしかかる頃になりますと、それまでの人生を振り返る機会も多くなるものです。そんなとき、己の半生を言い表す言葉を探してみるのも一興ではないでしょうか? もしかすると、先人が残した言葉や名言の中に“言い得て妙”と思えるような言葉を見つけられるかもしれません。そして、その言葉からは、己が何を信条として生きてきたのかも見えてくるのではないでしょうか。
名前さえ知らなかった人物が残した言葉。その言葉が、自分が歩んだ人生と重なる“奇遇”を体験できるかも? さて、第28回の座右の銘にしたい言葉は「色即是空(しきそくぜくう)」 です。
「色即是空」の意味
「色即是空」について、『⼩学館デジタル⼤辞泉』では、「仏語。この世にある一切の物質的なものは、そのまま空(くう)であるということ」とあります。「色即是空」は、物質的な存在が実体を持たないことを示しています。「色」は物質的な存在、「空」は無常や空無を指し、すべての現象は因果関係によって生じるものであり、固定した実体はないという教えです。
「色即是空」の由来
「色即是空」は、仏教の基本聖典『般若心経(はんにゃしんぎょう)』詳しくは『摩訶般若波羅蜜多心経』(まかはんにゃはらみったしんぎょう)の以下の一節に由来します。
色不異空、空不異色、色即是空、空即是色
【書き下し文】
色は空に異ならず、空は色に異ならず、色は即(すなわ)ちこれ空なり、空は即ちこれ色なり
【現代語訳】
色と空は別ではなく、色はそのまま空であり、空はそのまま色である
つまり、私たちが目にするすべてのものや経験が一時的なものであり、永遠ではないことを示しています。この教えは、物事の表面だけでなく、その背後にある本質を見極める重要性を説いています。シニア世代にとって、長年の経験を通じて培った洞察力をさらに深める助けとなるでしょう。
「色即是空」を座右の銘としてスピーチするなら
「色即是空」を座右の銘としてスピーチで紹介する際には、その言葉の持つ意味と自身の経験を織り交ぜると効果的です。聴衆に対して具体的なエピソードを交えることで、「色即是空」の教えがどのように実生活に役立つかを実感してもらいやすくなります。以下に「色即是空」を取り入れたスピーチの例をあげます。
リタイア後の心の支えについてのスピーチ例
皆さん、こんにちは。今日は私が座右の銘として大切にしている「色即是空」という言葉についてお話しさせていただきます。「色即是空」とは、この世のすべての現象が無常であり、実体がないという仏教の教えです。
私自身、リタイア後の生活を迎えたとき、この言葉に救われました。長年の仕事から解放され、新たな時間ができましたが、その一方で何をすべきか迷う日々が続きました。そのとき、「色即是空」を思い出し、物事に執着せず、柔軟に新しいことに挑戦しようと決めたのです。
例えば、ガーデニングを始めたのもそのひとつです。最初は失敗も多かったですが、「色即是空」の教えを心に留め、結果にこだわらず楽しむことを心がけました。その結果、庭には美しい花々が咲き、日々の喜びとなっています。
このように、「色即是空」は、私たちが新しい挑戦や変化を迎える際に、心の安定をもたらし、前向きに進む力を与えてくれる言葉です。皆さんもぜひ、この教えを日々の生活に取り入れ、豊かな人生を送っていただければと思います。
まとめ
「色即是空」は、シニア世代の座右の銘として最適な言葉です。この言葉は、人生の変化に対する柔軟な心構えを持つことを教えてくれます。仏教の深い教えに基づくこの言葉を心に留めることで、日々の生活において心の平安を保つことができるでしょう。ぜひ、皆さんも「色即是空」を座右の銘として取り入れ、豊かな人生を送る一助としてみてください。
●執筆/武田さゆり
国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com
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