中東情勢に揺れる米国経済のリアル 「エネルギー自立」の限界、理論上の自給率100%でも | きばいやんせ!鹿児島

中東情勢に揺れる米国経済のリアル 「エネルギー自立」の限界、理論上の自給率100%でも

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米カリフォルニア州ロサンゼルスのガソリンスタンドに掲示されたガソリン価格。2026年3月3日撮影(Mario Tama/Getty Images)

3月9日のアジア取引時間中に1バレル=119.54ドルまで高騰した原油価格は、イランがレバノンでの停戦を受けて今月17日にホルムズ海峡の開放を発表すると89.88ドルまで急落した。中東紛争の先行きはいまだ不透明で誰にも予測はつかないが、情勢の変化に応じて原油価格が乱高下を続けるのは間違いない。

ドナルド・トランプ米大統領にしてみれば、米政権は不誠実で決然とした狂信的なイスラム革命防衛隊との戦いにおいて、降りかかる困難を巧みにかわし続けているつもりかもしれない。しかし、その動きは多くの観測筋にとってはむしろ、エネルギー価格の高騰に伴う経済的・政治的反発への恐れと、イランの核開発に向けた野心を完全に断ち切る必要性との間で、右往左往しているように見える。

JPモルガン・プライベートバンクによれば、米国は数年前に「エネルギー自立」を達成しており、理論上は国内生産のみでの自給自足が可能だ。実際、1973年のアラブ産油国による石油輸出禁止に起因する第1次石油危機や1979年の第2次石油危機の際とは異なり、今回はガソリンが配給制になることも、ガソリンスタンドに長蛇の列ができることもない。

しかし、ガソリンの小売価格は値上がりしており、政治家や経済学者たちは遠く離れたインド洋とホルムズ海峡を結ぶ重要な要衝の命運を固唾を呑んで見守っている。米国のエネルギー自立には限界があり、原油価格にも投資にも貿易の流れにも、世界の動きが影響する現代において、その限界に知らぬふりをしても無駄である。

ガソリンスタンドに及ぶイラン攻撃の影響

不都合な真実がある。米国内で生産された原油でも、価格は世界基準で決まる。

米国は2025年、過去最高となる日量1360万バレルの原油を生産し、これは世界供給量の約22%を占めた。これらの数字は緩衝材になりそうに思えるかもしれないが、実際には原油価格は世界市場で決定される。米ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)とロンドンのICE(インターコンチネンタル取引所)フューチャーズヨーロッパが2大取引プラットフォームであり、それぞれWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)原油先物とブレント原油先物が世界の原油価格の指標となっている。これらの金融センターの他に、シンガポールがアジアにおける物流・交易の集約拠点となっており、その戦略的立地ゆえに世界の石油貿易と石油製品の3分の1を扱っている。インフラへの攻撃や航路の封鎖といった混乱が、世界中の原油の指標価格に影響を及ぼすことははっきりしている。

WTIとはすなわち米国産原油のことであり、その値動きは同じく世界標準であるブレント原油と密接に連動している。ペルシャ湾での紛争によって石油供給が脅かされると、ブレント価格は上昇し、WTIも追随する。原油価格が上昇すれば、すぐにガソリン価格も上がる。

この10年間で米国はエネルギー生産の国際舞台に力強く復帰し、世界最大の産油国となった。2015年に米国は原油輸出禁止措置を解除し、国内の生産者に世界市場への自由参入を容認した。この政策転換により、米国は原油生産とエネルギー備蓄を幅広い経済成長につなげ、それを外交政策の手段として有効活用できるようになった。それから10年を経た今、エネルギー輸出は米国の国際的な政策手段の中で重要な位置を占めており、その規模は月間約270億ドル(約4兆3000億円)に達している。

ただ、規制の撤廃により、かつて米国の石油価格を世界的なショックの直撃から守っていた緩衝材はなくなった。今や米国産の石油が海外へと流れる一方で、世界の価格変動は米国内に流入している。たとえテキサス州で採掘された石油でも、その価格はテヘランのリスクを反映するのだ。

