
国民年金保険料の未納リスクは、本人だけの問題にとどまりません。配偶者や世帯主にも「連帯納付義務」が定められており、子の未納によって親の財産が差し押さえの対象となるケースもあります。本記事では、日本年金機構から届いた〈赤封筒〉を機に娘の未納が発覚した60代夫婦の事例を通じ、子どもの年金未納が家族に及ぼす影響と対処法について辻本剛士CFPが解説します。
年金月27万円、住宅ローン完済…穏やかな老後を送る68歳夫婦の「自慢の娘」
ヨシタケさん(仮名・68歳)は、同い年の妻・カナコさん(仮名)と娘・ミホさん(仮名・32歳)と3人で暮らしています。現在は年金収入で生活しており、受給額は夫婦合わせて月約27万円。貯金も1,000万円ほどあります。
自宅の住宅ローンはすでに完済しており、住居費の負担もほとんどありません。毎月の収支が赤字になることはほとんどなく、穏やかな老後を送っていました。
そして、ヨシタケさん夫婦がもうひとつ安心していたのが、一人娘のミホさんの存在です。
ミホさんは大学を卒業して以来、東京にある大手企業で正社員として働いていました。平日は実家から東京の事務所へ通い、在宅勤務の日には自室でパソコンに向かっています。
大学を卒業してから同じ会社で働き続けているミホさんは、ヨシタケさんにとって自慢の娘でした。「仕事も順調そうだし、あの子の将来は心配ないだろう」と、ヨシタケさんは信じていました。
ある日のこと。ヨシタケさんの自宅に、日本年金機構からミホさん宛ての封筒が届きました。ヨシタケさんが封筒を渡すと、ミホさんは「あとで確認しておく」と、自分の部屋へ持っていきました。
ところが、それからしばらくして、今度は住民票上の世帯主であるヨシタケさん宛てに、日本年金機構から赤い封筒が届きました。
日本年金機構から突然届いた〈赤い封筒〉…大手企業で働く32歳娘の「まさかの告白」
「なんだこれは……」
封筒の中身には、ミホさんの国民年金保険料が未納になっていることや、指定期限までに納付しなければ、財産を差し押さえられる可能性があることが記されていました。
ミホさんに問い詰めると「本当は、もう会社を辞めているの。年金も払えなかった……」と、うつむきながら答えました。
なんと、ミホさんは大手企業をすでに退職していたというのです。現在はクラウドソーシングなどを通じて、業務委託の仕事を請け負っている事実が発覚しました。
ヨシタケさんたちには「在宅勤務が増えた」と説明し、仕事のない日もカフェやコワーキングスペースへ出かけて案件を探していました。しかし、仕事量によって収入が変わるため、最近では国民年金保険料を納付できるほどの収入はなかったといいます。
「どうしてもっと早く相談しなかったんだ」
「大きな会社に入ったことを、ずっと喜んでくれていたでしょう。辞めたなんて、どうしても言えなかったの……」
ミホさんの退職も、年金の滞納も、ヨシタケさんには初耳でした。このまま納付できなければ、ミホさんだけでなく、連帯納付義務者である自分の財産まで差し押さえられるかもしれません。
穏やかだった夫婦の生活に、突然、大きな不安が押し寄せてきました。
【CFPが解説】子どもの「年金未納」で親の財産没収…「連帯納付義務」の落とし穴
20歳以上60歳未満の人は原則として国民年金に加入します。20歳から60歳までの40年間、すべての保険料を納めた場合、令和8年度の老齢基礎年金は年額84万7,296円です。
会社員であれば厚生年金保険料が給与から差し引かれますが、個人事業主やフリーランスなどの国民年金第1号被保険者は、自分で国民年金保険料を納めなければなりません。
そのため、収入減少などをきっかけに納付が難しくなり、未納が続いてしまうケースも少なくありません。もし、国民年金保険料を納付期限までに支払わなければ、最終催告状や督促状が送付され、最終的には預貯金や給与などの財産を差し押さえられる可能性があります。
厚生労働省の資料によると、令和6年度に行われた財産差し押さえは2万6,797件でした。
出典:「厚生労働省 令和6年度の国民年金の加入・保険料納付状況を公表します」を参考に筆者作成
また、国民年金保険料には、本人だけでなく、配偶者と世帯主にも連帯納付義務があります。今回のミホさんのように親が世帯主になっている場合、子どもの未納保険料について親にも督促状が送られ、親の財産が差し押さえの対象になる可能性もあります。
貯金を取り崩して滞納分を肩代わり…年金未納は放置せず「免除・納付猶予制度」も視野に
ヨシタケさんは、ミホさんを最寄りの年金事務所へ行かせ、未納期間や保険料額を確認させました。しかし、収入が不安定なミホさんには、滞納分を支払えるだけのお金がありません。
このままでは、自分たちの財産まで差し押さえられる可能性があります。夫婦で話し合った末、貯金1,000万円の一部を取り崩し、滞納分を肩代わりすることにしました。ミホさんは「必ず立て直すから」と頭を下げます。
ヨシタケさんは肩代わりする代わりに、半年以内を目安に安定した仕事を探し、今後の国民年金保険料は自分で納めるよう約束させました。
国民年金には、収入がない、あるいは収入が少ない人などを対象とした保険料免除制度や納付猶予制度があります。保険料の納付が難しい場合は、未納のまま放置せず、住所地を管轄する年金事務所や市区町村の国民年金窓口へ相談しましょう。
辻本 剛士
神戸・辻本FP合同会社
代表/CFP
※個人情報保護の観点から、登場人物の情報を一部変更しています。


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