通夜や葬儀をしない「直葬」。デメリットも留意したい(イメージ)
コスパ・タイパが強く意識される時代だが、それは葬式事情でも同じである。むしろ、「要・不要」を重視するなら、もっとも割を食っている業界の一つだといってもいいかもしれない――。
都市部を中心に増えているのが通夜・葬儀を行わない直葬(ちょくそう)だ。ただし直葬は「安くて簡単」だと思われがちな一方で、費用や菩提寺との関係をめぐるトラブルも少なくない。直葬のメリット・デメリットを、葬儀業界歴約30年、1級葬祭ディレクターの赤城啓昭氏が解説する。【前後編の前編】
親族から不満「せめて事前に相談してほしかった」
「俺が死んだら、葬式にはお金をかけなくていいから。火葬だけで十分だ」
東京都内の物流会社で契約社員として働く男性・木下さん(52歳)の父親は、「なるべく金をかけるな」と言い残して亡くなりました。そのため、喪主となる木下さんは迷わずに「直葬」を決定。ネットで「直葬○万円」「火葬式○万円」といった広告を出していた葬儀社のうち、もっとも安い価格のところに連絡しました。
そして葬儀社から渡された見積書をふまえ、木下さんは「葬儀代は大体25万円ぐらいかな」と思っていましたが、火葬が終わり届いた請求書を見ると、想定外の追加費用が発生し、30万円を超えていたのです。一つひとつは必要な費用に思えましたが、木下さんは追加費用が、どの条件で発生するのかを十分に確認していませんでした。後ほど詳しく解説します。
さらに木下さんを困らせたのは、親族から寄せられた不満の声でした。
「どうして葬式をしなかったのか」
「せめて事前に相談してほしかった」
木下さんとしては父親の希望をかなえたつもりでしたが、親族には納得してもらえず、後味の悪い葬儀となってしまいました。
直葬は宗教儀式をカットし最低限の火葬だけをする方法
直葬とは、「宗教儀式を行わず身内のみで火葬だけを行う」ことです。葬儀社によっては「火葬式」と呼んでいるところもあります。
通常のお葬式は、死亡→安置(故人にドライアイスを当てて状態を保つ)→打ち合わせ(葬儀屋さんと遺族で葬儀の内容を決める)→納棺(故人を棺に納める)→通夜(僧侶がお経をあげる)→葬儀(僧侶がお経をあげた後、火葬場へ向かう)→火葬(遺骨を拾う)という流れです。
直葬はこのうち、通夜と葬儀を省きます。これらは宗教儀式なので、もともと行うかどうかは個人の自由なのです。ただし火葬は法律や条例に基づいて、原則行わなければなりません。つまり直葬とは、宗教儀式はカットし、最低限の火葬だけをする方法だと言えます。
「直葬」を選ぶ人、3パターン
「直葬」を考える人の第一の理由は、「なるべく費用を抑えたい」です。物価高や老後資金への不安から、削れるものは削りたいと考えるのは当然ではあります。
通常のお葬式では、式場使用料、祭壇、食事、返礼品、お布施など、さまざまな費用が発生します。都市部では、小規模な仏式の葬儀でも100万円を超えるのは珍しくありません。一方、直葬であれば、火葬料金込みで30万円ぐらい。場合によっては20万円を切ることもあります。もちろん地域や火葬場、葬儀社によって差はありますが、費用を抑えやすい形式であることは確かです。
2つ目は、参列者を広く呼ぶ必要がない人です。
お葬式には、亡くなったことを社会的に知らせて、関係者が最後のお別れをするという役割があります。しかし最近は、親族、会社、近所のつきあいが疎遠になる傾向にあり、広く参列者を呼ぶ必要性も低くなっているので、「直葬でいいか」という人が出てきます。
3つ目は、通夜や葬儀といった宗教儀式を行う必要性を、故人または喪主が感じていないケースです。
