「日本円は紙くずになる」!?…デフレに悩まされ続けた日本国民が次に直面する「インフレの悪夢」

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2024年7月10日、日経平均株価は史上最高値の4万2224円2銭を記録した。その一方で、8月には過去最大の暴落幅を記録し、株価乱高下の時代に突入している。インフレ時代の今、自分の資産を守り抜いていくために私たちはどのような対策をすべきなのか。NVIDIA急成長の背景や新NISAとの向き合い方を見直しながら、日本経済の未来について考えていかなくてはならない。

本連載では世界的経済アナリストのエミン・ユルマズ氏と第一生命経済研究所の​永濱利廣氏が語る日本経済復活のシナリオを、『「エブリシング・バブル」リスクの深層』より一部抜粋・再編集してお届けする。

「デフレ」と「インフレ」どちらが怖いのか

エミン:エミン・ユルマズ。トルコ出身のエコノミスト・グローバルストラテジスト。レディーバードキャピタル代表。1996年に国際生物学オリンピック優勝。1997年に日本に留学し東京大学理科一類合格、工学部卒業。同大学院にて生命工学修士取得。2006年野村證券に入社し、M&Aアドバイザリー業務に携わった。現在各種メディアに出演しているほか、全国のセミナーに登壇。

永濱:永濱利廣(ナガハマ トシヒロ)。第一生命経済研究所首席エコノミスト。1995年第一生命保険入社。98年より日本経済研究センター出向。2000年より第一生命経済研究所経済調査部、16年より現職。景気循環学会常務理事、衆議院調査局内閣調査室客員調査員などを務める。

エミン:年配の経済専門家の方とお話しすると、円安進行をマイナスと見ない人が多い印象です。1985年のプラザ合意以降、日本経済が円高とアメリカとの貿易摩擦によって痛めつけられた記憶があるのと、「デフレの悪夢」の印象が強いからでしょう。

日本はこれまでずっとデフレに悩まされていました。それがようやくインフレになってきたのに、利上げをしたらまたデフレに逆戻りだ、という懸念があるのです。

植田総裁もきっとそのイメージを強く持っているのではないでしょうか。

それ自体は理解できます。ただ、一方で「インフレの怖さ」も認識してもらいたい。

こう思うのは私がトルコで育ったせいかもしれませんが、インフレをコントロールするのは至難の業なのです。ある意味、モンスターのようなもので、ひとたび檻から出すと、もう手に負えない。でも、日本の金融当局は「いまのインフレは何もしなくてもどこかで止まる」と思っているように見える。

永濱:円の下げ方はトルコリラのようでしたね。

エミン:日銀の立場もわかるし、デフレの恐怖も理解できる。アメリカのFRBがやったような急激な利上げをやれとは言わない。

ただ、最近の日銀はあまりにもハト派的、円安容認のメッセージを出しすぎていた。ちょっと黙ってほしいと思う瞬間は多々ありました。

永濱:たしかに、植田総裁の発言は予想外でした。

「日本円は紙くずになる」の嘘

永濱:「日銀は利上げできない、だから日本円は紙くずになる」という観測もあります。日銀は異次元緩和で大量の国債を買っています。ただ、国債は金利が上がると価格が下がるため、利上げすると、日銀のバランスシート上の資産が減ることになります。もっとも、日銀は国債の時価評価を採用していないのですが。

一方、日銀には各金融機関から資金を預かっている「当座預金」がありますが、金利が高くなると、その分利子をより多く払う必要があります。金利が高くなると、利払いが日銀の収入を上回る「逆ザヤ」になります。そのため、利上げすると日銀が債務超過に陥ると心配する向きもあります。

ただ、一般企業とは違い、貨幣を発行できる中央銀行は債務超過でも問題ありません。実際、アメリカのFRBや、オーストラリア準備銀行は利上げに伴い債務超過に陥りましたが、特に何も起きていません。

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エミン:「日本円が紙くず論」は一部の論者が言っていることですが、彼らの真意は「日銀が債務超過で潰れる」という点ではないようです。要するに、そういう苦しい状況になれば、政府が日銀に資金を注入しなければならなくなる。そのために円をもっと発行することになるが、それは金融緩和と同じこと。だから利上げしても円安を止められない、ということのようです。

たしかに一理ありますが、私はそこまで悲観的ではありません。なぜなら、世界の中央銀行はみな同じような状況にあるから。この状況で日本円だけが独歩安になるとは思えない。むしろ巨額の外貨準備高を持つ日本は、他国に比べると「通貨が紙くずになる」リスクが低い気がします。

円高進行への兆し

永濱:そうですね。日本の対外純資産は約470兆円と、世界最大ですから。

エミン:そうそう。日本がそんな事態になるなら、トルコはもっとひどいことになっていますよ(笑)。トルコの外貨準備は10兆円以上のマイナスですから。それでもトルコは国として機能している。日本はまったく心配する必要はありません。

もう一つ、いまの状況が永遠に続くわけではありません。いずれアメリカはどこかのタイミングで利下げしてきます。それに合わせて日本も引き締め的に動けば、ドル円相場は反転して円高方向に動くでしょう。

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たしかに利上げすれば、日銀のバランスシートは悪化します。債務超過になるかもしれませんが、それは一時的なもの。だから本来日銀はもっと機動的に金利を上げたり下げたりできるはずなのですが。

『「アベノミクスの真価が問われる」…日銀がどうしても避けたい異次元の金融緩和の「最悪の結末」とは』へ続く

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