石油危機の打撃、最も深刻なのはアフリカとアジア

石油価格は買い手を選ばない。豊かな先進国であろうと苦境にある発展途上国であろうと、価格は同じだ。米国の消費者は、高額な燃料税が課される欧州よりもかなり安いガソリン価格の恩恵を受けているが、それでも給油や食品価格、インフレ急騰などの形でエネルギー価格高騰の痛手を感じている。だからこそ、原油価格の上昇は日常的な経済活動に影響し、投票行動にも波及するのである。戦争が政治化の度合いを強めている今はなおさらだ。とはいえ、米国の消費者は最も厳しい状況に置かれているわけではない。世界市場における石油危機の影響は不均等である。

今後、最も深刻な打撃を受けるのは、サハラ以南のアフリカで苦境にあえぐ国々だろう。原油価格の変動は、農業の機械化をめざして苦闘を続ける各国の経済にとりわけ深刻な影響を及ぼすに違いない。これらの国々では石油消費量が比較的少なく、豊富な備蓄があったからこそ、これまで大惨事は回避されてきた。

また、アジア各国は石油消費量が多く備蓄が少ないため、今回の供給混乱でたちまち大きなダメージが広がっている。より深刻なのはホルムズ海峡を経由する石油輸送への依存度で、日本は輸入原油の95%、韓国は70%をそれぞれ湾岸地域に頼っており、極めて高いリスクにさらされている。価格上昇はこの脆弱性を反映している。大規模な戦略石油備蓄を持たないカンボジア、ベトナム、パキスタンでは、米国よりもはるかに急激な燃料コストの高騰が起こっている。この事態は巨大なアジアの製造セクターを圧迫し、その影響は世界に及ぶだろう。

「エネルギー自立」とは何か

米国における「エネルギー自立」の概念は、米国が輸入するエネルギーの総量よりも多くのエネルギーを輸出することを意味する。しかし、米国は孤立して機能しているわけではない。米国内の石油消費が日量約2000万バレルに上る一方で、生産量は日量1300万バレル程度にとどまっている。不足分の700万バレルは輸入で補われ、特に重質原油が多くを占める。これにはベネズエラ産が含まれ、メキシコ湾岸に製油所が集まっている。同時に、米国は軽質原油を大量に世界市場へ輸出している。この双方向貿易は効率を重視したものであり、自給自足が目的ではない。

天然ガスも同様の状況だ。米国は世界的な天然ガス産出国で、メキシコへ輸出したり、液化天然ガス(LNG)として海外へ大量輸出したりしているにもかかわらず、生産地の地理的制約から、米北東部への供給分はカナダから輸入している。この仕組みの背景には、LNGの液化・輸出ターミナルにガス田から供給パイプラインを引く必要があるというインフラの制約や、地域ごとの需要差がある。

消費者にとってみれば、エネルギー価格の上昇は増税のようなものだ。消費や生産、物流を鈍化させ、ひいては経済成長を阻害する。また、インフレを助長し、世界経済を弱体化させる。

投資家はこうしたサイクルを注視している。供給ショック時にはエネルギー関連株がしばしば好調となる一方、航空、海運、製造業など燃料コストに敏感な業界は逆風に直面する。

世界の動向に遅れを取る米エネルギー政策

石油危機に政策面で対処する手段は限られている。国際エネルギー機関(IEA)主導で最近行われた戦略的石油備蓄の放出のような協調的取り組みは、一時的な価格安定をもたらすが、大規模な供給危機が収まらない限り、長期的な解決策とはならない。トランプ政権はまた、政治的な便宜ではなく将来の地政学的緊急事態に備えて、価格がさらに下落した際に備蓄を補充すべき時期を決定する必要がある。

今回の石油危機において米政府が取れる追加的な政策措置としては、低所得者層を対象とした消費者保護、製油所やパイプラインなどのインフラの認可拡大、そして採算性のある代替エネルギー発電設備、すなわち石油依存と排出量を全体的に削減できるグリーンエネルギーと原子力エネルギーなどの導入加速などが考えられる。

幸いなことに、米国はかつてないほど大量の石油とガスを生産している。だが、炭化水素が世界的に取引される商品である限り、1ガロンのガソリンにも地政学的リスクは内在し続ける。エネルギー価格の乱高下は、当面の間続くだろう。

forbes.com原文

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