かつて「葬儀にはお坊さんを呼ぶもの」という意識が強くありました。しかし、核家族化が進み、日常生活でお寺との付き合いが少なくなっている家庭では、葬儀のときだけお坊さんを呼ぶことに違和感を持つ人もいます。そのような人の目に、直葬は合理的に映るでしょう。
このように、葬儀費用を抑えたい、広く参列者を呼ぶ必要がない、宗教儀式を重視していないという人にとって、直葬は現実的な選択肢なのです。
直葬のメリット
次に直葬のメリットについて解説します。
最大のメリットはやはり葬儀費用を抑えられることでしょう。費用のくわしい解説は後編で行います。
対外的な対応をしなくていいのもメリットです。訃報連絡、受付、参列者への挨拶、香典整理、返礼品の送付など、遺族が対応すべきことはたくさんあります。大切な人を亡くした直後、これらをこなすのは大きな負担になるという遺族は多いでしょう。直葬であれば外部対応はかなり少なく、遺族の負担も減らせます。
さらに、火葬場の予約が取りやすい点が挙げられます。通常のお葬式は、日中に火葬を行うため、お昼前後の時間帯の火葬場が混みやすくなります。その結果、予約が取れずにお葬式の日程を延期せざるを得ない場合があります。一方直葬であれば葬儀の必要がないため、朝の早い時間や午後の遅い時間帯など、柔軟な日程調整が可能です。
直葬のデメリット
次は直葬のデメリットについてです。
菩提寺(その宗派を信仰し、お墓のある寺)がある場合、反対されるケースが多いと思われます。おそらく住職から、「菩提寺の宗派を信仰するということで檀家になっているのだから、戒名を付けて、通夜葬儀という宗教儀式を行うべきでは」とたしなめられるでしょう。
ここで住職を説得しないといけないのは厄介です。「人を呼ぶのが面倒」とか「信仰心がない」という言い方は避け、経済的な理由を前面に出して説得したほうが、納得してもらえる確率が上がると思います。ちなみに菩提寺に話を通さず直葬を行って、後々もめることになった遺族の話をしばしば耳にするので、必ず“筋”は通しておきましょう。
次に、木下さんのように、親族の中にお別れが十分にできなかったという不満を持つ人が出るリスクを抱えるのも、デメリットです。
通夜や葬儀を行うことで、遺族や親族は、故人と十分なお別れの時間を持つことができます。読経を聞き、焼香をし、棺に花を入れ、参列者から故人の思い出を聞く。その一つひとつが、死を受け止める時間になります。
しかし直葬は、その過程を省きます。そのため、故人が直葬を望み、喪主が納得して行ったケースでも、後から「もう少し何かしてあげればよかった」「せめて戒名だけでも付けたい」という意見が親族の中から出ることがあります。後で何か言いそうな人に対しては、訃報を伝える段階で「故人の遺志だった」と事情を説明しておきましょう。
このように直葬は費用面や負担の軽減の面からは合理的でも、親族や菩提寺との間でトラブルになる可能性があることは知っておいてもよさそうです。
後編では、直葬費用を安くする方法と、失敗しないためのポイントをくわしく解説します。
▼▼▼後編記事▼▼▼
【つづきを読む→】通夜・葬儀なしの「直葬」で失敗しないためのノウハウ 「本当にかかる費用の内訳」「見積書の見方」「葬儀社の選び方」を解説
【プロフィール】
赤城啓昭(あかぎ・ひろあき):1級葬祭ディレクター。葬儀業界歴約30年。運営する「考える葬儀屋さんのブログ」は月間45万PVを達成し、ライブドアブログ OF THE YEARを受賞。近著に「子供に迷惑をかけないお葬式の教科書」。テレビ、新聞、雑誌、YouTubeなどでも葬儀現場の正しい情報をわかりやすく発信中。
ブログ:https://kangaerusougiyasan.com/
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