コマ:彗星の本体を取り巻くガスやダストによって、ぼんやりと輝いて見える部分。
画像:中解像度(2000 x 1265) 高解像度(5500 x 3480)
紫金山・アトラス彗星が見ごろを迎える
2023年1月に発見された彗星(すいせい)、Tsuchinshan-ATLAS彗星(注1)(C/2023 A3 (Tsuchinshan-ATLAS)、本記事では「紫金山・アトラス彗星」と表記)が、2024年10月に見ごろを迎えます。この彗星は、発見当初、とても明るい彗星となることが期待されていました。その後彗星の状況は変化し、当初の期待のようには明るくならないものの、暗い空であれば肉眼でかすかな姿を観察できそうです。位置や予想される明るさの情報を紹介します。
(注1)しばしば「ツーチンシャン・アトラス彗星」と呼ばれます(他の表記や読み方もあります)。また彗星の名前の由来となった紫金山天文台について、国内ではこれまで「しきんざんてんもんだい」と呼ぶ場合が多かったため、この彗星の場合も「しきんざん・アトラス彗星」と呼ばれることがあります。
紫金山・アトラス彗星の概況
紫金山・アトラス彗星は、2023年1月に発見された彗星で、2024年9月27日(世界時。日本時では28日)に近日点を通過(太陽に最も接近)しました。このときの彗星と太陽の距離は0.39天文単位(約5900万キロメートル)で、近日点通過前後の時期で彗星活動(注2)がピークを迎えたものと予想されます。ただし、彗星の見かけの位置は太陽にかなり近く、肉眼で観察するのは困難でした(※日によっては、明け方の低空で双眼鏡などを用いて観察されたり、写真撮影されたりしました)。
地球への最接近は10月12日(世界時。日本時では13日)で、この時の彗星と地球の距離は0.47天文単位(約7100万キロメートル)です。ちょうどこの頃から、彗星の見かけの位置が太陽から離れて夕方の西の低い空で観察できるようになります。空の暗い場所であれば、肉眼でかすかに見えるかもしれません。市街地では肉眼で見るのは難しそうですが、適切に設定したカメラで撮影することでぼんやりとした姿を写すことができそうです。10月下旬以降は、彗星が太陽からも地球からも遠ざかっていき、徐々に暗くなっていきます。
(注2)彗星は、氷(水、一酸化炭素、二酸化炭素などが凍ったもの)とダスト(ちり)が混じった天体です。彗星が太陽に近づき、太陽の熱によって氷がガス(気体)になる(昇華する)ときに、ガス自体やダストが彗星から放出されます。このような一連の現象を彗星活動と言います。一般的に太陽に近づくほど彗星活動は活発になり、明るくなります。
紫金山・アトラス彗星の見える位置と明るさ
紫金山・アトラス彗星は、星空の中を日々移動していくため、観察する日により位置が変わっていきます。また明るさも日々変化していきます。
「今日のほしぞら 」(暦計算室)では、指定した日時における紫金山・アトラス彗星の見える方角や地平線からの高度を調べることができますので、観察の参考にしてください。
10月12日から10月15日頃(夕方の超低空)
10月中旬に入ると、彗星の見かけの位置が太陽から離れ始め、夕方のたいへん低い空ではありますが観察できるようになります。ただし、日の入り1時間後の彗星の地平高度が10月12日ではわずかに1度(西)です(東京の場合、以下同じ)。日を追うごとに高度が上がりますが、10月15日でも14度(西)と低く、この時期の観察は相当難しいものと思われます。
彗星の明るさは、1.5等から3等が期待されます(予想等級、以下同じ)。6等よりも明るければ肉眼で見える明るさ(注3)ですが(十分に暗い空の場合)、彗星の位置する西の低空は、薄明が残り空がほの明るかったり、また地上の明かりやもやなどの影響を受けたりして、この時期における肉眼での観察は容易ではありません。望遠鏡や双眼鏡を使うと見える可能性が高くなりますが、それでも簡単ではないでしょう。明るく輝く金星などを目印に、少し早めの時間帯から探してみましょう。
なお、適切な設定をしたカメラでは写すことができると思われますが、設定を探りながら撮影する必要がありそうです。
(注3)彗星はぼんやりと見える天体です。彗星の明るさは、ぼんやりと広がった光を集めた全体の光量で等級を表すため、点状に光る恒星の明るさとは性質が少々異なります。同じ明るさの恒星と比較すると、特に空の条件が悪いときには極端に見えづらくなります。
※明るさは予想等級です。彗星の状況により、これより明るくなる場合や暗くなる場合があります。
10月16日から10月20日頃(夕方の低空)
10月16日頃からは彗星の高度がやや高くなります。明るさもまずまずで、彗星が最も観察しやすくなる時期だと予想されます。日の入り1時間後の彗星の高度は、10月16日に17度(西南西)で、10月20日には28度(西南西)まで高くなります。
明るさは若干暗くなり、2等から4等程度と予想されます。空の暗い場所であれば、かすかではありますが肉眼でぼんやりとした姿が見えることが期待されます。双眼鏡や望遠鏡を使うと、肉眼より観察しやすくなるでしょう。
また、適切な設定をしたカメラでは、彗星の姿を撮影することができそうです。彗星の尾が伸びることも期待されますので、構図を工夫するなどしてチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
※明るさは予想等級です。彗星の状況により、これより明るくなる場合や暗くなる場合があります。
10月21日から10月31日頃(夕方の空)
この時期の彗星は、夕方の空でやや高くなり、低空のもやなどの影響をうけにくくなります。ただし、彗星自体は太陽からも地球からも遠ざかることで、約3等から6等程度と暗くなり、暗い空であっても肉眼で観察するのは少しずつ難しくなるでしょう。双眼鏡や望遠鏡では、引き続き観察することができそうです。
適切な設定をしたカメラでは撮影できるものと考えられますが、少しずつ暗くなることで写りにくくなり、また彗星が遠ざかるため像が少しずつ小さく写るようになります。
※明るさは予想等級です。彗星の状況により、これより明るくなる場合や暗くなる場合があります。
紫金山・アトラス彗星の基本情報
紫金山・アトラス彗星は、2023年1月に発見された彗星です。1月9日に中国の紫金山天文台の施設で発見されましたが、当初は確認の観測がされなかったため、しばらくしてこの観測報告が削除されてしまいました。その後、ATLAS(注4)によって2023年2月22日に発見された小惑星状の天体が、その後彗星の外観をしていることがわかり、さらに紫金山天文台で発見された天体と同じ天体であることも判明しました。この結果、C/2023 A3の符号が付与され、Tsuchinshan-ATLAS(紫金山・アトラス)彗星と命名されました。
発見当初から2024年4月頃までの明るさの変化から、最も明るい時にはマイナス等級になり大彗星となることが期待されていました。しかしその後、2024年5月から7月までほとんど増光せず、この期間の彗星活動はほとんど止まっていたものと考えられています。現在は彗星活動が再び活発化し、太陽への接近に伴い増光していく様子が観測されています(2024年9月下旬現在)。
彗星は、放物線に近い軌道を描いており、オールトの雲(注5)から来た彗星だと考えられます。今回の回帰の際に惑星などの引力の影響を受け、現在の軌道はわずかに変化し、双曲線軌道となっています。このため、ゆくゆくは太陽系の外に出て行き、二度と戻らないと推測されます。
(注4)「ATLAS」は、Asteroid Terrestrial-Impact Last Alert System の略称で、地球に衝突するような小惑星を早期に発見し警報するシステムです。ハワイ、チリ、南アフリカにある望遠鏡で、移動する天体を捜索・発見していて、紫金山・アトラス彗星は、南アフリカにある望遠鏡で発見されました。
(注5)太陽系の外側・太陽から数万天文単位付近をぐるりと大きく球殻状に取り囲む氷微惑星の集まりで、紫金山・アトラス彗星のような長周期彗星は、ここからやってくると考えられています。
国立天文台が撮影した紫金山・アトラス彗星
2024年10月13日夕方の紫金山・アトラス彗星(C/2023 A3)。神奈川県にて撮影。肉眼でも確認できた。(クレジット:長山省吾)
中サイズ(2456 × 3680/672KB) オリジナルサイズ(4912 × 7360/24MB)2024年10月2日の明け方の紫金山・アトラス彗星(C/2023 A3)。
千葉県勝浦市にて撮影。肉眼では見えなかった。(クレジット:内藤誠一郎)
オリジナルサイズ(1920 × 1440/214KB)2024年5月10日に国立天文台三鷹の50センチ公開望遠鏡で撮影した紫金山・アトラス彗星(C/2023 A3)。(クレジット:国立天文台)
オリジナルサイズ(1996 × 1316/534KB)
ライブ配信
国立天文台では、2024年10月15日に紫金山・アトラス彗星のライブ配信を行いました。アーカイブ映像が以下からご覧になれます。
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ニコニコ生放送
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